Environmental Credit Service で炭素クレジットの透明性を高める
※本ブログは、米国時間 2022 年 11 月 3 日に公開された Increasing transparency for carbon credits with Environmental Credit Service (英語) の翻訳です。
炭素クレジットに熱心に取り組んでいる皆様に朗報です。まもなく、たくさんの、より上質な環境資産が市場に投入される予定です。
世界中でネット ゼロを達成するのに必要な変革のステップ1 に対する認識が高まり、組織は、排出量を可能な限り削減し、削減できないものはニュートラル化するという取り組みをさらに重視するようになっています。多くの組織が、自発的かつコンプライアンス主導の新興の炭素オフセット市場に注目しており、検証済みで比較可能、取引可能な CO2 削減/除去クレジットに投資しようとしています。これらを含む、その他の環境資産は有望な可能性を示し、2030 年までに需要が最大 15 倍になると予想されていますが2、その一方で一貫性のない品質基準、サイロ化されたクレジット レジストリ、非効率的なプロセスなどの問題もあります。
本日マイクロソフトは、Microsoft Cloud for Sustainability ソリューションの 1 つとして、Environmental Credit Service (プレビュー版) を発表いたします。このサービスは、透明性を高めてこれらの問題に対処できるようにする共通インフラストラクチャを提供すると共に、クレジット作成プロセスを通じて由来を追跡する機能を提供します。
「炭素クレジットは、気候緩和ソリューションに対する資金供給のための市場ベースの重要なメカニズムです。しかし、その真の可能性を実現するためには、信頼に裏付けされた、健全な炭素サービス エコシステムが必要です」
— Climate Impact X、最高経営責任者、Mikkel Larsen 氏
この新たなサービスでは、環境資産をその組成から無効化まで追跡することができます。既存および新しい品質基準に基づく、環境主張やクレジットの由来と品質に関するこの可視性の向上を通じて、より信頼性の高いクレジットや資産をより多く確保できるようにするため、環境プロジェクトの開発者だけでなく、検証者、レジストリ、市場、取引所などの下流段階の参加者にとっても、選択肢や機会が拡大されます。Environmental Credit Service は、クレジット組成プロセスの自動化、簡素化、保護支援を通じて、すべての関係者に利益をもたらします。
詳細については、このサービスに関するインフォグラフィックをダウンロード (英語) するか、または会話をお聞きください (英語)。
自ら学んだ教訓に基づく共通インフラストラクチャの構築
十数年にわたるサステナビリティの取り組みで炭素の削減および除去 (英語) やその他の主要重点領域 (英語) に注力するなかで、マイクロソフトの環境およびデータ サイエンティスト チームは、環境製品や炭素除去プロジェクトの品質と完全性の判断における構造上の課題を発見しました。
世界には、炭素の削減および除去の測定、検証、報告 (MRV) のための一貫した基準がありません。除去量と、回避または削減された排出量を明示しないオフセット量とが混同されることがあり、またクレジット システムごとに、ソリューションの想定される持続性に関する価値が異なります。
共通の基準がなければ、企業のクレジット購入者はデュー デリジェンスの重荷を負うことになります。多くの場合、独自の基準を策定しなければならず、自信を持って投資することが難しくなり、また単独での取り組みであることから結果の追跡能力も損なわれます。
一方、証拠に裏付けられた主張に基づいてクレジットの作成、処理、発行を行おうとする環境プロジェクトの所有者 (および開発者)、検証者、レジストリ側では、複雑で時間とコストのかかるプロセスを処理しなければなりません。
全体的に、資産のライフサイクル プロセスは、非効率的で、主張に一貫性がなくなる傾向があり、参加者は次のような具体的な障害に直面しています。
- クレジットを生成する環境プロジェクトの開始に時間とコストがかかりすぎる。
- レジストリがクレジット組成プロセスの効率化や自動化のためのテクノロジを備えておらず、クレジットの作成がサイロ化している。
- 発行されたクレジットの品質評価や供給のサイロ間での比較が困難である。
- データの透明性の欠如により、クレジットの由来に信頼性がない。
- 最新のデジタル化された品質基準に基づく差別化されたオファリングではなく、差別化されていない技術的な組み込みの開発に時間が浪費されている。
「これまでどおりのやり方はもはや選択肢とはなりません。分野を越えた協力関係を築き、それぞれの強みと能力を組み合わせたメリットを活用する必要があります。なぜならコラボレーション、信頼、そして何より行動することが、グローバルな気候目標の達成へと私たちを導いてくれるのです」
— Aker Carbon Capture、サステナビリティ責任者、Hanne Rolén 氏
環境製品のライフサイクルの再定義に向けた、マイクロソフトのエンジニアリングの取り組み
私たちエンジニアリング チームは、お客様やパートナー、そして社内の炭素チームと連携して、これらの問題の解決のためにできることはないか検討する取り組みに着手しました。Environmental Credit Service は、共通インフラストラクチャと共通データ基準の提供における最初のステップとなるものであり、環境クレジット プロセスの促進と製品の差別化に必要なデータの収集をするものです。
このサービスでは、私たちが Global Blockchain Business Council (GBBC) のイニシアティブの 1 つである InterWork Alliance (IWA) (英語) と共に開発に携わったオープン スタンダード (英語) に従って、環境製品の組成を再定義し、自発的な環境市場のライフサイクルの仕組みを簡素化しました。
私たちの取り組みの目標は以下のようなものです。
- 多様なプロジェクトのグローバル エコシステムから炭素クレジット、削減、除去のプロジェクトの供給を拡大すると共に、信用と信頼性を加える。
- ライフサイクルの自動化とデジタル化を通じてこうしたクレジットのコストを削減し、市場投入における資金面での障壁を引き下げる。
- 市場投入を迅速化し、クレジット生産の報酬を与える。
- データ基準の使用により、さまざまな供給元や方法によって生成されたクレジットの理解、比較、分類、価格設定を容易化してクレジットの品質を保証し、市場の流動化につなげる。
「マイクロソフトと Climate Impact X とのコラボレーションは、市場に信頼性をもたらすための私たちの継続的な取り組みを基礎としており、今後さらにエコシステムの参加者と新たな市場参入者をつなぎ、最終的にはグローバルな炭素市場の規模の拡大を促進したいと思っています」
— Climate Impact X、最高経営責任者、Mikkel Larsen 氏
Environmental Credit Service を使用した、自発的な炭素クレジットの組成
このサービスを使用して炭素除去の由来を追跡する場合、クレジット組成プロセスがどのようなものなのか、以下に例を示します。
- 関係者は、一度限りのロールベースのセットアップに従ってシームレスにネットワークに接続することによって、ライフサイクルにおけるそれぞれの役割の活動に従事できるようになります。
- プロジェクト開発者はプロジェクトの詳細を設定し、品質基準と認定された検証者を選択して、ネットワーク上でクレジットのサプライ チェーンを確立します。
- プロジェクトは、品質基準に基づく証拠の収集を開始し、回収された炭素と、回収プロセスで排出された炭素の両方を測定します。この証拠は、炭素除去の主張のチェックポイントとして定期的に提出されます。
新たな主張の作成
- 主張は炭素除去活動全体を通して構築され、証拠が暗号化により保護されて由来と信頼性が保証されます。炭素除去活動が完了すると、主張はネットワーク上で自動的に検証対象として提出され、検証者により処理対象として選択されます。
- 検証者は提出された主張をロックし、他の検証者が処理できないようにします。その後、フレームワークにより、証拠保全と信頼性が自動的に確立されたすべての証拠が検証者に提供され、検証者がデータを処理できるようになります。確認と検証が完了すると、検証者は処理済みの主張を作成します。元の提出された主張は無効化され、再検証はできなくなります。
- 処理済みの主張は、除去された炭素の総量に関する詳細なレポートを提供すると共に、その処理済みの主張を差別化するすべての属性またはプロパティを提供します。たとえば、処理済みの主張には、除去された炭素の総量に加えて除去の持続性に関するプロパティが含まれ、隔離期間、反転リスク、反転軽減方法が示されます。その他のプロパティとして、国連の持続可能な開発目標などの目標に対応するコベネフィットなどが含まれる場合があります。
重複するプロジェクトとクレジット
- 発行レジストリに処理された主張が自動的に通知され、レジストリは発行対象のクレジットの品質とコンプライアンスの最終チェックを開始します。チェックが完了すると、炭素除去クレジットがプロジェクトに発行され、処理済みの主張は、再びクレジット化されないように無効化されます。
- 発行後、プロジェクトの所有者は、そのクレジットの流通場所や流通方法を選択することができます。たとえば、市場で販売用の単独資産として流通させたり、大量購入用の資産バスケットに組み入れたり、少額取引用または資産添付として使用できるように、より小さな資産に分割したりすることができます。
取引用のクレジットのリスト
- 市場では、Environmental Credit Service のクレジット由来機能を活用して、取引対象のクレジットに関して購入者との間で信頼を築くことができます。
クレジット リストと系列のビュー
- 市場 (またはレジストリ アカウントを持つクレジット購入者) は、クレジットのすべてまたは一部の無効化を円滑に進めることができます。無効化提案をレジストリに提出することができ、レジストリは無効化証明書を発行することができます。
ライフサイクル参加者にとっての今後の機会
パリ協定 (英語) の第 6 条により、自発的な市場とコンプライアンス市場の連携がまもなく認められ、国レベルでの排出量の規制コンプライアンスに自発的な行動が加算されるようになります。Environmental Credit Service は市場参加者にとってタイムリーなソリューションを提供し、環境市場の合流とプロジェクトの加速をサポートして、膨大な機会を提供します。
たとえば、さまざまな役割の参加者が、自動化を通じて削減または除去の主張をすばやく作成したり、再生可能エネルギー クレジット (REC) を拡張して紐付けされた特典を組み込んだりすることができます。共通モデルを通じて共有可能で、クラウドで分析可能な検証済みの参照データ (IoT や衛星データなど) を使って、データドリブン サービスを提供することもできます。さらに AI を使った主張や検証の異常追跡や、その他さまざまなことが可能です。このサービスの早期導入によって、このような取り組みの報告や実現が促進されます。
世界をリードする温室効果ガス クレジット プログラムの管理機関 Verra (英語) による 1 つのパイロットでは、Environmental Credit Service を Microsoft Planetary Computer (英語) および Muon Space (英語) の衛星テクノロジと統合して地上の環境プロジェクトのリモート監視を自動化し、正味排出量削減の定量化の精度を高めています。
「このリモート監視システムは、測定、報告、検証プロセスのデジタル化と信頼性の高い炭素クレジットの発行に向けた第一歩となる重要なステップです」
— Verra、テクノロジ ソリューション担当シニア ディレクター、Benktesh Sharma 氏
工学的な炭素除去に特化した世界初の炭素クレジット プラットフォームである Puro.earth (英語) は、Nasdaq, Inc. およびマイクロソフトと連携して、自社の Puro Standard による検証済みの炭素除去クレジットのアクセス性を拡大しました。Environmental Credit Service は、組織が Puro.earth のクレジットをより効率的に見つけ、より多くのクレジットを利用できるように支援します。
Nasdaq, Inc. (英語) からは、Environmental Credit Service の開発においてテクノロジ、標準プロトコル、機能に関する意見を提供してもらいました。同社は、炭素除去市場における流動性、透明性、完全性を高め、自社の顧客のネット ゼロへの道程を支援することを目指しています。
「マイクロソフトや他の炭素市場参加者とのパイロット取引では、信頼性が高く、追跡可能な炭素クレジットの需要の増加に対応し、市場が気候変動対策の主要な推進要素としてその能力を発揮できるようにするうえで、コラボレーションが果たす重要な役割が強調されています」
— CIBC Capital Markets、デジタル市場担当エグゼクティブ ディレクター兼 Carbonplace における CIBC 代表、Robin Green 氏
グローバルな炭素クレジット取引ネットワークである Carbonplace (英語) は、このサービスを使って、認定された炭素クレジットをシンプルかつ透明な方法で移転できるようにする予定です。既存のコンプライアンス フレームワークをブロックチェーンに対応した革新的な分散型台帳テクノロジと組み合わせることによって、Carbonplace は炭素クレジットへの投資を幅広い購入者に開放しようとしています。
企業や投資家がサステナビリティや炭素クレジット プログラムの影響を効率的かつ信頼できる方法で定量化できるよう支援する、テクノロジ主導の検証機関である SustainCERT (英語) は、Environmental Credit Service によって、同機関のプラットフォームとサードパーティのプラットフォーム間の相互運用性を向上するためのデータの標準化をいかに促進できるか調査しています。
海洋および陸上の再生可能エネルギー施設の開発企業である Ørsted (英語) は、マイクロソフトおよび Aker Carbon Capture (英語) と共同で、バイオマス焚き熱電供給所の炭素の回収と貯留 (BECCS とも呼ばれる) に取り組みました。このパートナーシップにより、Environmental Credit Service の使用を通じて、高品質の炭素除去を行いながら自発的な炭素市場の成熟と発展を支援することができます。
「このプロジェクトおよびマイクロソフトとのコラボレーションによって、Ørsted の資産ポートフォリオ全体での BECCS、デジタル ソリューション、炭素クレジット手法の展開における優位性が得られると期待しており、さらにこのプロジェクトとコラボレーションは電力セクター全般の BECCS プロジェクトの青写真となる可能性があると期待しています」
— Ørsted、バイス プレジデント、Jens Andersen Grymer 氏
よりサステナブルな世界を構築するための探究にご参加ください
マイクロソフトのミッションは、地球上のあらゆる人や組織がより多くのことを成し遂げて、今日の限界を超えて繁栄し、発展できるよう支援することです。気候危機に対処するためには、すべての組織と政府がコラボレーションを行い、情報を共有して、共同ソリューションをより迅速に構築する必要があると私たちは考えています。
マイクロソフトは、Microsoft Cloud for Sustainability ソリューションにより、マイクロソフトとグローバルなパートナー エコシステムが提供する、ますます充実していく一連の環境、社会、ガバナンス (ESG) 機能を統合することによって、組織におけるサステナビリティの進展とビジネスの成長の加速を支援しています。
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Microsoft Cloud for Sustainability
Microsoft Sustainability Manager による、環境への影響の記録、報告、削減 — Microsoft Cloud for Sustainability の新たなソリューションがご利用可能になりました。
詳細
1「The evidence is clear: the time for action is now. We can halve emissions by 2030.」 (証拠は明らか、今こそ行動を起こす時。2030 年までに排出量を半減させることが可能。)、IPCC (英語)
2「A blueprint for scaling voluntary carbon markets to meet the climate challenge」 (気候変動の課題に対処するための自発的炭素市場の規模拡大の青写真)、McKinsey、2021 年 1 月 (英語)