その熱狂が、世界を変える。Microsoft AI Tour 産業別セッションレポート【流通・消費財】〜リテールと AI との組み合わせで DX のポテンシャルを解放する〜
AI 元年とも呼べる 2023 年から AI ソリューションの進化は止まることを知らず、全世界をうねりに巻き込んでいます。もはや AI が、インターネットやスマートフォンと同じく、世界を変革する新たなインフラになることは間違いないでしょう。
Microsoft ではこの動きをさらに加速すべく、「ビジネスの変革」をテーマとして世界 11 都市で Microsoft AI Tour を開催。各地で意思決定者及び開発者向けの多彩なプログラムが展開され、大きな盛り上がりを見せています。
2023 年 9 月 13 日の米国ニューヨークを皮切りとして世界中を巡回するこの Microsoft AI Tour は、2024 年 2 月 20 日に日本に上陸しました。会場となった東京ビッグサイトには開催を待ちかねた大勢の方々が押し寄せ、まさに熱狂の 1 日となりました。
本ブログ記事では、基調講演、及び、その後行われた流通・消費財に関するセッションについてご紹介します。動画視聴リンクもございますのでぜひご覧ください。
基調講演
「AI トランスフォーメーションと変革を推進する Microsoft Cloud」
基調講演には、3000 名を超える来場者のほとんどが参加し、会場は熱気に包まれました。冒頭、日本マイクロソフト代表取締役社長の津坂美樹は、このイベントの目的を「AI の力でビジネスの成長を加速し、新たなソリューションやノウハウの交換を促進すること」であると語り、「Copilot は、Microsoft のミッションである “地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする” をまさに体現するプロダクト。今日から “AI 筋力” をつけるために Copilot を使い続けてほしい」と挨拶しました。
続いて登壇した Microsoft エグゼクティブ バイス プレジデント兼チーフマーケティングオフィサーの沼本健氏は、AI を「グラフィカル ユーザー インターフェース、モバイル、クラウドといったプラットフォーム シフトの中で、最も大きな規模の変革をもたらすもの」と捉えているとし、Microsoft の製品の開発や提供における方向性や戦略の解説を展開しました。
さらに先進 AI ユーザー企業である本田技研工業社とサイバーエージェント社からのゲストスピーカーと語らいながら、AI によるビジネス変換は未来の話ではなく、すでに現在進行形で行われているものであり、AI の徹底活用こそが、今後の競走優位性のカギとなることを会場に示しました。
最後に沼本は、AI トランスフォーメーションを実現するための Microsoft の取り組みについて総括。AI 活用の鍵は技術だけでなく事業戦略、組織、文化の課題であり、Microsoft はそれらを解決するための知見を持っていることを強調。「少子化、高齢化の進む我が国にとって国民一人ひとりの労働生産性を上げることは至上命題。そこに AI が貢献する機会は大きい」と、ここに集った日本の企業が AI 活用をリードする未来への期待を述べて、セッションを終了しました。
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「AI トランスフォーメーションと変革を推進する Microsoft Cloud」
[リテール] ブレイクアウト セッション
「AI が放つ、小売業の未来とその可能性」
Microsoft AI Tour では、インダストリごとに特化したセッションが展開され、それぞれの業界からの参加者が熱心に耳を傾けていました。
リテール業界向けのブレイクアウト セッションでは、『AI が放つ、小売業の未来とその可能性』と題して、日本マイクロソフト代表取締役社長の津坂と、アジア リージョンのリテール & 消費財部門リード Irving Lee による講演が行われました。
まず登壇した津坂は、AI 一色だった「NRF(National Retail Federation)2024」を振り返りながら、国内外のユースケースを紹介していきます。そして最近は、AI の投資対効果(ROI)についての質問を非常によく受けることを明かし、リテール業界では 1 ドルの投資で 3.45 倍のリターンがあること、さらに先行投資をしていた企業は 8 倍ものリターンを得たことを示します。
続いてマイクロソフトがリテール業界向けに注力している 4 つの領域を紹介。一つ目は「データによる新たな価値創出」。二つ目は「顧客エンゲージメントの向上」。三つ目は「リアルタイムなサプライチェーン」。そして「従業員の業務効率化 働き方改革」。津坂は具体的な取り組みとして、Copilot のテンプレートを活用した新たな購買体験の提供や店舗業務の支援、そして Microsoft Fabric を活用した新たなデータベース統合ソリューションを挙げてみせます。
最後に津坂は、AI の活用には技術だけでなく、企業文化や働き方の変革も重要であると指摘。「トップがどうカルチャーを固めていくか。下の声やまんなかの声をどのように聞くか。この合わせ技で会社は変わっていく」と参加者に語りかけました。
続いて Irving が登壇。まず最初に、日本では生成 AI の認知度は非常に高く、先進企業では積極的な導入を進めているものの、実際の導入率は米国やオーストラリアなどと比較すると大きく見劣りしているというデータを示します。
Irving はこの原因について、「日本企業が自ら AI 実装に高い障壁を設けて慎重になってしまっている点にある」と指摘し、日本における生成 AI の先進的なユースケースを紹介。
WEMEX 社が開発した薬剤師のための業務支援アプリでは、薬剤師と患者の服薬指導時の会話を、生成 AI がわずかな時間で薬歴記録の特定フォーマットに変換。これによって薬剤師は事務作業を大幅に省け、患者の満足度向上にもつなげることができます。また日清製粉グループが導入した独自の対話型 AI「NISSIN-GPT」は、2023 年 4 月に同グループの従業員に向けて公開され、さまざまな局面で業務効率化に役立てられているそうです。
Irving によると、バリューチェーンにおける生成 AI の活用は、一般的にはまず財務や HR、法務、企業知識といったコーポレート機能が対象となります。また、バリューチェーンの各フェーズにおいても生成 AI を活用可能なシチュエーションが存在しており、幅広い業務に効果をもたらすことができる」と Irving 。
津坂からは「マイクロソフトでは、特にカスタマーサービスやディベロッパー支援において活発に生成 AI が活用されています。すべてを同時にやるのは大変なので、一番効果がありそうなところから AI を使っているのが現状だと思います」と、実体験に基づいたコメントが追加されました。
Irving は、生成 AI の業務ごとの適用と成果について議題を進め、アジアのトップ小売企業が達成した成果の例を提示。ウォルマート社がマイクロソフトと協働した生成 AI への取り組みを発表したことにも触れ、すでにグローバルでは多くの AI 運用実績が存在していることを示します。
そして最後に、「鍵となるのは経営層によるコミットメント」であることを強調。生成 AI は数十年に一度の顧客の期待や行動を急速に変化させる重要な技術であり、その進化はとても急速です。Irvingは「経営層がバリューチェーン全体で生成 AI を検討し、主要なビジネス機能および顧客体験のどこに高いインパクトを与えられるかというビジョンを持つことが重要」と語って、セッションを終了しました。
[リテール] シアター セッション
「Retail unlocked AI で解放するリテールのポテンシャル」
シアター セッションでは、マイクロソフトコーポレーション藤井が、流通業界における課題と、それらを解決するためのマイクロソフトの取り組みについて紹介しました。
はじめに、藤井は 2024 年 1 月にニューヨークで開催された NRF’24(全米小売業協会主催イベント)の様子について紹介。全世界から 4 万人が集まった同イベントで掲げられた今年のテーマは、「Make It Matter」。新事業「リテールメディア」、顧客体験の向上、サプライチェーン強化、従業員支援など、流通業界のテーマ・課題に対して、不断の努力の中で「成果につなげていく必要がある」とされるなか、「今後の流通業の変革を促進するうえで、AI の活用に大きな可能性があることが共通認識された大会だった」と藤井。さらに、さまざまな調査機関やメディアでも、流通業界における AI によるインパクトの大きさが取り上げられていることに触れ、「全世界の流通業が、自身のバリューチェーン全領域で、生成 AI 活用可能性の検討を開始している状況」と話します。
こういった背景を踏まえて、藤井は、マイクロソフトの流通業向けの新たなコンセプトを紹介しました。「これまで、厳しい状況の中で回復性(レジリエンス)を念頭に、データ・顧客・サプライチェーン・従業員の4つを論点として、お客様のデジタルトランスフォーメーションプロジェクトを支えることを活動の方向性にしてきました。今年の我々の新しい方向性が『Retail unlocked』。AI を活用して 同様の 4 つの論点で、流通業のポテンシャルを解放していこうという考え方です」と藤井。
マイクロソフトはこれまで、流通業界向けの DX 基盤として「Microsoft Cloud for Retail」を提供してきましたが、今後、最新の AI と Microsoft Cloud for Retail に融合させることによって、これをさらに進化させていきます。一例として、本年 1 月にプレビュー版としてリリースした新たなサービス、顧客の買い物や従業員の業務をアシストする生成 AI 機能を迅速に実装するための「Copilot テンプレート」を紹介。これによって CES2024 でウォルマートが発表した、同社顧客・従業員向け AI アプリケーションと同様の機能実装を迅速に実現できるようになると述べました。また、日本国内の流通事業者が生成 AI を理解し活用していくためのオープンコミュニティ「Microsoft Retail Open Lab」や、共同で生成 AI プロジェクトを推進するための「Microsoft AI Co-Innovation Lab」の設置など、AI を知ることから、活用領域・シナリオの検討、実際に実装するところまで、マイクロソフトは伴走型でサポートしていくことを述べました。
最後に藤井は、「生成 AI 時代の信頼できるデジタル基盤と価値を提供し、パートナーと共に流通業の皆様をご支援していきます。マイクロソフトの Retail Unlocked の取り組みに、ぜひご期待ください」とセッションを締めくくりました。
リテールブースでは、顧客・従業員・マーケターごとの AI 活用シナリオを紹介
リテールブースでは、お客さま、従業員、マーケター向けにシナリオごとの生成 AI 活用シーンを紹介しました。
お客さま向けの AI 活用では、顧客体験の向上が期待できます。例えば、EC サイトを訪れたお客様がこれから初めてキャンプをする方で、どの商品を選べば良いかわからないようなケースでは、自然言語で質問をするだけで、自分にフィットする商品を AI が提案してくれます。
従業員向けのシナリオでは、Power Platform と Teams を組み合わせることで、端末を用いたタスクの登録が可能に。「店内で障害を見つけた」「ストック不足が発生している」などのトラブルに対して迅速に対応できます。また、新入社員など接客に不慣れな従業員でも、端末上で自然言語を使って返品方法の問合せや対応などができるようになります。管理職は、従業員からの問い合わせの件数や内容を可視化し、データ分析をすることも可能です。それにより、従業員が回答に対して満足したかどうか知ることができます。
また Dynamics 365 Customer Insights の、Copilot を活用したマーケター向けのシナリオも紹介されました。例えば、自然言語でキャンペーン用の画像を生成したり、どちらのキャンペーンが数字を取れそうかといった相談を会話形式でしたりすることも可能です。
顧客にとってはより便利なショッピング体験を、従業員、マーケターにとっては大幅に生産性を高めることができる Copilot の機能を肌で感じることができる展示でした。
基調講演の視聴はこちら
「AI トランスフォーメーションと変革を推進する Microsoft Cloud」