【オンデマンド配信】スマーター・リテイリング・フォーラム 2023〜流通業デジタルトランスフォーメーションの潮流〜
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日本マイクロソフトは流通・小売業の DX のために、インテリジェントなクラウド・エッジテクノロジーによる「Enabling Intelligent Retail」を推進してきました。しかし流通・小売業界を取り巻く環境はディスラプター(破壊的企業)の出現からコロナ禍を経て大きく変化しており、直近ではウクライナ危機に端を発するコスト上昇圧力や歴史的なインフレなどの発生と同時に、気候変動やエネルギー問題など、危機が複合的同時多発的に発生する「ポリクライシス」とも呼ばれる混沌とした状況に陥っています。現代は極めて厳しく、不確実な時代と言えるでしょう。
これからの流通・小売業に求められるのは、ステイクホルダーとの関係の本質や変革方針を見つめなおすこと。そして不確実な社会環境に柔軟に対応し、価値を生み出す力「レジリエンス」です。
こうした背景を鑑み、デジタルの力で各業界・各企業を支援してきたマイクロソフトでは、新たに「Resilient Retail」をスローガンとして掲げ、流通・小売業者が今後取り組むべき DX の姿を提案していく方針を定めました。
スマーター・リテイリング・フォーラムは、流通業におけるユーザー企業と IT ベンダー企業の協業による IT 技術の標準化推進を活動目的として、2004 年に設立されたオープン フォーラムです。(スマーター・リテイリング・フォーラムについて)
2023 年 3 月 3 日(金)に「リテールテック JAPAN 2023」のなかで開催された「スマーター・リテイリング・フォーラム 2023 〜流通業デジタルトランスフォーメーションの潮流〜」(以下SRF)では、マイクロソフトが提供する価値、そしてマイクロソフトが掲げるテーマ「Resilient Retail」を体現する企業・ソリューションの事例紹介を通して、流通・小売業界の最新動向と今後の展望が示されました。その模様はオンデマンド配信にてご覧いただくことができます。
本稿では日本マイクロソフト 流通サービス営業統括本部 藤井 創一によるセッション「Resilient Retail~小売業 DX の取組と事例のご紹介~」の内容を中心に、SRF の見どころを紹介します。興味をお持ちの方は、ぜひオンデマンド配信をご視聴ください。
「Resilient Retail~小売業 DX の取組と事例のご紹介~」
日本マイクロソフト 流通サービス営業統括本部
藤井 創一
流通・小売業界から感じるデジタル技術への期待
本セッションは、マイクロソフトが取り組む流通・小売業 DX の事例とマイクロソフトの取り組みの紹介を中心として構成されています。まず藤井は、2023 年 1 月にニューヨークで開催された全米小売業協会主催の「NRF2023」から感じた、流通・小売業界の課題感とデジタル技術への期待について語ります。
藤井は、NRF 2023 のキーメッセージだった「Break Through」を実現するために米国各企業が取り組みを進めるポイントとして、「顧客/消費者」「社員/従業員」「サプライチェーン」「店舗」「新たなトレンド」を挙げたうえで、「こういった論点で Break Through を進めていくには、デジタルをうまく使っていくということも(NRF における」共通の認識だった」と分析します。
「一方で、テクノロジーが主語となるような発表はあまりなかったという感想も聞かれました」と藤井。その理由について、これまでのように AI や IoT、ドローンといった技術に関する話題が中心となるのではなく、それらの技術を流通・小売業の課題解決のために活用して成果を出すことが目的であり、そういった事例やソリューションの展示が多かったからではないかと推測します。
その一例として、藤井は Kroger 社のセッションを紹介。同社のデジタルツインを用いた店舗改革への取り組みは、最先端のテクノロジーの導入経緯ではなく、いかに店頭での顧客体験価値や労働生産性の向上を果たしていくのかという文脈で語られていました。さらに藤井は「Kroger 社単独ではなく、IT ベンダー、テクノロジーベンダーと意識を共有して進めた結果ないしはその過程のお話をされていた」と、さらに一歩踏み込んだ流通・小売業とパートナーとの協業がカギとなっていた点をポイントとして付け加えました。
企業のレジリエンスを支えるデジタル技術
続いて藤井は、マイクロソフトが実施したグローバルの流通・小売企業の CEOへのリサーチ結果を紹介。「不確実性の高い時代のなかで、どのような方針を優先させていくのか」という問いかけに対して、実に約 85% もの CEO が「レジリエンス(変化に柔軟かつ迅速に対応していく能力)の獲得」を挙げたといいます。
藤井は「過去になく厳しい事業環境と、この結果を踏まえて、私たちマイクロソフトは、信頼できるデジタル基盤と価値の提供を通して、流通・小売業の皆さまにレジリエンスを持ったリテイラーになっていただくための支援をすることを方針として進めていきたい」と宣言。「Resilient Retail」という言葉を示し、「データによる新たな価値創出」「顧客エンゲージメントの向上」「リアルタイムでサステナブルなサプライチェーンの構築」「従業員の業務効率化と働き方改革」の 4 つを具体的な施策として掲げます。
藤井がこれらのうち「顧客エンゲージメントの向上」の一例として挙げたのが、店頭顧客体験の向上を目指す、欧州で自立型のインテリジェントストア「ナノストア」を展開するコンビニエンスストアチェーン Zabka 社の取り組みです。
Amazon GO の出現以来、こうした無人のインテリジェントストアでは複数の先端センシング技術の導入といった積極的な挑戦が続けられた一方で、本格的な展開をするうえでは、運用、コスト対策といったさまざまな問題をクリアする必要がありました。
Zabka では、AiFi やマイクロソフトのようなテクノロジー企業が伴走することで、シンプルな画像識別のみでのセンシングや、顧客の決済サービス選択を容易にする、API による柔軟なサービスインテグレーション、また Microsoft Cloud for Retail によって提供される、小商圏での MD 最適化プロセスを迅速に実行するための店舗分析サービスの実装など、チェーンストアへの展開も見込めるソリューションを実現しています。
技術ではなく成果を見据えて伴走するマイクロソフト
後半のトピックはマイクロソフトが提供する流通・小売業の DX 支援施策について。藤井はまず「マイクロソフトはデジタル基盤を提供する企業ですが、それに加えて、より流通・小売業に最適な基盤の開発と提供、マイクロソフト自身が持つ DX ナレッジの共有、パートナーエコシステムの提供、そして人材育成支援を付加価値として、流通・小売業をサポートしています」と、その立ち位置を示します。
マイクロソフトでは流通・小売業界向けに「Microsoft Cloud for Retail」を展開しています。藤井はそのなかで新たに提供が開始された流通・小売業界特化のコンポーネントとして、「Smart Store Analytics」と「Store Operations Assist」を紹介。前者はデータに基づいた店舗オペレーション支援ソリューションであり、Zabka の事例でも用いられています。
さらに藤井は、「非常に問い合わせが多い」内容として、OpenAI を紹介。マイクロソフトではすでに、OpenAI が提供する ChatGPT を Microsoft Bing に取り込んでリリースしていることに言及。実際に ChatGPT 操作のデモンストレーションを披露したうえで、流通・小売での典型的な活用方法の一例として「EC サイトに ChatGPT を組み込むことで、これまでと違う顧客体験の提供ができるのではないか」とその可能性を示唆します。また、ChatGPT 利用の先行事例として CARMAX 社が取り組む生産性向上のための EC 上の製品レビュー自動要約と商品説明コンテンツの自動生成事例を紹介しました。
一方で、「こういったテクノロジーを使っていくにあたり、その可能性を前向きに捉えながらも、流通・小売業のビジネスのなかでどんな成果、課題解決を目指すのかを前提に(顧客と)伴走していきたい」と、テクノロジーそのものではなく、それを活用してどんな成果を目指すかを考えることが大事、という本セッションのメインテーマに回帰。Web3.0、メタバースの時代と言われる今、パートナーや顧客企業と伴走しながら「Resilient Retail」の推進に取り組んでいくことを改めて宣言して、セッションを終了しました。
オンデマンド配信:Resilient Retail ~小売業 DX の取組と事例のご紹介~
フォーラムを盛り上げる多様なセッション
「自然と人、人と人をつなぎ、人間性を回復する」スノーピークが実践するデジタル戦略の歩み」
オンデマンド配信:「自然と人、人と人をつなぎ、人間性を回復する」スノーピークが実践するデジタル戦略の歩み
本セッションでは株式会社スノーピーク 専務取締役兼株式会社スノーピークビジネスソリューションズ 代表取締役 村瀬 亮 氏と、スノーピークビジネスソリューションズとともにスノーピーク社の DX を推進してきたネクストリード株式会社 代表取締役 小国 幸司 氏によって、「人と人との信頼関係こそが DX 推進における最も重要なプロセスである」という主旨に沿った対談が展開されました。
同社では「Datadam」と名付けられた、社内のあらゆるデータを蓄積し、データ・ドリブンな企業経営に活用することを目的としたプラットフォームを構築、DX を推進しています。村瀬氏は冒頭で「エンジニアをキャンパーに」というキーワードを提示。日本を代表するアウトドアメーカーであるスノーピーク社で DX を推進するにあたり、まずはエンジニアを各セクションに派遣して、対話のなかから課題を抽出すると同時に、コミュニケーションを深めることが重要だったと語ります。
社内のデジタルリテラシーに濃淡があるのは当然であり、外部やIT担当部署の論理で DX 施策を進めてしまうと反発を招きかねません。良好な人間関係の構築により、チームになることが DX の一歩であるということ、デジタルはあくまで道具であり、それを使うのは人間であることに改めて気づかされるセッションとなりました。
登壇者
株式会社スノーピーク 専務取締役
株式会社スノーピークビジネスソリューションズ 代表取締役 村瀬 亮 氏
ネクストリード株式会社 代表取締役 小国 幸司 氏
パネルディスカッション
「“ K ” の本質~日本の小売業界を真剣に考えると、本質的な潮流が見えてくる~“Team-K”」
オンデマンド配信:”K” の本質 ~日本の小売業界を真剣に考えると、本質的な潮流が見えてくる~
Team-K は、所属も肩書きもさまざまでありながら、企業の垣根を超えて「競争・競合」を「強調・協創」に変革し、流通・小売業界を変えていきたいという志を持った 6 名のメンバーにより構成されています。
まず紹介されたのは業界の商品情報共通化プロジェクトについて。これまでも課題とされていた業界内での商品情報の統一、ひいてはサプライチェーンや小売現場の生産性向上につながることが期待されています。プロジェクトそのものの画期性はもちろん、業界トップ 2 社のキーパーソンであるイオングループのユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス副社長兼カスミ社長の山本慎一郎氏と、セブン & アイ・ホールディングス執行役員の齋藤正記氏が肩を並べて議論するという常識はずれの展開に、参加者から驚きの声が上がっていました。
次に紹介されたのは、イオン九州が中心となって開催されている九州物流研究会について。イオン九州株式会社代表取締役社長の柴田祐司氏から、「原価は競争、物流は協創」との考えのもと、同じ地域に展開するライバルであるイオン九州とトライアル社が手を組んで実施された共同物流プロジェクトの事例が紹介されました。イオンの店舗にトライアルの配送車両が横付けされたインパクト十分の写真に、会場からどよめきが起こりました。
最後に会場の参加者に Team-K の取り組みへの参画が呼びかけられ、待ったなしの業界変革に向けた小売事業者の共創時代の始まりを予感させるセッションとなりました。
登壇者
イオン株式会社 SM (スーパーマーケット)担当付チームリーダー 北村 智宏 氏
株式会社 NTT データ ソートリーダーシップマネージャー 田邉 裕喜 氏
グランドデザイン株式会社 代表取締役社長・北海道大学客員教授 小川 和也 氏
ソフトバンク株式会社 シニアプロダクトマネージャー 神成 昭宏 氏
パナソニックコネクト株式会社 エグゼクティブ インダストリースペシャリスト 大島 誠(マック大島)氏
日本マイクロソフト株式会社 インダストリーテクノロジーストラテジスト 岡田 義史 氏
ゲスト
イオン九州株式会社 代表取締役社長 柴田 祐司 氏
株式会社カスミ 代表取締役社長 山本 慎一郎 氏
株式会社セブン&アイ・ホールディングス 執行役員 齋藤 正記 氏
[企業名 五十音順表記]
「POS とデータ活用を促進する協議会標準化活動アップデート」
オンデマンド配信:POS とデータ活用を促進する協議会標準化活動アップデート
本セッションでは、SRF を構成する OPOS 技術協議会および .NET 流通システム協議会からの活動報告が行われました。
最初に登壇したのは OPOS 技術協議会 技術部会長 NEC プラットフォームズ株式会社の五十嵐 満博 氏。OPOS 技術協議会では、POS アプリケーションと周辺端末インターフェイスの標準仕様策定と普及を行なっており、70 社 280 製品(2023 年 2 月末現在)が準拠製品として登録されています。
2022 年度に更新された第 1.16 版では、POS レジや店頭システムと連動するヒューマノイド型ロボットなどのデバイスを想定した「リテールコミュニケーションサービスデバイス(RCSD)」の仕様が新たに追加されました。仕様の標準化により、共通のインターフェイスを用いたアプリケーション構築が可能になります。またセッション後半では、ビデオキャプチャやジェスチャーコントロールを実装する際の仕様についての説明と、RCSD のユースケースの紹介が行われました。また最後に、国内のPOSスタンダードとして普及済のOPOS仕様の、次世代店舗やPOSのサービス化に対応した革新・バージョンアップに向け、「UPOS2.0」仕様策定活動を推進していくことが報告されました。
続いて.NET 流通システム協議会 技術部会長 東芝テック株式会社 高橋 伸幸 氏が登壇。.NET 流通システム協議会では店舗システムを中心とした XML スキーマとデータモデルの標準仕様策定と普及を行っており、135 社が参画、3 つの分科会(2023 年 2 月末現在)で構成されています。
2022 年度の活動内容として、次世代 POS 分科会の UPOS2.0 との調整とWS-POS の実装推進と、電子レシート分科会における国際標準化に向けた OMG への提案に際しての Open API 提案資料の作成業務が報告されました。
両協議会とも、2023 年度以降の予定としてこれらの活動をさらに深化・推進することを報告して、セッションは終了となりました。
登壇者
OPOS 技術協議会 技術部会長 NEC プラットフォームズ株式会社 五十嵐 満博 氏
.NET 流通システム協議会 技術部会長 東芝テック株式会社 高橋 伸幸 氏
「ニトリにおける業務部署でのデジタル活用推進の取り組みと今後」
オンデマンド配信:ニトリにおける業務部署でのデジタル活用推進の取り組みと今後
株式会社ニトリホールディングスは、「自前主義」を掲げて販売・製造・物流・貿易・商社機能に至るまで一気通貫で取り組んでおり、社内システムも IT 部門によって内製されています。
セッションでは同社のデジタル推進に向けたさまざまな取り組みが紹介されましたが、なかでも BPA 推進チームによる業務部門の社内 IT ツール利活用促進に向けたアプローチは非常に示唆深い内容でした。
株式会社ニトリホールディングス 情報システム改革室 BPA 推進チーム マネージャーの玉山 久義 氏によると、BPA 推進チームは「知ってもらう」「学んでもらう」「使ってみようと思ってもらう」というステップごとにさまざまな仕掛けを施すことで、非システム部門が自発的に IT ツールを駆使して業務変革を推進できる環境を実現したそうです。その取り組みからは、IT ツールを導入するだけでは不十分であること、活用方法を示しながら丁寧にフォローアップすることの大切さがよく伝わってきます。
セッションの後半では、同社の業務部門が Microsoft PowerPlatform を活用してシステムを開発したふたつの事例が紹介されました。社内の問い合わせ対応や店舗間の情報共有など、直接売上に関わらないためにシステム開発の優先順位を高く取れないような機能やアプリを業務部門が内製することで、迅速な課題解決を実現したうえで新たな展開につながるというプロセスは、DXを推進したい企業にとって大いに参考になるのではないでしょうか。
株式会社ニトリホールディングス 情報システム改革室 BPA 推進チーム マネージャー 玉山 久義 氏
株式会社ニトリホールディングス 情報システム改革室 BPA 推進チーム 石川 文月 氏
以上で紹介したセッションは、下記オンデマンド配信にてご覧いただくことができます。