4 つの活動で DX を力強く推進する香川大学の取り組みとローコード開発事例
2023 年 2 月 10 日・17 日の 2 日間、香川大学地域人材共創センターは令和4年度香川大学リカレント専門講座として『Kadai DX 塾」 ゼロから始めるデジタルトランスフォーメーション』を開講しました。
香川大学は 2022 年 5 月 20 日より日本マイクロソフトと連携協定を締結し、昨今ニーズが高まっている DX 推進人材の育成を通して大学改革と地域活性化に取り組んでいます。
日本マイクロソフトが後援する形で開催された本講座では、香川大学が実践してきたノウハウや実際の成果が共有されるとともに、変革の最前線で活躍する教員や現場担当者によるハンズオンセミナーが提供され、Microsoft 製品による業務効率化や DX の奥行きと可能性を感じさせるものとなりました。
このレポートでは、セッションとしては最後にあたる香川大学 情報部 情報企画課 情報メディアセンター DX 推進部門 武田 啓之によるトーク「香川大学の業務プロセス改革の取り組み」をまとめます。
学長直下に DX 部署を新設。迅速な意思決定ができる組織へと変革した
18 年間にわたって香川大学の事務職員を務めてきた武田氏が DX 担当になったのは 2021 年 4 月のことでした。当時はコロナ禍の真っ只中で、香川大学もまた DX の必要に迫られたそう。さらにはアフターコロナ(アフターデジタル)の世界を見据え、デジタルな世界がリアルな世界を包含する「OMO(Online-Merge-Offline)」の考えにもとづいた「香川大学デジタル ONE 構想」が打ち立てられました。
「デジタルネイティブの子ども達がデジタルとリアルを融合したものとしてごく自然に捉えるなかでは、彼らに教育を提供する我々もまた、それに応じて変わっていかなければなりません。そこで生まれたのが『香川大学デジタル ONE 構想』です。具体的には、学長の直下に『情報戦略室』を設置し、デジタル化統括責任者(CDO)も任命。DX には欠かせない、迅速な意思決定ができる体制へと変化させていきました」(武田氏)
「DX ラボ」が主体で 4 つの取り組みを実施。とくにハンズオンの影響は大きい
体制整備に加えて同大学が重視したのは、デザイン思考能力の育成でした。これまでは主に学生に向けて指導してきた領域でしたが、DX を現場から進めるためには教職員もデザイン思考を身につけることが大切と判断。MVP(Minimum Viable Product:必要最低限の機能を備えたプロダクト)のプロトタイプをスピーディに開発し、検証を経て改善していくサイクルをなるべく早く回すことを行動指針として掲げ、「DX ラボ」と名付けられたチームを中心に 4 つの取り組みをおこなってきました。
「DX ラボでは、業務 UX 調査、業務改善アイデアソン、業務システム内製開発、業務システム開発ハンズオンという 4 つの軸で香川大学の DX を進めてきました。これらは独立した取り組みというよりもむしろ密接に関わりあうもので、教職員の業務についてヒアリングをし、それを解決するアイディアを出し、ハンズオンで得た知識を活用しながら業務システムの内製をおこなうイメージです。これらの活動を経て、香川大学では 2023 年 2 月現在で 50 を超えるシステムを内製開発。ハンズオンには学内外から約 200 名が参加し、『こんなことを自動化できないか』とひっきりなしに相談が舞い込む状況になりました。本日これから提供されるハンズオンも、多くの方の発想力を刺激し、勇気づけるものになることを確信しています」(武田氏)。
なお香川大学では、2016 年より産官学連携事業として「かがわ ICT まちづくりアイデアソン」を開催してきた実績があります。武田氏によればこのアイデアソンは、「ルールに従って滞りなく業務を遂行することを重視してきた大学職員にとって、ブレイクスルーとなるような気付きに満ちていた」と言います。同大学が迅速に体制整備へと舵を切れたのも、これまでに積み重ねてきた成功体験があったからこそと言えるかもしれません。
Microsoft 365 の活用により、1 週間で電子決裁システムのプロトタイプが完成
武田氏は香川大学のこれまでの取り組みをこう振り返ったうえで、実際の開発事例として、電子決裁を可能にする「学長電子決裁システム」を紹介しました。このシステムは同大学の幸町地区統合事務センターで業務に取り組む職員 4 名と DX ラボのスタッフ 5 名による業務 UX 調査から生まれたものです。
分析においては職員が文書作成・決裁をおこなう際にどのような行動を取り、どのような思考・感情を抱いているのかを表したカスタマージャーニーマップをもとに仕様を検討。さらには決裁者である学長や情報メディアセンター長である八重樫 理人教授にもインタビューし、決裁者自身も現行のフローに課題を感じていることを明らかにしました。
「本学の学長は医師でもあるため、病院での診察もあるなかで、学長室まで足を運ばなければ決裁できない運用に不便を感じていたそうです。しかも中には学長決裁が不要と思われる相談も少なくなく、業務の見直しが必要であると。また八重樫教授からも、大量の決裁を求められて負担が大きいことや、承認の結果をフィードバックする仕組みがないこと、多くの人が押印による『確認』をしているにもかかわらず書類に誤字や脱字が多く、承認が形骸化しているのではないかという問題提起がなされました」(武田氏)。
これらの議論を踏まえ、DX チームは「決裁」という業務を文書作成・決裁・結果共有の 3フェーズに分解。そのうえで、まずは決裁・結果共有の 2 フェーズを電子化すべく、Microsoft Teams と Microsoft Power Apps を活用したプロトタイプを作成しました。
「このプロトタイプは DX ラボの学生がわずか 1 週間で作り上げたものです。起案者がアプリを介して決裁を申請すると、まずは理事と副学長のもとへ届き、内容の確認をしてもらえます。必要があればコメントを加え、次は学長のもとへ。ここで決裁が行われると、起案者のもとに通知が届く仕組みです。なおこの件でユニークなのは、『この件について学長決裁は不要』ボタンをつけたこと。これにより不要な決裁の案件自体を減らし、肥大した業務をスリム化する効果もねらいました」(武田氏)。
武田氏は「デジタルはあくまでも手段」と強調しつつも、現場レベルでの業務改善には強い期待がもてると語ります。最後は「今後も教員・職員・学生が主体となって足元から DX を進めたい」との展望が語られ、セッション終了となりました。
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