きっかけは一通の手紙だった。新たな顧客体験と企業 DX を同時に実現する「e 食住なび」開発ストーリー
eBASE 株式会社は、食品表示情報を提供する「e 食なび」と家電や住宅設備の情報を管理する「e 住なび」を含むあらゆる商品カテゴリを統合したライフスタイルアプリ「e 食住なび」を、2023 年 1 月にリリースしました。
e 食住なびは Microsoft Azure をプラットフォームとしており、約 400 万点の商品を検索可能で、商品の詳細情報や取り扱いのある店舗などを閲覧できるアプリケーションです。
本稿では、同社代表取締役社長の岩田 貴夫 氏へのインタビューを通して、膨大なデータを活用して消費者に新たな CX ( 購買体験 ) を、企業に効果的な DX ( デジタル・トランスフォーメーション) 施策を提供する同社のソリューションについてご紹介します。この画期的なアプリ開発を後押ししたのは、ある小児科医の強い思いでした。
参考:「e 食なび」「e 住なび」を含め、あらゆる商品カテゴリを統合した消費者向けライフスタイルアプリ「e 食住なび」を開発リリース
eBASE 株式会社
代表取締役社長
岩田 貴夫 氏
「衣食住遊」の商品情報や活用方法を簡単に検索できるライフスタイルアプリ
ーーeBASE 社の事業についてお聞かせください。
岩田 当社は 2001 年に大阪で創業した企業で、商品情報管理システムの開発・販売を行う eBASE 事業と、IT 開発のアウトソーシングを請け負う eBASE-PLUS 事業を展開しています。
当社では創業以来、企業の DX には商品データベースが欠かせないという認識のもと、業界ごとに商品データベースの情報交換ができるプラットフォームの構築とパッケージソフトの販売を通して、各業界のデータ共通化を推進してきました。
この事業の中核を担うのが、業界ごとにメーカーと小売事業者の橋渡しをする B to B に特化したデータプールクラウドサービス「商材えびす」とパッケージソフトの「eBASE」です。当社ではこのたび、商材えびすに蓄積されたデータを活用して、消費者の CX と事業者の DX を同時に実現可能なサービスを企画・開発しました。それがライフスタイルアプリ「e 食住なび」です。
e 食住なびは、食品表示情報を提供する「e 食なび」と家電や住宅設備の情報を管理する「e 住なび」を含む、あらゆる商品カテゴリを統合したアプリで、「衣食住遊」の商品情報や活用方法を調べることが可能です。多言語対応や特定の小売事業者・メーカーを対象とした有償版の DX 推進ツール「e 食住なび for DX」も同時にリリースしています。
参考:「日々の暮らしを便利にするライフスタイルアプリ e 食住なび」
ーーe 食住なびを開発された背景には、どのような課題があったのでしょうか?
岩田 当社が創業した頃は、企業間の商品情報交換方法といえばメーカーが自社商品の情報を記入した紙を小売事業者がレジシステムなどに入力し直して販売業務を行うという、とても非効率なものでした。そこで当社は、まずフォーマットを統一したツールを制作してそれを提供し、各企業に「データ交換における手作業をなくしましょう」と提案するところから事業を開始しました。
その後、スーパーマーケットやドラッグストアなどで販売されている商品については「JAN コード」と呼ばれる商品識別コードを利用して、複数のメーカーと小売業が商品情報を共有できるデータプールサービス「商材えびす」を開発しました。
住宅業界などはいまだに共通の識別コードがない場合も多いのですが、当社のソリューションはそういった商品にも対応できるのが大きな特徴です。その価値は多くのお客さまに感じていただけており、「eBASE」は 2023 年 4 月 3 日現在で 19 万 4588 ものユーザーにご利用いただいています。
消費者、小売業者双方にメリットを提供する e 食住なび
ーーe 食住なびは、どのようなアプリなのでしょうか。
岩田 e 食住なびは、「ユーザーが求める商品情報をいつでもどこでも閲覧できるように」というコンセプトで当社が開発したアプリです。e 食住なびを使えば、商品カテゴリや名称、商品特徴などから、商品詳細データを検索することができます。
例えばスーパーの紙チラシや電子チラシなどに載っている商品には、金額は書かれていますが、それ以外の情報はほとんど記載されていません。店頭のプライスカードも同様です。
食品であれば、栄養素やアレルゲンの有無、その商品を使ったレシピなどを知りたい場合は、消費者自身が店員に聞いたりインターネットで検索したりして調べる必要があります。その作業は、アレルギーのあるお子さんの保護者の方や、宗教や習慣上の理由で食べられない食材がある方などにとっては、大きな負担となります。一方で、小売業者が単独で大量かつタイムリーに商品情報を集めるのは現実的ではありません。
e 食住なびを使って、当社の商材えびすに蓄積されている商品情報を小売業者のチラシ・自社アプリ・EC サイト・店頭のプライスカードなどに紐づけることにより、消費者はその場で豊富な商品情報を得られ、小売業者はサービス内容を向上させることができます。さらに、紙チラシの削減や店員の顧客対応の省力化など、企業 DX につながる効果も提供できると考えています。
開発の後押しとなったのは、とある医師からの手紙
ーーe 食住なびの開発に至った経緯についてお聞かせください。
岩田 当社が蓄積してきた商品データを消費者にも開示することで、サプライチェーンの上流から下流まですべての範囲で商品情報交換できる環境をつくろうという企画は、3 年ほど前から進めていました。他に類を見ない膨大な商品データの蓄積に加えて、既存のデータベースや検索システム、パッケージソフトといった資産を自社で保有しているため安価でサービスを提供できる点、また特許も取得しており先行メリットも得られる点から、他の EC サイトやアプリと差別化できる自信もありました。
まずは食品を対象とした商品情報開示アプリ「e 食なび」のリリースを目指したのですが、実は今の形での開発を進める大きなきっかけとなったのは、ある医師の方から届いた手紙でした。
その先生は小児科とアレルギー科を専門とされていて、スーパーマーケットとタイアップして卵や乳などのアレルゲンを含まない食品をリストアップし、まとめた資料を患者さんであるお子さんの保護者の方に配布する活動に取り組まれていました。そしてあるとき当社のサービスを知り、「データプールにアレルギー情報が入っているのであれば、ぜひ活用してほしい」という意見を寄せてくださったんです。
そこで当社ではその先生を含む 2 名の医師に協力を仰いで、もともとあったアプリの構想にアレルギー情報の開示というコンセプトを加えた形で開発を進めることにしました。自分たちのアプリが社会課題の解決に貢献する役割を得られたことは、開発に向けて大きなモチベーションになりました。
ーー開発に際して、苦労されたことはありましたか?
岩田 開発よりも営業フェーズでの苦労が大きかったですね。もともと私たちの製品を担当いただいていたのは、品質管理部門や情報システム部門といった CX、DX とは直接関係ない部門でしたので、e 食住なびに対するアドアイスや意見をいただくことはできましたが、採用にはつながりませんでした。
また販売促進部門に紹介していただいても、開発当時の小売業界はコロナ禍の影響を強く受けていましたので、どの企業も新規の販売促進施策を検討する余裕がない状況でした。ですから、ここ数ヶ月でようやく具体的なプロジェクトが進みつつあるところです。
ユーザー数に応じて柔軟に拡張できる Azure をプラットフォームに採用
ーー日本マイクロソフトとのコラボレーションについてお聞かせください。
岩田 当社のデータプールサービスでは、創業当初から Microsoft SQL server を使っていました。また e 食住なびのプラットフォームに関しては、Azure を採用しています。e 食住なびの開発にあたり、当社が主体となってサーバを立ち上げる必要があったことと、ユーザーの増加に合わせて柔軟に拡張できるプラットフォームという条件に当てはまるのは Azure しかないという判断でした。
それに加えて、技術支援や営業販促支援も大きな魅力でした。技術支援に際しては Azure の利用方法や Q&A 対応、資金的なアドバイスもしていただけましたし、今後は技術者の育成にも協力していただく話が進んでいます。また、日本マイクロソフトのパートナー企業への橋渡しをしていただけるのもありがたく感じています。実際に、ご紹介いただいた LINE 社とは顧客開拓における協業プロジェクトが進んでいます。
実は開発を始めた当初は、このアプリはきっとすぐに爆発的な需要があるだろうと予想していたんです。だからこそ膨大なユーザーからのアクセスにも対応できる Azure をプラットフォームに選んだ側面もありますので、ようやくこれから本領を発揮してもらえると期待しているところです (笑) 。
あらゆる業界、業態に対応可能な e 食住なびサービスをさらに拡充していきたい
ーー現状の展開と、今後の展望についてお聞かせください。
岩田 数社から引き合いがあるうち、すでに導入いただいているのが積水ハウス社です。e 住なびを利用して、住宅を購入されたお客さま向けの取扱説明書一括閲覧システムを開発しました。
以前は、家電や住宅設備の操作説明書やメンテナンスマニュアルを手作業でバインダーに挟んでお客さまにお渡ししていたそうなのですが、バインディング作業が非効率的なうえに、お客さまもほとんど見ることなくしまい込んでしまうという課題がありました。e 住なびを活用することで、紙ベースだったマニュアルをデータ化し、スマートフォンひとつで確認できるようになりました。
ほかにも小売業界でいくつか導入プロジェクトが進んでおり、近々リリースできる予定です。まさに開発のきっかけとなったアレルギー情報を含めた商品情報開示アプリの開発プロジェクトもあり、リリースされるのがとても楽しみです。
今後は、ドラッグストアやホームセンター、アパレル、カー用品など、さまざまな業態での展開を進めたいと考えています。外食業でも商品情報開示の取り組みが進んでいますので、お手伝いできる部分はあると考えています。B to B 分野で活用いただける e 食住なび for DX も用意していますから、メーカーの自社製品情報の開示ツールなどにも展開していきたいですね。
新たな機能としては、レシートや EC サイトの購買履歴と連携した商品情報開示機能の実装を計画しています。また、将来的にユーザーが増えれば、e 食住なびに貯まったビッグデータを活用したサービスの展開も考えられると思っています。社会的にも健康志向が高まっていますから、e 食住なびのニーズは今後ますます高まっていくと期待しています。
日本マイクロソフトにも引き続き、Azure の活用事例の紹介や機能面のアドバイスなどの技術的なご支援と、さらなる協業のご支援をお願いできれば幸いです。 参考:「日々の暮らしを便利にするライフスタイルアプリ e 食住なび」