最新のテクノロジー×革新的なオフィス空間で働く人々のクリエイティビティが加速【マイクロソフト×スチールケース特別対談】
※ この記事は 2018年03月09日に DX LEADERS に掲載されたものです。
アメリカで創業以来100年以上の歴史を持つ、オフィス家具メーカーのグローバルリーダーであるスチールケース社は、家具やインテリア、テクノロジーなど多様な製品ポートフォリオの研究からデザイン、製造までを手がけ、「人」「場」「テクノロジー」を融合した最新のオフィス空間を提唱し続けている。
同社とマイクロソフト社は、働く人々がクリエイティブな思考を発揮し、より良いコラボレーションを生み出し、より多くを達成できることを目指して、オフィス空間デザインと最新のテクノロジーという両社の強みを生かす協業を行っている。両社が目指す個々のクリエイティビティ(創造性)を引き出すオフィス空間が、日本企業における働き方改革にどのように貢献できるのか。日本スチールケース社のブランドン・ピーターズ氏と、日本マイクロソフト社の三上智子氏にお話を伺った。
テクノロジーの進歩やダイバーシティがオフィス空間を変革する
──まず、どのような経緯で両社のパートナーシップが実現したのか、その経緯を教えていただけますか。
ピーターズ氏:以前、さまざまな企業のCEOが一堂に会するイベントがアメリカで開催されました。そこで出会ったマイクロソフトとスチールケースの両CEOが、両社の企業ミッション*には非常に近い想いがあると感じたのがきっかけです。私たちは、働く人たちの可能性を最大限に引き出すことを目指しています。マイクロソフトはテクノロジーを通じて、スチールケースは設備や空間デザインを通じて、その2社が手をつなぐことでお互いの強みをさらに生かせると考えたのです。
*両社の企業ミッションは以下のようなものとなっている
スチールケース:当社は世界の先進的企業と共に、「人」、「チーム」、「組織」の成果を向上させる働く「場」 づくりに取り組んでいます。(Steelcase helps leading organizations create places that unlock the promise of their people – places that inspire people to bring purpose to life. This is who we are. It’s also what we do.)
マイクロソフト:地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする。(Our mission is to empower every person and every organization on the planet to achieve more.)
──オフィス家具メーカーであるスチールケース社は、現在のオフィス環境に対してどのようなお考えをお持ちでしょうか。
ピーターズ氏:スチールケースは企業や技術、そして世界の変化に合わせて、常に進化してきました。最近では、変化のスピードはどんどん速くなっています。言うまでもなく、大きな変化をもたらしているのはテクノロジーの進歩です。かつては、個人の机なしでは仕事ができませんでしたが、モバイルPCやスマートフォンの普及により、今はオフィスワーカーも個人の机という場所から解放されました。仕事をする「人」の動きに合わせて、自由に働く場所を選択できるようになっています。
変化をもたらしたもう一つの要因は、若い世代が社会に出たことで職場の多様性が増したことです。こうした変化に対して、私たちは常に研究を進め、先進的な企業を効果的かつ創造的にサポートし続けるために、どのようなオフィス環境や空間が必要なのかについて考えてきました。
イノベーションを生み出す「クリエイティブ スペース」とは?
──その答えの一つが、スチールケース社とマイクロソフト社の協業なんですね。協業の内容について、具体的に教えてください。
ピーターズ氏:創造のプロセスを段階ごとにサポートする、5つのオフィス空間「クリエイティブ スペース」を共同開発しました。両社は、創造性を発揮する仕事は、これまでの典型的なプロセス重視型のオフィスワークとは大きく異なると考えています。私たちが持っていた重要な知見のひとつは、創造性を発揮する仕事には、チームが集まって新たなアイデアを生み出したり、ペアであったり個人が集中してアイデアを練り上げたりといったさまざまな場面があり、それらに対応したスペースが必要だということです。
また、マイクロソフトの Office 365クラウド サービスに対応した Surface Hub のような固定式のコラボレーションデバイス、 Surface Book や Surface Pro などのモバイルデバイスといったテクノロジーも必要です。これにより、アイデアをいつでもどこでも形にすることができます。空間のデザインが、人々がどれだけテクノロジーを使いこなせるかに、顕著な影響を与えることも分かったのです。
5つのクリエイティブ スペースのうち、東京・広尾にあるスチールケース ワークライフ東京には、メーカー・コモンズ、デュオ・スタジオ、レスパイト・ルームの3つが設置されています。グループ全員のコラボレーションや、小規模グループでのメンバー間の会話、個々の熟考や集中などのさまざまなタスクを迅速に切り替えることができるように設計されているため、私たちはこれらの空間を「エコシステム」と呼んでいます。クリエイティブ スペースを実際に使用すると、両社のコラボレーションの意義や、どのようにイノベーションが生まれるかを実感していただけると思います。
三上:最近では、働き方改革ということが広く言われるようになりました。マイクロソフトでもさまざまな取り組みをしてきましたが、従来はテレワークのようにオフィスの外でも働ける環境をどう提供するか、という分野に注力してきました。
ただ、働き方改革をさらに進めていくためにステップバックして考えてみると、オフィスで過ごす時間が長いことを無視するわけにはいきません。やはりより良いコラボレーションやアイデアを生み出す上で、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションに優るものはなく、そこから生み出されるものの価値は計り知れないと私たちは考えています。ですから、オフィス空間をどう充実させるかの提案は私たちにとって非常に重要です。
──働き方改革の進展に伴って、日本のオフィス環境はどのように変わっていくとお考えですか。
三上:日本で一般的なオフィス環境というと、今でも部屋に隙間なく机を並べて、そこでキーボードを打っているという会社を想起するのではないでしょうか。しかし、オフィス外で働く機会も増えており、また、部門の垣根を超えた意見交換やコラボレーションもより重要になっています。そうした新しい働き方に寄り添った空間のつくり方が発展していくことでしょう。
マイクロソフトでは、ホログラフィック・コンピューターとヘッドマウントディスプレイを組み合わせたミックスド・リアリティ(MR:複合現実)を実現しています。こういったテクノロジーがさらに進化することで、例えば遠距離とのコミュニケーションも、パソコンのディスプレイといったような自分と相手を隔てる物理的な障壁に捉われた従来のやりとりではなく、相手が目の前にいるかのように会話ができるようになります。プレゼンテーションも、二次元的なスクリーンに投影するだけでなく、空間全体がスクリーンになり、グラフや画像などをより直感的に操作できるようになるのではないでしょうか。そうなると、オフィスは机やパソコンが並んでいるだけではなく、これまでの概念を覆すようなさまざまな形の空間が求められると思います。
また、今後はソーシャルメディアになじんミレニアル世代が次々に会社に入ってきます。そうした若い世代の人たちから、40代、50代の人たちも含めて、いろいろな経験と考え方を持った人たちが働きやすい環境づくりをすることが、これまで以上に大切になるでしょう。そして、オフィス設備や機器に投資してオフィス環境を整えることが、社員のモチベーションを高めると同時に、優れた人材を確保することにつながってくると思います。
多様な働き方をサポートする空間とテクノロジー
──日本のこれからのオフィス環境を考えていく上での「鍵」は、どのような点にあるとお考えですか。
ピーターズ氏:これまで私が日本市場を見てきた経験から言わせていただくと、「オーセンティシティ(自分らしさ)」と「ウェルビーイング(働く人の心と体、感情の健康)」が非常に重要な概念になってくると思います。私たちの研究によると、オフィス空間のデザインは、人々が会社でどのように感じ、行動するかに影響を与えるという調査結果があり、これは裏を返せばオフィス空間を戦略的に設計することで働く人にオフィスで自分らしさを発揮させたり、心地よさを感じさせたりすることも可能ということです。オフィス空間は、持続的なイノベーションを生み出すために必要な基盤なのです。
三上:ピーターズさんのおっしゃるオーセンティシティというのは、「自分らしさを出して働く」という意味だと思います。これは非常に重要なことだと私も考えています。自分らしさを出して自由な表現をすることで、新しいアイデアが生まれるからです。そのためには、いろいろな世代のいろいろな働き方を包み込むようなオフィス環境やテクノロジーが欠かせません。
また、コラボレーションも大切なキーワードです。プロジェクトによってさまざまなチームが構成され、その交流を支えるのもまた、テクノロジーでありオフィス環境だと思います。
もちろん、心と体の健康を保つことは、社員のモチベーションを維持してそれぞれの可能性を引き出すために不可欠です。
──スチールケースの「空間」とマイクロソフトの「テクノロジー」が組み合わされた今回の協業についてのお二人の思いをお聞かせください。
ピーターズ氏:お互いのチームが、熱い思いをもって活動できているので、本当にワクワクする毎日です。なかでも、お客さまやビジネスパートナーを巻き込んで、改善の方法を見つけ、より良い働き方を生み出す手助けをすることが、私たちにとって貴重な経験になっています。スチールケースとマイクロソフトは、この協業で互いに多くを学び、さらに深い関係が構築できると確信しつつ、日本のお客さまやパートナーがもっと活躍できるよう支援したいと考えています。
三上:まだ協業がはじまってから期間は短いのですが、マイクロソフトの社員みながとても喜んでいるのが印象的です。とくに、空間に対するスチールケースの「哲学」を知ることで、さらに深い形でお客さまへのソリューション提案ができるようになりました。
例えば、会議机と Surface Hub の間が1.8m離れている方が、ディスカッションに参加しているメンバーが自由に立ち上がって Surface Hub を操作しやすく、コラボレーションが生まれやすいデザインであるとか、会議机や椅子を高く設定することで、立ち上がった人と座っている人との目線の高さがちょうど同じになり、参加者が発言しやすくなるといった、人間工学や心理学を駆使した空間に対するスチールケースの「哲学」を知ることで、これまで以上に具体的な提案が可能になりました。
今後も、両社の協業がさまざまな化学反応を起こしていくことを期待しています。それによって、日本の働き方改革に少しでも貢献していければと考えています。
マイクロソフト×スチールケースが生んだオフィス空間とは?
今回、「クリエイティブ スペース」も設置されたスチールケース ワークライフ東京をピーターズ氏に案内いただいた。
以下、創造性を発揮するために考え抜かれた、それぞれのスペースの特徴をご紹介いただこう。
●メーカー・コモンズ
アイデアの生成とグループ内の交流を支援するように設計された空間。リラックスした雰囲気のオープンスペースに Surface Hub が設置され、人々が会話に参加し、新しいアイデアを試すことを促す。会議のための大きなテーブルに座るのではなく、ソファに座ったり、立ったり、さまざまな姿勢を取ることができるようになっているのは、動き回っている時の方が人々がより創造的であるためだ。
●チーム・スタジオ
小規模な作業グループのメンバーが集まって、アイデアを共有したり評価したり、新しいアイデアを生み出したりするための空間。「素晴らしいコラボレーションを生み出す空間を作るには、メンバーの数や姿勢、アイデアを共有しチーム内での信頼を築くなどさまざまな側面を検討する必要があります。典型的な会議では8人以上のメンバーがいる場合、リーダーが生まれてしまうとされます。そこでチームスタジオは8人以下で使用されるように作られています。部屋の誰もがスクリーンやホワイトボードでアイデアを共有できるようになっていて、立っていても座っていても目線が同じ高さになるため、メンバー間に上下関係ができず、積極的な参加を促すことができます」とピーターズ氏は説明する。
●デュオ・スタジオ
創造的な仕事で重要となるのはチームの全体だけでなく、より小回りのきくペアでの作業。ふたりでの作業のためのデュオ・スタジオは2つのゾーンで構成されている。 Surface Studio もしくはモバイルデバイスが設置された人が立った高さのデスクと、 Surface Hub を備えたリラックスエリアだ。こちらでは他の人を招き入れて、アイデアを交換したり評価したりすることもできる。
●レスパイト・ルーム
このスペースは、周囲から離れて、一人でアイデアを考えたり、忙しい仕事の合間にリフレッシュしたりできるように設計されている。「創造的なプロセスでは、時間をかけて“自分らしさ”を高めていくが大切。それが結果的にチームのコラボレーションを高めます」とピーターズ氏は語る。内装には自然の素材が使用され、リラックスした気分でクリエイティブな思考や作業に専念できるように設計されており、「日本における新しい働き方の提案といってよいでしょう」。このように工夫が凝らされたワークライフ東京の各スペース。こうしたスペースを活用すれば、働き方も大きく変化していくことだろう。