遠隔・リモート接客クラウド「TimeRep」開発秘話。〜リアルと非リアルの接点に生まれる、新時代の購買体験〜
2017年に設立された株式会社UsideUは、法人向け遠隔・リモート接客クラウド「TimeRep(タイムレップ)」を開発・販売するスタートアップ企業です。TimeRep は Microsoft Azure をプラットフォームとして開発されたクラウドサービスで、モニターに AI 制御のアバターを映し出し、店舗スタッフや受付スタッフが遠隔操作することで新たな購買体験を提供、購買意欲を高めると同時に、従業員の接客・受付・案内業務を効率化して多様な働き方の推進を支援します。小売窓口や受付窓口などでサービスを提供する、さまざまな企業に導入されています。
非接触の遠隔接客と聞くと、コロナ禍のニーズから生まれたサービスのように感じられますが、実はそうではありません。同社代表取締役社長の高岡淳二氏は開発時から、不確実な時代の流れに影響されない普遍的なサービスとしての展開を思い描いていました。
株式会社 UsideU
代表取締役社長
高岡淳二氏
新たな購買体験と働き方改革を同時に実現する、
UsideU の法人向け遠隔・リモート接客クラウド「TimeRep」
--貴社の提供する遠隔・リモート接客クラウド「TimeRep」についてお聞かせください。
高岡 TimeRep は、リアルな店舗と Web の垣根を超えて、ヒトと AI アバターの協働による非対面・非接触・リモート案内を可能にする法人向けクラウドサービスです。モニターに映し出されたアバターを遠隔操作する仕組みを通した「新たな購買体験と接客体験の創造」を目指して開発されました。
TimeRep は、主に販促業務と受付業務の 2 つのシーンでご活用いただいており、販促業務では、店舗スタッフが現場をモニタリングしながら遠隔操作することにより、対面業務と変わらない販促効果を期待でき、受付業務では自動シナリオ機能による無人案内で受付業務を効率化できます。使い方に合わせたカスタマイズも可能です。
特に EC サイトで家電などの高価な買い物をする際に、レビューなどと並ぶ情報ソースのひとつとして、専門性を持ったスタッフによる説得力が喚起する動機と、インフルエンサーマーケティング的な、ロジカルではない動機の両方を提供できるサービスというのが大きな特徴です。
また私たちは、2021 年 6 月に人材サービス企業であるヒト・コミュニケーションズグループの一員となり、ツールだけでなく人材の派遣まで含めたサービスを展開しています。TimeRep の導入によって遠隔地や非対面での勤務も可能となるため、新たな雇用機会や働き方の創出に役立つツールとしてもご評価いただいています。
--TimeRep を開発された経緯についてお聞かせください。
高岡 私は前職でアリババグループの日本法人に勤めており、同社 EC サイトの立ち上げに携わった経験があります。2013〜14 年くらいのことでしたが、EC 先進国である中国のリテール事情をつぶさに観察できたことで、「今後日本でも EC 化率はますます上がるだろう。それだけでなく、単に検索して購入するだけではない新たな接客体験、顧客体験が出現するだろう」という予測が、TimeRep の発想につながりました。もともと私自身もインターネットっ子でしたので、なるべくなら店舗に行かずにネット上で買い物を完結したいという性分も、多分に影響していたと思います。
また働き方という観点からも、社会から必要とされるはずという思いがありました。プライベートとプロフェッショナルの時間を使い分ける働き方や、場所にとらわれない働き方の推進による生産性の向上は、インターネットの持つ永遠のテーマです。私は当時、広まりつつあった WebRTC 技術(Web Real Time Communication/ブラウザ間のデータ通信技術)を用いることで、技術ドリブンで人の働き方を変えられるかもしれない状況にワクワクしていました。これは私だけではなくて、当時 WebRTC 技術に関わっていた人たちにとって共通の夢だったと思います。
こうして 2017 年に、長崎県のテーマパーク「ハウステンボス」内の、カクテルサーバーの提供から接客まですべて遠隔で行う無人の接客バー「変なバー」で、初めて TimeRep が導入され、好評を博しました。その後カスタマイズや改良を加えながら、スーパーや化粧品会社、不動産会社などさまざまな業種で接客・受付・案内サービスにご導入いただいています。
時代ではなく動機に忠実なサービスだからこそ、
多くの企業に受け入れられる
--TimeRep の開発に際して、どのような苦労がありましたか?
高岡 開発時からいろいろな壁にぶつかりました。もともとの構想では、単純にお客さまとオペレーターが画面越しに会話できるシステムをつくるだけでいいと思っていたのですが、現場に投入しようとすると、それだけでは済まないことがわかったのです。
最初に導入された「変なバー」では、カクテルマシーンをどう自動化するのか、当時はキャッシュレス決済も一般的ではありませんでしたから、遠隔での決済や本人確認をどうするのかといった問題が、次から次へと湧いてくる。技術面でも、 Peer to Peer(複数端末による通信アーキテクチャ)でいかに安定した対話体験を構築するか苦心しました。連日ハウステンボスに寝泊まりして、試行錯誤しながらシステムをつくり込んだことを覚えています。
リリース後にも、例えば不動産会社の受付業務であれば、接客しながら同時に図面を見せたい、図面を見せている間にもお客さまの表情が画面で見られるようにしたい、といった要望が次々と出てきて、対応に追われました。ただ、初期の段階で多くの課題に突き当たったことで、その後のロードマップを描きやすくなったのは幸いだったと思っています。
--特にターニングポイントとなった事例を挙げていただけますか?
高岡 たくさんありますが、ひとつ挙げるとすれば 2021 年 3 月の JR 大宮駅様への導入でしょうか。JR 東日本様という非常に知名度の高い企業への導入が、TimeRep の認知度が向上する大きなきっかけになったと思っています。
大宮駅様にとっても、遠隔・リモート接客を初めて導入するという事例であり、JR 東日本大宮支社の皆さまとお互いに試行錯誤をしながら、TimeRep の駅利用者への周知から無人改札のご案内オペレーション構築、シナリオ機能による自動化推進まで伴走させていただきました。導入効果として、駅員の皆さまの残業時間削減につながったとお聞きしています。
当初の実証実験期間は 1 年間でしたが、今年も契約を更新していただき、大宮駅内でのさらなる利活用や、高崎駅、熊谷駅、千葉駅、大船駅への拡大設置も進められています。
--TimeRep の導入企業が増えた理由としては、やはりコロナ禍も関係しているのでしょうか。
高岡 確かに人との接触が制限されるコロナ禍で、私たちのサービスが注目されたことは間違いありません。ですが、私たちとしては「コロナ禍だから」といった理由にはなるべく影響されない姿勢に徹しようと考えています。
最近はウィズコロナ、アフターコロナという言葉も聞きますが、正直、この先お客さまが店舗に回帰してくるのか、インバウンド需要はいつ戻るのか、リモートワークはこのまま定着するのかなど、予測できない部分がとても多い。ですから私たちは、そういった要因に影響されないサービスの開発・提供を目指しています。
いつの時代も人々の行動パターンは変わるものですし、それに伴って私たちの視点も自然と変化するはず。結果としてアフターコロナの消費行動と私たちのサービスがマッチする部分も出てくると思いますし、その逆もあると思います。大切なのは、時代や時勢に流されることなく、「EC を効率化してなるべくモノが売れるようにする」「消費者に新たな購買体験を提供する」「低コストで周知できる仕組みをつくる」「働きやすい環境をつくる」といった、もともとの TimeRep の開発動機に焦点を合わせた仕事をすることだと思っています。
開発パートナーでありビジネスパートナー。日本マイクロソフトに寄せる大きな期待
--TimeRep は開発プラットフォームとして Microsoft Azure を採用されています。その理由をお聞かせください。
高岡 エンジニアの視点から言うと、まず Azure はそれ自体もソフトウェアも、インフラとしての安定性の高さを評価しています。また私たちのサービスの特性上、リアルタイムでの情報のやり取りが非常に重要です。Azure はネットワークの安定性にも強みがあります。すなわち私たちのサービスとの相性のよさが、ふたつ目の理由です。積極的に技術面のアドバイスをしていただけることも心強く感じています。
経営者の視点から言うと、今も日本マイクロソフトの担当者とは定期的にミーティングをさせていただいていますが、新しいビジネスチャンスを一緒につくりましょう、という姿勢が非常に頼もしいです。例えば、2 社の間だけではなく、パートナー企業との協業を提案していただける。現在進行中の LINE 社とのコラボレーションもそのひとつで、「小売業界の DX 支援を目的とした共同プロジェクト」への参画は私たちとしても非常に期待しています。
私たちのようなスタートアップにとっては、技術の提供だけでなく、強いビジネス開拓のマインドセットを持っている方がカウンターパートにいていただけるのは、とてもありがたいことです。
--今後の TimeRep の展開についてお聞かせください。
高岡 まずひとつ目の柱として、業界に特化したサービスをつくっていきます。現在、TimeRep は幅広い業界でご利用いただいていますが、ある業界に特化した遠隔販売システムを近々リリース予定です。
ふたつ目の柱として、データの利活用を始めます。サービス開始以来、TimeRep をさまざまなお客さまにご利用いただいてきたおかげで、ようやく十分なデータが溜まってきました。これまでは TimeRep を導入していただくのに必死でしたが、これからはようやく、溜まったデータを解析して、ユーザーの満足度や現場の課題検知など、お客さまへのフィードバックができるようになります。つまり遠隔接客の本来的な価値を示せるフェーズに入っていきます。
このプロジェクトにおいては、解析ツールはすべて自分たちでつくれるものではありませんから、ぜひ日本マイクロソフトにもご協力いただければと思います。
そして 3 つ目の柱として、EC での展開を考えています。今私たちは店頭での接客・受付・案内業務を中心としていますが、EC 上での接客販売にもチャレンジします。これは私が起業前からやりたいと思っていたプロジェクトでして、いよいよ具体的に動き出すことができます。近い将来、世の中でよく見かけるサービスのひとつに成長させていきたいと考えています。
--会社としての今後の指針をお聞かせください。
高岡 当社では、ヒト・コミュニケーションズグループへの参画など、ここ数年で目まぐるしく環境が変化し、規模も年々拡大しています。また他社と協働する大きなプロジェクトも稼働し始めています。
これからの私たちの目標は、遠隔・リモート接客のインフラ基盤を拡充して、コンビニエンスストアのように、目につくところに必ずあるインフラに育てていくことです。またそれに応じて、人々の働き方は確実に変わります。販売員が必ずしも店舗に出勤する必要のない時代が来るはずです。引き続きその流れを後押ししていきたいです。
私たちの会社名「UsideU」には、U=YOU、すなわちあなたが、自分がもうひとりいると感じられるくらい、近くに寄り添うパートナーでありたい、という思いが込められています。これからも時勢に流されることなく、お客さまと社会の役に立つサービスを提供し続けてまいりたいと思います。