【インタビュー】IT環境の段階的な進化が社員の意識に変革を生み出す(株式会社デルフィス植田晃氏)
※ この記事は 2017年12月18日に DX LEADERS に掲載されたものです。
トヨタ自動車のマーケティングサービスカンパニーであるデルフィスは、Creative、Communicate、Collaborate、Connectなど8つの「C’s(シーズ=seeds)」を働き方改革のビジョンに掲げる。中でも重要になるのは「コミュニケーション」だ。そこではどのようなITが活用されているのだろうか。今回は、デルフィスの働き方改革において、ITが果たした役割とその可能性について、同社エグゼクティブITマネージャーの植田晃氏にお話を伺った。
「場所に付く」仕事から「人に付く」仕事へのパラダイムシフト
デルフィスは、時代に先駆けて2014年に「働き方改革」を断行した先進的企業だ。その改革の動きは、2011年の“3.11”にさかのぼる。
「それまでも、震災やパンデミックのたびに、業務に大きな支障が出ていました。その原因を探っていくと、社員の『場所に付く』仕事の仕方にあることが原因の一つとして分かってきました。東日本大震災後、業務の効率化には、この仕事スタイルを変えなければという危機意識が高まりました」とデルフィスのエグゼクティブITマネージャーである植田晃氏は振り返る。
それまで同社の従業員が使えるデバイスは、自席のデスクトップPCと固定電話、携帯電話、そして貸出用のノートPCだった。同社では国内の各拠点に、出張した社員が使用するためのデスクトップPCも用意していた。その結果、全社のPC数は、役員を含めた全従業員数の1.3倍超に達していた。
そこで考えたのが、モバイルの活用だ。モバイル端末なら人の動きに合わせてフレキシブルに仕事ができる。万一、事故や災害があっても、出社せずに業務遂行できる。移動時間も仕事に使えて、出先や会議中に急な対応が必要になった場合にも迅速な対応が可能だ。出張者用の席なども不要になるので、オフィススペースも減らせる。しかも、1人1台のデバイスになるので管理コストも削減でき、良いことづくめだ。
しかし、一気呵成に改革を推し進めれば、軋轢が生まれてしまう。そこでワンクッション置くことにしたという。
「当時のワークスタイルには、多くのアナログ部分が介在していたので、すぐに本格的なモバイル環境へ移行するのは難しいと判断しました。そこで、まずは社員それぞれがモバイルデバイスに慣れるためにタブレット端末を導入しました」と植田氏。一時的に個人のデバイスの数は増えるが、段階的に環境に慣れてもらうためと、割り切った。
それから約2年後の2014年に、次の段階に移行する。働き方のフレキシブル化を担保する本格的なモバイル環境への移行だ。iPhoneを導入し、自席のデスクトップPCをモバイルPCである「Surface Pro 3」に変えることで、“場所から人へ”の本格的なモバイル活用の実現に向け舵を切った。「既に社員がモバイルデバイスに慣れていたので、大きな抵抗なく受け入れてもらえました」と植田氏は当時を振り返る。
セキュリティを強化しながら“どこでもオフィス”を実現
同社が本格的なモバイル環境に移行する上で重視したのは、セキュリティだった。仕事の関係上、発売前の車種情報なども扱うため、情報セキュリティ対策は必須。例えば、ファイルをWebストレージで共有するためにも、ISMS(Information Security Management System)の監査に耐え得るシステムでなければならない。
SIer(システムインテグレーター)にも相談しながら選定を進めている時に浮上したのが「Surface Pro 3」だった。12型の画面を持ち、薄型・軽量のこのデバイスは、普段からのモバイル運用に最適に思えた。さっそくデルフィスは、SIerを通じ、日本マイクロソフトにもアドバイスを求めることにした。
「柔軟なワークスタイルを支援するために、この頃にはOffice 365を活用していました。ここに Surface Pro 3 とEnterprise Mobility Suite(EMS)を組み合わせて導入すれば、各種の認証やデバイス管理を包括的に実現でき、より有効な社員のサポート体制が構築できることが分かりました」と植田氏は説明する。
Surface Pro 3 でログインする際に、端末認証とID/パスワード認証を行うことで多要素認証が可能になる。また、未認証USBメモリーの排除や、新しいアプリケーションの強制インストールなども可能だ。紛失した際には、GPSトラッキングもできる。
さらに、モバイル端末を使い社内で仕事をする場合には、必要に応じてディスプレイやキーボード、マウス、有線ネットワーク、充電器など、多くの機器を接続したいという仕事上の要望もあった。端子を多く備えつつ、利用の際の手間を削減できる拡張アクセサリ、 Surface ドックを用意する Surface Pro 3 はこの点でも好都合であった。
「タブレットPCとしての利用に加え、キーボードを装着したノートPCや、Surfaceドックに接続したデスクトップPCとしての使い方に対応できる Surface Pro 3 の3 in 1スタイルは、デルフィスのモバイル環境に最適でした」(植田氏)
クライアントや協力会社とのやりとりが多い同社にとって、Officeファイルを扱えることも重要な要素だった。Surface Pro 3 であればその点でも安心だった。2014年、同社は Surface Pro 3 の導入を決定し、本格的なモバイル活用を開始した。植田氏は「デバイスが2つになり、しかも“どこでもオフィス”の実現につながりました」と語った。
働き方改革を進めたことで社員の意識が大きく変わった
実は、デルフィスの「働き方改革」には、Surface Pro 3 の導入後にもう一つ大きなポイントがある。それは、2015年9月の同社の新オフィスへの移転だ。新オフィスでは新たにグループアドレスが採用されたが、既にそれまでの“どこでもオフィス”に慣れていたことで、現場に大きな混乱はなかったという。
「マネジメント面での不安を感じる人はいましたが、人の動きに合わせたワークスタイルを実践していましたので、新システムへの移行はスムーズでした。移転後のオフィスは以前よりも小さい上、従業員数は3割も増加していますが、従業員からは働きやすくなったと評価されています」と植田氏は笑顔を見せる。
グループアドレスなどによって、社員は仕事の内容やその日だれと一緒に仕事を進めたいかなどに応じて、自由に席を選べるようになった。さらに社内電子申請システムなどのサービスも稼働し、モバイルによる徹底したペーパーストックレスを実施した結果、紙類を保管するキャビネットの削減が叶い、空いたスペースを休憩や簡単な相談ができる「Center Cafe」や、少人数の会議や面談が可能な「Focus Room」、立ったままで会議後の確認などに活用できる「Standing Corner」といったコミュニケーションスペースとして活用した。
また、ユニークなものとしては、外部を遮断して集中的に作業するための「Haven Pit」や、休憩にも使える半隠れ家的な「Solo Work Bench」などちょっとした遊び心あるスペースもあり、こうした複層的な「働き方改革」が社員の心に響いている。
新オフィス移転後のアンケート結果からは、そうした社員の評価の高さが伺える。「デルフィスに将来を感じる」と答えた人が16%から66%に増え、「効率的に働いている」と回答した人が48%から80%に増えているのだ。「働き方改革が社員をポジティブにさせたと言えるのではないでしょうか」と植田氏は分析する。
Surface Pro 3 そのものの評価も高い。これまでオフィスの自席に戻らないと出来なかった作業も、会社に戻らず客先の待合室や出張先のホテルで行ったり、協力会社で一緒にプロジェクトを進めることもでき、クライアントと自社、協力会社との間でのコミュニケーションもスムーズになったという。「かなり便利で、動きやすくなったとの声が多いです」と植田氏。1人当たりの端末が整理されたことで、管理コストも低減できたという。
また、採用活動などにも改革の効果が目に見える形で出ている。最終面接に併せて行われるオフィス見学を決め手に「他の広告代理店ではなくて、デルフィスで働きたい!」と入社を決める人たちが増えているというのだ。また、「日経ニューオフィス賞」を受賞している同社のオフィスは見学に訪れるグループ会社も多く、クライアントとの接点づくりの面でもプラスに働いている。
デルフィスでは働き方の進化に向けて、現在、LTEに対応する新しい Surface Pro の導入も検討中だという。LTEに対応することで、ドック接続時の有線ネットワーク、社内での無線LAN、外出中のLTEと、ネットワーク環境をシームレスに使えるようになるだけに、その効果は大きいだろう。植田氏は、次のように話す。
「人の動きに合わせたワークスタイルを確立できる最新のモバイル端末への移行は、オフィスにひもづく固定的な管理コストの低減と、フレキシブルなワークスタイルが実現可能な『どこでもオフィス』という2つの大きなメリットがあります。この有用性を、さまざまな社員に対して上手に、そして具体的に伝えていくことが大切です」
働き方改革が時代のホットワードとなる以前から、先見の明を持って自身の革新を進めてきたデルフィス。これからの働き方改革を推進する上で参考になるアドバイスではないだろうか。