【インタビュー】ウェルネス経営で生産性を向上!重要な経営資源の“ヒト”を守る(株式会社FiNC)
※ この記事は 2017年09月29日に DX LEADERS に掲載されたものです。
2015年12月より、労働者が50人以上在籍している事業所を対象に毎年1回のストレスチェックが義務付けられた。
労働者が自分のストレスの状態を知ることで、ストレスをためすぎないように対処することや、ストレスが高い状態の場合は医師の面接を受けて助言を得ること、会社側に仕事の軽減などの措置を実施してもらうなどの職場の改善につなげることで、「うつ」などのメンタルヘルス不調を未然に防止するための仕組みとなっている。
株式会社FiNCは、医療費の高騰、少子高齢化、人口減少―労働人口の減少に伴う経済の縮小といった課題を、ヘルスケア・予防の領域に特化して解決するモバイルヘルステックベンチャー企業だ。
スマートフォンアプリを利用した「FiNCダイエット家庭教師」は、栄養士やトレーナーなどの専門家から生活習慣改善のためのアドバイスを受けることが出来るサービスだ。もともとto C向けのサービスとなるが、上記で述べたストレスチェックや、ウェルネス経営が叫ばれるようになり、2014年12月に法人向けサービス「ウェルネス経営ソリューション」の提供を開始した。
今回は、同社ウェルネス経営事業本部 統括部長 吉田 大介氏、ウェルネス経営事業本部 シニアマネージャー 岩本 夏鈴氏より、ウェルネス経営について伺った。
健康であることは、仕事や人生において大切なことである
「ストレスチェックが義務化される以前は、『FiNCダイエット家庭教師』というto C向けのサービスを提供していました。専門家がアプリを通してお客様に生活習慣改善のためのアドバイスを行うものです。これを企業に対してやっていけるのでは、ということで、ストレスチェックの義務化をきっかけに事業展開の方向性が見えてきました。
まずは、健康経営の意識が高い企業にて特定保健指導対象者やメタボ該当者など健康管理をする必要がある方に指導する、ということをテスト的にはじめたところ、満足度が高く、ニーズも感じました。
その後、従業員がITを活用して健康状態を数値化していく取り組みを始めたりと、どんどん発展していき、今の法人向けサービスである「FiNC for Business」となっています。」(岩本氏)
岩本氏が触れていた、特定保健指導は、厚生労働省によって義務付けられている健康指導だ。40歳から74歳のすべての被保険者・被扶養者を対象に、メタボリックシンドロームの該当者や予備軍を減少させることを目的に2008年から実施されている。
健康診断の体重・腹囲・血液検査の数値がある基準を超えているメタボリックシンドロームの予備軍・該当者に対して、月一回の保健師との面談を通じて、食事・運動などの生活習慣の改善を促すというプログラムとなっている。
ただ、この取り組みにより、メタボリックシンドロームの予備軍や該当者が減るかというと、なかなか効果が見込めない一面もあるそうだ。
「月一回、保健所などの面談会場に行って、保健師の方と面談をする。忙しい方には面倒ですし、続けるための楽しい仕組みがない、ということも聞きます。」(岩本氏)
月一回の面談では、よほどのモチベーション・動機付けがなければ、取り組み内容を忘れてしまったり、やったとしても三日坊主で終わってしまったりなど、保健師と決めた約束を実践できないこともあるだろう。
「やせましょう、運動しましょう。一日10000歩 歩きましょう」と習慣がない方に新しいことをやってもらうことはなかなか難しい。これを解決するためにも『FiNC for Business』で提供するサービスの1つ、FiNC特定保健指導は有効だ。
「弊社のアプリを使って、忙しい方も簡単に、楽しく参加できるというところをやっていただけたらと思っています。」(岩本氏)
FiNCのヘルスケアアプリを活用すれば、常に持ち歩くスマートフォンで日々の食事の写真を撮影したり、歩いた歩数を記録できたりなど、簡単に楽しく取り組むことができる。
「健康にするべき方たちをどうやって動かせるか科学する、というのが我々の役目です。年齢でいうと40を超えてくると急に曲がり角というのを感じます。一度健康に気を付けようと思って、火が付き始めると続けられるようになるかもしれませんね。」(吉田氏)
また、健康管理への動機付け、モチベーション管理も重要なポイントだ。
「特定保健指導のような保健事業やウェルネス経営といった一定の強制力が使える一方で、強制力を使えば使うほど、やらされている感になり、利用者にとって動機付けがされていない状態になる。
若いうちから健康リテラシーを高める必要があると考えています。そのためにも弊社のアプリを従業員の方に使っていただき、健康に対する正しい知識をアプリから得ていただく。健康であることが仕事や人生において大事というところをいろんなあらゆる方法で教育していくことも必要なのだと思っています。」(岩本氏)
マイナスをゼロに、だけではなく、イキイキと働き生産性を上げていく
2015年から義務付けられたストレスチェックは、冒頭で述べた通り、過剰なストレスを引き金に発症する「うつ」などのメンタルヘルス不調を防ぐために行われる。
経営観点で言うと、メンタルヘルス不調で休職や退職となることで、欠員が出た分の採用コスト、研修や育成にかかるコストなどが発生する。従業員が健康な状態で生産性を保って働くことは企業にとって重要なポイントであるといえるのだ。
ただ、同社はそういった、休職者、退職者を減らすといったマイナスをゼロに持っていくだけの取り組みにとどまっていない。
「厚生労働省が行っているストレスチェックの項目は、メンタル観点の57問の設問となるため、毎年やっていると、従業員も慣れてきてしまうというのが課題です。
弊社のサーベイの場合は、メンタル・フィジカル併せて95問の設問が用意されています。また、プラスの部分、つまり、イキイキと働いているかどうかといったエンゲージメント(従業員が仕事から活力を得て、仕事に誇りを感じ、いきいきと仕事をしている状態)についても質問しています。」(岩本氏)
ここはかなり重要な部分ではないだろうか。ストレスがなく、うつなどメンタルの兆候がなくても、仕事に対してやる気がない、活気がなかったら生産性の向上にはつながらないだろう。
経営側は、ストレスチェックの集計結果を見て、ストレスが多いから軽減する、であったり、ストレスが少ないからよしとするだけではなく、従業員が仕事にやりがいを感じ、仕事に没頭し、イキイキと働いているか、という観点で見る必要があるだろう。
「弊社が目指しているのは、より会社としてのメリットがあること。つまり、よりイキイキと働いて生産性を上げるというところや、従業員が幸せに働きながら、いいアウトプットを出していく、というところです。」(岩本氏)
ウェルネス経営を進めることで日本のヘルスケア産業を海外にも輸出できる
「健康経営銘柄や健康経営優良法人(ホワイト500)が出てきましたが、ウェルネス経営に関してはまだ発展途上で企業は何をしたらいいのかよくわからないというステージにいます。
実質どんな課題を特定して、どんなことをやっていて、検証できているか、つまりPDCAを回しているのかという中身を問われていると思います。結局それが会社のブランドにつながるので、表向きだけではなくて、中身が伴うことをちゃんとやっていきましょう、というのが、我々が企業様に健康経営をお話しする際にお伝えしていることです。」(吉田氏)
課題を特定し、実施後、変化があったかどうかを検証するためには定量的な指標も必要になるだろう。その指標をどこに置くか、というのもウェルネス経営を進めるにあたり企業がぶつかる壁ではないだろうか。
「わかりやすい例でいうと、メンタルの不調者による休退職が圧倒的に増えていた場合、人材コストが経営上かなりひっ迫してくる。その場合だと、採用コストが指標になってきます。
あとは、イキイキ、元気に働くという指標でいうと、エンゲージメントや生産性を表す指標のアブセンティーズム・プレゼンティーイズムという指標があります。」(岩本氏)
アブセンティーイズムは、「病気や体調不良などにより従業員が会社をたびたび、あるいは無断で欠勤すること」である。また、プレゼンティーズムは「出勤しているにも関わらず、心身の健康上の問題により、充分にパフォーマンスが上がらない状態」を示す。たとえば風邪だと少なくとも4.7%、花粉症だと4.1%仕事の効率が落ちると言われている。微々たる数字に思えるかもしれないが、風邪の場合は周囲の社員に伝染してしまう懸念があり、軽視はできない。
常に万全の体調で業務に臨めているか、不調がある場合は休養が取れ、早めに治すことができるか、などが指標になるといえよう。
「ウェルネス経営の推進については、国の本気度を感じます。社会的に大きな課題が背景にあります。」(吉田氏)
今後、高齢化社会が進んでいくことは確実だ。徐々に年金支給年齢の引き上げが進んでいく動きもある。健康寿命を延ばし、労働期間を長くするという動きも出ている。
そして、健康な老後を迎えられる人が増えれば、医療費の高騰を抑えることができるだろう。
「日本はヘルスケア事業と親和性が高い。企業がウェルネス経営を進めると、ヘルスケア産業が盛り上がるので日本の産業として海外に輸出していくことが可能になります。」(吉田氏)
最も重要な経営資源はヒト。心と身体をベストな状態にしていくことも企業としての使命
最後に、同社が考えるウェルネス経営について伺った。
「従業員が経営資源の中で一番大事。経営資源は、『ヒト・モノ・カネ・情報』があると思いますが、今後モノや情報は誰でも、どこにいても取れるようになってきます。しかし、不確実性が高い世の中、ヒトだけは、ちゃんとした人が居続けるというのが大事です。その人たちに投資をすることによって、業績も上がってきます。心と身体に投資をして、アウトカムを出していくことが重要なのかなと思います。」(岩本氏)
「ITツールで効率化させるというのは一巡したように思えます。ここで、改めてヒトに回帰しているのではないでしょうか。かつて、日本は右肩上がりの経済成長の中、内需もあり、食べることができていた時代から、今は本質的に個人の能力を発揮していかないといけない世の中になりつつあると思います。最終的には心と身体を健康にしていくことが大事なのではないでしょうか。」(吉田氏)
ウェルネス経営を進めることは、企業にとっても国にとってもメリットが多い。
企業にとっては、心と身体両方が整った状態で、楽しくイキイキと仕事をする従業員が増えることで生産性の向上につながるだろう。
そして、健康リテラシーの向上や、日々の健康管理を企業が推奨していくことで、結果的に病気の予防、早期発見につながり、国の医療費を抑えることや、健康寿命を延ばしていくことに少しでも貢献することができるのではないだろうか。
取材・文:池田 優里