小売業 DX におけるスマートフォン活用と Dynamics 365 Customer Insights リファレンスアーキテクチャ
インターネットの普及や人口動態の変化、また COVID19 による急激なニューノーマルへのシフトなど、小売業を取り巻く環境の変化は、抗いがたく大きく、さらに速いものになっています。このような中で、近年は変化への対応とビジネス改革の重要性が語られ始め、その実現をテクノロジでサポートする DX という考え方は、企業の存続をかけた喫緊の課題として強く認知されたといえます。また DX が単なる自動化やプロセスのシステム化の話ではなく、社会や生活に当然のようにテクノロジが埋め込まれ、恒常的・加速的に物事が変化している現代において、ビジネスの継続的な革新への取組みであるべきだと、認識されはじめているのです。
ご存知の通り、世界最大の小売業の年次イベントである NRF 2022 (英語) (主催: National Retail Federation) が本年も 1 月に開催され、小売業界の現在と今後を見据えた先進の情報が共有されました。
170 を超えるセッションのオープニング キーノート、NRF 会長マイク ジョージ氏の講演によると、前述の通りの、コロナ禍によるオンラインチャネル・非接触への消費者期待増加、MZ 世代への消費中心層の移行などの変化の中でも、米国小売業は、昨年比 14%、20 か月連続の力強い成長を見せ、この大きな理由の 1 つとして、DX への挑戦をあげています。先進小売業は、消費者の期待に対応し、オンラインと店舗チャネルをシームレスに連携したり、カーブサイド ピックアップやホーム デリバリー サービスを提供。成長著しいオンラインの領域でも、没入感や刺激、新たな体験を求める消費者に対して、動画やメタバースの活用なども積極的に推進しています。さらにマイク ジョージ氏の講演タイトルは「アクセラレート: 加速」であり、今後こういった流れ、変化はさらに加速し、小売業はさらに加速的に対応を進めていくべきであるというメッセージが出されました。
しかし、加速する消費者の要求に対応し、迅速性をもって体験価値を提供、改善プロセスを回し、継続的に提供価値を高めていくためは、それを支えるシステム開発にも、同様に迅速な実現性が求められます。
クラウド テクノロジによる小売業 DX 加速のための「スマートストア」
ご存知の通り、マイクロソフトは、こういった変化対応に優れたクラウド テクノロジに注目し、現在提供するさまざまなプラットフォーム製品やサービス、システム化や開発手法などを採用していますが、前述のシステム開発の領域では、マイクロ サービス化や API 連携による設計や、アジャイル開発などを推奨しています。
特に変化対応業である小売業界向けには、早急に、こういった考え方を標準的なものとして認知いただく必要があると考え、2019 年に日本国内向けに「スマートストア」という施策を開始しました。
これは、当時多くの国内小売業が挑戦を開始した「次世代店舗プロジェクト」を対象に、クラウド テクノロジをベースに、継続的かつ迅速に革新を続けることができる店舗システムの「設計: リファレンス アーキテクチャ」「ユースケース・サンプルコード」をマイクロソフトが開発・オープン化し、同時に技術者の育成支援を行う施策です。たとえば AI など個々のテクノロジは進化していますが、それらを遮二無二、従来の設計思想でスクラッチ・組み込み開発しようとしても無理が生じます。多くの技術者がこの「スマートストア」の取組に賛同・参加くださり、この数年でさまざまな形で採用され、店舗向けに多くの先進ソリューションの準備も整ってきているのです。
ご参考資料: Enabling Intelligent Retail ソリューションガイド
小売業におけるスマートフォンの活用促進
また、日本でも MZ 世代人口が 25% を超えた (米国では最大層) との総務省人口推計や、高齢層のガラケーからスマートフォンへの移行が進む中、また、より高度でシームレスな顧客体験「OMO」実現を踏まえ、スマートフォンの活用に小売業の注目が集まっています。
大手小売業は、スマートストアの実装や過去の自社スマホアプリ開発で得たノウハウや、店舗の資産を集結・実装技術も最新化し、顧客基盤とのつながりをさらに密で広いものにすべくスーパーアプリの開発投資を進めるケースも見られ始め、マイクロソフトもその実現に伴走させていただいています。
ご参考: 最新のアプリケーション開発 | Microsoft Azure
一方で、一部の小売事業者で、自社スマホ アプリ開発サイクルが回しにくくなっている状況も散見されています。初期投資してスクラッチ開発でアプリをリリースしたものの、思ったようにインストール数や利用数が伸びなかったり、利用促進のためのコンテンツや機能追加、そのためのバックエンドのレガシーシステムとの連携などの追加開発に多額の費用と時間がかかる、といった状況下で投資サイクルが回りにくくなり、先行きが見通しにくくなるというようなケースです。このようなケースで有効な解決策の 1 つが、月間利用者 9,200 万人を超え (2022 年 3 月時点)、生活者にとっての最重要スマホ アプリとなっている「LINE」の活用です。LINE のバックエンドに小売業自身のユニークな体験・サービスを実装・連携させる考え方です。これにより、前述のインストール数の伸び悩みという初めのハードルを越えたところからスタートでき、常に顧客のスマートフォン ホーム画面上に自社チャネルを配置することができることになるのです。
マイクロソフトは、このスマートフォンの領域で、自社アプリおよび LINE 活用の両シナリオにおいて、小売事業者向けにプラットフォーム提供と設計開発支援を推進し、あわせてパートナー エコシステムの提供を強力に推進していきます。
LINE 活用のシナリオにおいては、2021 年 11 月に LINE 社と小売業領域での協業を発表しました。ここでは、マイクロソフトは Azure および関連技術の提供と、マイクロソフト技術を熟知した初動パートナー 14 社と小売事業者とのエンゲージメントを推進していくことになっています。スマートストア施策同様に、LINE 社が定義する API 設計に則り、パートナー各社のサービスを連携させることによって、迅速で革新的な体験を実装していくことを意図しており、順次エコシステムと利用可能なサービスの拡充を行っていくものです。
さらに、この体験価値を継続的に向上させる方向性を出すために、実装された各種サービスをどのように顧客が利用しているのかを統合的にデータ把握し、さらにそれを OMO を前提にアクショナブルなインサイトとして活用していくことが重要となります。このため、顧客理解 (カスタマー インサイト) を得るための CDP「D365 CI」をこの取組みの基盤として標準的に提供するため、リファレンス アーキテクチャおよびシステム実装の際に役立つコンテンツ (サンプルや構築手順など) を開発し、一部を LINE 社 HP から公開しました。以下にその技術的特徴を記述します。
LINE 協業における D365 Customer Insights「リファレンスアーキテクチャ」の技術的特徴
LINE および Microsoft のテクノロジを活用して、顧客の接点機能、本社による顧客管理機能および店舗スタッフによる接客業務に至るまでの、幅広く顧客を支える仕組みを実現していることが特徴です。具体的には、多くの顧客が日々手にして日々接点を持つ LINE を利用してオフラインおよびオンラインの顧客接点を持つ機能を LINE API と Azure App Service を活用し、独自の体験を顧客に容易に提供することが可能となります。また、LINE のユーザー数の多さから、たとえば、顧客の友人などへのアプローチ施策にも生かすことが可能となるのです。
また、統合顧客プロファイルの仕組みとしてマイクロソフトの CDP (Customer Data Platform) である Dynamics 365 Customer Insights、および Dynamics 365 の CRM アプリケーション群を組み合わせており、顧客一人一人の解像度を上げ、継続的な顧客との関係性管理を行うことが可能となります。さらに、ローコード開発プラットフォームの中で Power Apps を利用し、店舗スタッフによる接客アプリを活用することが可能となります。店舗スタッフは容易な操作で、解像度の高まった顧客お一人お一人に合わせた接客をすることが可能となるのです。
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