思いついたアイデアをその場でカタチに! Surface Book で学生たちの発想が飛躍
※ この記事は 2018年02月01日に DX LEADERS に掲載されたものです。
これまで、デザイナーやイラストレーターの仕事は、オフィスに据え置かれたハイスペックなデスクトップPCに向かって作業をするのが“常識”だった。だが、高性能なモバイルデバイスの登場や使い勝手のよいクラウドの普及によって、こうしたクリエイティブな世界にも変革の波が押し寄せつつある。
今回は、CADソフトウェアのトップ企業であるオートデスクの中村翼氏と渡辺朋代氏にお話を伺った。中村氏は、日本大学藝術学部デザイン学科の講師も務め、3D CADを用いたプロダクトデザインの授業を担当している。2017年度の授業では新たな試みを行ったという。
2Dスケッチは「紙に描く」から「デジタルディスプレイに描く」時代へ
デジタル化の大きな波を受け、産業界ではすでに2Dデータ作成から3Dデータでの製品設計まで、製品開発のあらゆる段階でのデジタル化が進んでいる。
「私が担当している大学のプロダクトデザインの授業では、3D CADのスキル向上に時間を費やしています。しかし、昨今のフルデジタル化の流れを受けて、授業の課題もフルデジタル化するという新しい試みに取り組みました」とオートデスクの中村翼氏は話す。具体的には、中村氏が受け持つ日本大学藝術学部デザイン学科の2017年度の授業で、3年生24名全員がマイクロソフト社の 2 in 1 ノートパソコン「Surface Book」を利用し、オートデスク社のクラウド3D CADソフトで、教育機関は3年間無償の「Autodesk® Fusion 360」とデジタルスケッチ/ペイントツール「Autodesk® SketchBook® Pro」を用いたプロダクトデザインを行うという取り組みだ。
従来、広く行われてきた3Dプロダクトデザインの制作方法では、紙に2Dでスケッチをして、それをスキャンしてデジタル化した後に、CADソフトで3D化するというアナログからデジタルデータへの移行が生じる。中村氏の授業では、CADソフトを使いこなすことに加えて、デザイン作成の入り口にあたる2Dのスケッチを Surface Book と Surface ペンを使ってデジタルで作成することも重要なポイントになった。新しいデバイスが自由な発想を支援同時に生産性をアップする
中村氏が授業で重要視したのは、自由でクリエイティブな発想である。
「CADの使い方自体は、基本レベルまで到達することが目的ですが、会社に入ってからでも覚えられます。私の授業では、Fusion 360を軸にいろいろなツールを試してもらい、学生たちの発想の幅を広げることに主眼を置きました」(中村氏)
2Dのスケッチを描くことと、3D化してプロダクトデザインの完成度を高めていくこと、この2つの作業に、場所を選ばずどこでも作業ができるクラウド環境と、スタジオモードやラップトップモードなど使い方に応じて自由に変形できる Surface Book は効果的だったという。
「2Dスケッチを描く際に、スタジオモードに切り替えて描くと、紙にペンで描く感覚と近いですからアナログ環境に慣れた学生たちにも違和感がありません。一方、Fusion 360でCADの作業をするときはラップトップモードで利用できます。このように、自分がしたい作業に合わせてフレキシブルにデバイスを使いこなせる体験が、学生たちのデジタル化への障壁を減らしていると感じました」と中村氏。なかには、 Surface Book をハの字の形で立てたままの状態でスケッチをしている学生もいたという。
「新しいデバイスの使い方という点で興味深かったのは、2Dスケッチの練習をしているときに、 Surface Book の内蔵カメラで撮影した画像を上からトレースして、似顔絵のようなものを描いた学生がいたことです。なるほど、そんな使い方もあるのだと感心しました。ゼロから書きはじめるスキルも大切ですが、実際の製品開発に当たっては、こうしてサンプルになるものをベースとすると、作業が効率化できて生産性アップにつながります」(中村氏)アイデア次第で、自由に自分の使いやすいスタイルを確立できることは、クリエイティブな作業に集中し、より良いアウトプットを生み出すための近道となる。その結果、「風や光を感じるセンサーを内蔵して、効率よく洗濯物を干せるピンチハンガー」や「紙の上に光を投影することで、まっすぐに文字が書けるボールペン」など、授業を通じて学生からユニークなコンセプトの作品が次々に生み出された。
クリエイティブの世界にもモバイルオフィスの時代が到来
今回の授業で使用されたFusion 360は、クラウドを利用するCAD ソフトだ。これからはクラウド環境によって、よりクリエイティビティの高い作品が場所や時間の制限にとらわれず創り出されていくことになる。
CADソフトというと専用のPCを用いて操作する印象が強く、モバイルデバイスとは馴染まないと考える人が多いかもしれない。確かに、これまではハイスペックのデスクトップPCが前提で、作業をするのはオフィスというのが常識だった。
「クラウドベースのFusion 360は起動が早いだけでなく、操作もかなり軽くなっています。 Surface Book のようなデバイスを用いることで、プロダクトデザインのコンセプトづくりやモデリングをデスクやオフィスにしばられることなく、いつでもどこでも作業できます」と渡辺氏。
デザイナーにとって、アイデアが出たタイミングで、すぐにそれを描ける環境があれば理想的。アイデアがホットなうちに形にすることで、クリエイティビティの高い仕事が可能になる。今回の授業で学生たちも、アイデア出しの段階から納得のいく作品を完成させるまで、自然にモバイルデバイスとクラウド環境の組み合わせの恩恵を受けていたのではないだろうか。
「コンセプトは、スケッチやCADにすることで初めて相手に伝わります。これをデジタル化することで、作業が効率化され、スピード感が増していきます。学生たちには、そういう実感をもってもらえたのではないかと思います。これまでも、言葉をメモすることは Microsoft Word を使って誰でもやってきました。これからは、デザイナーにとどまらず、絵を描くことがコミュニケーションの手段になる機会も増えていくのではないかと思います」(中村氏)
そもそも、デザイナーの仕事というのは、自分一人で進めることはほとんどなく、エンジニアやクライアントと確認し合いながら進行していくのが一般的だ。その際、これまではデザインを紙に出力したり、ファイル転送サービスを使ったりすることが多かったが、そうした作業も過去のものとなりそうだ。
「モバイルデバイスとクラウドを組み合わせることで、言葉での表現に頼らない、ビジュアルでのコミュニケーションが素早くできるようになります。その場で修正もできますし、意思決定も早くなるという大きな利点があります。同時に、確認がこまめにできるようになったので、手戻りが減るのも大きなメリットです。また、学校などの教育現場では、先生方が教室や研究室にいなくとも、クラウドを経由して学生のプロジェクトの進捗を確認できます」(渡辺氏)
これまでのデザイナーの仕事というのは、外で打ち合わせをしたのちに、オフィスに戻って作業をするという、場所に制約されたワークスタイルが当たり前だった。今後は、現代のオフィスワークと同様に、カフェや移動中に仕事をするというスタイルも普通になるに違いない。
デザインというクリエイティブの現場にも、さらなるデジタル化の波は着実に押し寄せている。それを支えるのは、 Fusion 360 のようなクラウドベースの環境であり、 Surface Book のような直感的な操作が可能なモバイルデバイスになっていくだろう。こうした新しいツールによるワークスタイルの変革は、生産性の向上にとどまらず、デザイナーのイマジネーションを拡張させる可能性を秘めているのではないだろうか。学生たちの取り組みは、その可能性の一端を感じさせるものだった。
アナログ環境からもシームレスな移行が可能に〜学生たちの声をレポート
実際に今回のプロダクトデザインの授業を受けた印象を、学生に聞いてみた。デジタルのペンを使ったのは初めてという人が多かったが、はたして操作性はどうだったのか。
「基本的に紙とペンで書くのと変わらないので、3、4枚も書けば十分に慣れました。最大のメリットは、失敗したときにすぐに戻れること。これだけでも、ずいぶん作業が効率化しました」
スケッチはA3の用紙に書くのが基本だというが、 Surface Book の画面の印象はどうなのか。「実際に使ってみると、狭いという印象はありませんでした。むしろ、見たい部分を自由に拡大できるのが便利に感じました。なにより、A3の紙を持ち運びするよりもコンパクトで扱いやすいのがいいですね」今までは紙にスケッチしたものをスキャンしてPCに取り込んでいたというが、完全デジタル化でその手間が省けたことを喜ぶ声も多かった。
Surface Book を常に持ち歩いていたという学生もおり、「メモや改善点など、思いついたことをすぐに書けるので重宝しました。新幹線の車内でも作業ができて便利でした」と作業場所を選ばずに活用していた様子がうかがえる。
こうした声を聞くと講師である中村氏が期待していることを、学生たちがうまく先取りしているという印象を持った。また、今回の授業の最終回では、日本マイクロフト本社のスペースを借り、学生たちによる自らの作品のプレゼンが行われた。新たなデバイスを使いこなし、自由な発想のプロダクトを3D化した学生たちの力作は、これからの可能性を感じさせるものだった。