メイン コンテンツへスキップ
業界

【インタビュー】いま求められるマネジメント。「創造する」リーダーシップとは?(NPO法人はたらく場研究所 中島 崇学氏)

※ この記事は 2017年09月08日に DX LEADERS に掲載されたものです。

今、社会全体は様々な「問題」に直面している。企業においては働き方・長時間労働の問題、社会においては少子高齢化や育児・介護など問題が山積で、不安材料はとどまるところを知らない。おそらく誰も経験したことがない様々な問題に直面しているのが今の世の中だろう。そんな時代だからこそ、新しいリーダーや新しい価値に注目が集まっている。

「特定非営利活動法人 はたらく場研究所-最高の居場所」は、2008年に設立され、2012年11月にNPO化されたNPO団体だ。
本団体は、「働く場を最高の居場所にする」をコミュニティビジョンとし、様々な業種・職種・年齢の会員たちを集め、毎月1回、「ライブ」という名での勉強会を開催している。ライブでは、様々なゲスト講師の講演や、ワークショップをはじめ、会員がこのコミュニティの学びを通じて行った組織開発事例の紹介などを行っている。会員数は約700名を超え、今年6月には第100回のライブも行われた。

今回は、本団体の代表理事である、中島 崇学氏に話を伺った。
中島氏は、国内大手メーカーに勤務。広報や人材開発のキャリアを経て、3000人の対話集会やビジョン浸透など様々な風土開発を推進している。社外では本NPOの代表理事としての社会貢献活動や、本NPOの分科会である『ファシリテーション塾』塾長として人材育成活動を手掛けている。昨年は、厚生労働省委託事業である、『働き方改革実践ノウハウ獲得セミナー』において、全国で登壇を行い、リーダーシップ、ファシリテーションの第一人者として活動を行っている。

不安な環境下で、誰しも無意識の被害者になりうる

特定非営利活動法人はたらく場研究所-最高の居場所 代表理事 中島 崇学氏

「今は時代の転換点にいます。いろいろな経営者の方とお話しするのですが、リーダーのほとんどが今までにないほどの危機感を持っている。」と中島氏。

この危機感は冒頭で述べたような様々な『問題』によって引き起こされている。社会が、世界が今不安や恐怖の真っただ中にあるといっても過言ではないのかもしれない。日々報道されている悲観的な情報ばかりが目についてしまう。

「まずは、そういう環境にあることにしっかりと向き合う必要がある。」(中島氏)

そういった危機的な環境にあることから逃げない。目を背けないということだ。特に、リーダーたちこそ、このような逆境に立ち向かっていく必要性を迫られるだろう。

しかし、人間は不安と恐怖があると、『被害者』になると中島氏は語る。

「恐怖と不安の中にいると、『環境のせいだ』と言い訳したくなる。これは被害者になるということ。環境の被害者になってしまう。誰かのせいにする、批判してしまう。ある意味、人間としては自然な反応であるけれども、恐ろしいことに、本人は被害者になっていることを自覚していないのです。つまり、無意識の被害者になっているということです。」(中島氏)

例えば、環境が良かったり、放っておいても明日がよくなったりするような状況であれば、被害者にはならない。しかし、今は無意識の被害者になりやすい環境であるといえる。リーダーが被害者になると何が起こるか。自然と部下にも伝わり、部下も無意識の被害者になる。
まずは自分が環境の被害者になっていることに気付く必要があるが、そうするために2つの視点が必要になると中島氏は語る。

「観察する視点(オブザーブ)と、創造する視点(イマジネーション)が必要です。」

オブザーブの視点は、過去と現在、2つの視点がある。
「過去」の視点は過去からの流れを見て、何を学ぶか・つかみ取るか、「今」の視点は今の環境をどう見るか、今の自分や自社をどう見るかの視点があるという。いずれも肯定的に受容したうえで観察する必要がある。

「環境は自分の思い通りにはならない。環境は自分にとってどういうメッセージを持っているかを考える必要があります。『使命』『大局観』『責任』といういい方にも変えることができる。」(中島氏)

ここで観察ができれば、自分の状況が分かってくる。自分自身が被害者になっているのかも見えてくるだろう。
次に必要なことはイマジネーションの視点だ。

「イマジネーションは、ゴールやありたい姿を計画する前にしっかりとイメージすること。」(中島氏)

自分たちの意思・大切にしている信念・価値観をイメージする。どうやるかというよりは、どうあるか、何がゴールなのかを明確なイメージを持つことが重要だ。
ゴールイメージを持つことは、今のリーダーシップにおいても大切な条件となる。

過去のマネジメント方法と今のリーダーシップを課題に応じて使い分ける


マネジメントの方法も、この数年で大分変化してきている。

「高度成長期を経て成熟期に差し掛かった頃は、複雑な問題を解決するマネジメントが必要とされていました。複雑な問題を解決するためには、問題を分解してシンプルにすること、マニュアル化すること、問題を解決するための専門性を身に着けることが必要になった。他社の成功例や客観的な例を参考にしながら、結果的にミスなく複雑な問題に対応するマネジメントを求められていた時代だったと思います。」(中島氏)

当時抱えていた問題はある程度明確で、答えも分析すればあったように思える。必要なのは答えを探す専門性だ。だからこそ、失敗は許されなかった。しかし、今はそういったマネジメントが通用しない場面が増えてきた。問題そのものがはっきりしない、正解もない、むしろ答えを作り出さないといけないことが増えてきたからだ。
自分で答えを導き出すために、客観的な事実を参考にするだけではなく、主観的な意思を持って挑戦することが必要となり、時にはトライアンドエラーを繰り返して失敗をしながらも、失敗から学び、答えを作り出す方法に変わってきている。

「今のマネジメントのスタイルは、自身の主観的な意思を共有して、ゴールイメージを明確にする。問題を解決するというよりは、自分の内側に希望を作るようなリーダーシップが強く求められる。現場のリーダーシップを引き出して、みんなの知恵を合わせる。いわばファシリテーション的な役回りのリーダーシップがこれから重要になってきます。」(中島氏)

さらに、リーダーシップには3つの考え方があると中島氏は語る。

  1. 実践知 :やりながら仕組みづくりをするマインド。失敗が許される仕組み
  2. 集合知 :多様な視点を引き出して知恵を引き出す
  3. 内発的動機づけ :自分の主観的な意思を引き出す。

リーダーはこの3つのリーダーシップを引き出すことが重要であるという。
しかしながら、昔ながらの複雑な問題を解決していくマネジメントを軽視することなく、3つのリーダーシップを活かしていくことが重要なのだという。

今の環境を受け入れて新しく生まれ変わる

特定非営利活動法人はたらく場研究所-最高の居場所 代表理事 中島 崇学氏
2009年、NPOの分科会であるファシリテーション塾を立ち上げた。日本企業もリーマンショックの影響でどん底まで落ち込み、ほつれた糸をどう改革し成長軌道に戻すか、という時代だったことは記憶に新しいだろう。

「その頃はどうすべきか、答えがあると思っていた。みんなで問題を話し合うことも、未来を描くこともやってみたけど、結局はどこかにある答えを効率的に引き出していくことをやっていたのだと思う。」(中島氏)

例えるならば、外科手術のような風土改革だった、と中島氏は振り返る。
つまり、病気の原因を見つけて、病原を取り除き、病気を治す。会社に置き換えると、動揺している社員を励まして慰めて、社員を元気にして、社員の心を一つにするためのファシリテーションを目指していたという。

「今は、外科手術で病気を治すというよりは、新しく生まれ変わることに近い。病気を病気と思わない。病気も含めて全部メッセージととらえて、新しいものをどうやって作るか、という考え方になってきている。」(中島氏)

悲観的に言ってしまうと、それくらい、病気は治らない(今の環境は良くならない)状況になっている。こうなったら病気(今の環境)を受け入れて、一緒に生きよう、生まれ変わろう、ということだ。病気(今の環境)が自分に語り掛けているメッセージが何なのかを観察し、それを受け入れて自分自身が作りたい世界のビジョンを描くことが必要になってくるのだという。
まさに、イマジネーション(創造)することがこれから先、重要になってくる。

働き方改革、教育界にもイマジネーションの波が押し寄せている


「働き方改革」も、イマジネーションが必要な課題だ。

仕事はあるのに、残業はしてはいけない。業績も下げてはだめ。ある意味、矛盾命令だ。仕事が多くて残業するから、仕事の量を減らした。そうしたら業績は下がった。業績を下げないために、仕事の量を変えない。結局残業は減らない……。一つの問題を解決しようとしたら、他にある問題が解決できない。そんなジレンマに陥ってしまえば、「国がやらせたから仕方ない」という被害者の視点になりかねない。経営陣がそういった考えでいると、不思議と下にも伝わるものだ。部下たちも口をそろえて言うだろう。「会社は何をやらせているんだ。」と。

こうなっては、誰も、何も変わらないだろう。こうなったらもう創造するしかないのだ。理想とする働き方改革のゴールも会社によって違うはずだ。ゴールイメージを創造し、「働き方改革は、会社や、従業員一人一人の人生のためにも必要なものです。」と、しっかりと共有していかなくてはならない。
まずはやってみる。ただし、成功するかもわからないことなので、失敗を許容や、やり直しができる文化も必要になるだろう。

イマジネーションの波は、教育界にも押し寄せている。
2020年、教育改革が行われる。主な改革内容は、アクティブラーニングなどを取り入れた「新学習指導要領」が小学校で全面実施されること、センター試験に代わり、教科の学力以外にも思考力・判断力・表現力などを測る「大学入学共通テスト」が実施される。この背景は、先の見えない状況の中で、自ら問題を発見し、他者と協力して解決していくための資質や能力をはぐくむ教育が必要であるという考えによるものだ。
ひたすらドリルを解いて正解と照らし合わせ、丸付けをして点数を稼ぐだけでいい時代ではなくなり、今後は、学校教育の中で正解のない課題に取り組んできている若い人たちがどんどん企業に入ってくることになる。企業も、そういった人たちが入社してくるのを前提にした組織にしていく必要があり、先に述べた『実践知・集合知・内発的動機づけ』の考え方を実践していく必要がある。

会社に貢献しながら、80歳まで元気で働くためのパラレルキャリア

特定非営利活動法人はたらく場研究所-最高の居場所 代表理事 中島 崇学氏
中島氏は、80歳まで元気よく働くことを提唱している。

「年齢に関わらず、国民の一定の人たちが元気よく働くという状態を維持する必要があるわけで、高齢者が元気で働き続ける必要性は明らかなわけですね。

自分自身、40歳を過ぎたころにふと思った。このままじゃ企業の中で埋没する。そうすると、定年の60歳で人生が終わるかのような絶望感に襲われる。企業の中で埋没しない自分ならではのことを見出して初めて、本を書いたり、NPOを立ち上げたり…となった。今はとっても幸せなので、これからの80歳までの人生、みんなが元気に働ける社会に、せっかくなら先駆者の気概を持っていろんなことにチャレンジしていきたいと思っています。」(中島氏)

しかし、このような状況になるのは決して簡単な道のりではなかった。
中島氏は、2007年に自身の組織開発をもとにした著書『私が会社を変えるんですか? AIの発想で企業活力を引き出したリアルストーリー』(日本能率協会マネジメントセンター, 2007)を出版している。会社以外の取り組みをすると、歓迎されなかったり、人によってはダメと言われたりするようなこともあるだろう。

「考えたのは会社にどれだけ貢献できるか、ということ。そして、会社に一番貢献できるのは自分が自分らしくあることだと思った。もし、その結果、会社が歓迎しない結果になったとしたら、それはそれで納得だと。悔いが残るとしたら、自分が自分らしくなかったとき。つまり、挑戦しないで終わったとき。だからやってみた。やってみたら、結果的にも会社に貢献できて、周りも喜んでくれた。」(中島氏)

会社の活動(本業)と、会社以外の活動を両方行うことをパラレルキャリアと呼ぶ。
パラレルキャリアを実現するためには、自分の欲求・欲望のエネルギーだけだとうまくいかず、自分自身の本当の願いに向き合うことが重要だと中島氏は語る。

「欲求・欲望にとらわれすぎていると、不思議と周りから反発を受ける。しかし、本当の願いを持っていると、応援してくれる。いろいろな人たちにフィードバックをもらって、自分自身を客観視している。」(中島氏)

これはかなりの度量が必要である。自分の意見を守れば守るほど、相手との関係性はこじれていくものとわかっていても、反発を受けると防衛本能が働き、自分の意見を守りたくなる。自分自身が不完全であることを認め、自身の意見に執着しない。周りの意見やフィードバックを重ねていったほうが幸せ、と中島氏は考えているそうだ。

まさに、周りの意見を重ね合わせていくことは、今後、創造していく時代においては重要な位置づけになってくるだろう。ここで悩めるリーダーたちは、ではどうやって巻き込むのか?どうやって説得するのか?を考えたくなるだろう。

「重要なのは、『あり方×関係性×テクニック』。どうしても、どうしたら説得できるかといったテクニックばかり気にしてしまう。これは、効率が悪い。
まず自分の心、あり方やゴールイメージを作る。関係性や雰囲気を作る。そうして初めて、テクニックやスキルが役に立ってくる。」(中島氏)

あり方を整えるために必要なことは「問い続ける」ことだという。自分の本当のゴールは何か。どうしていきたいのか。できれば毎日、静かな時間を作って問い続ける。これには相当の胆力が必要になるが、それを続けているリーダーはぶれることがない。

そして、関係性を作ることも非常に重要だ。プロジェクトやチームの仕事では、単純に急いで物事を進めるだけでは失敗することがある。合意形成を無視して物事を進めると、チームメイトから「そんなこと言いましたっけ」「腹落ちしていないです」「本当はやりたくないです」といった様々な感情が沸き出てくる。そうなると、人は不機嫌・やらされた感・被害者となり、進むスピードが遅くなっていく。逆に、合意形成をしっかりと行い、腹落ちしていれば「よしやるぞ」となり、円滑に業務が進むことは想像すればわかることだろう。

今までにない恐怖と不安に晒されている中で、今を乗り切るのがやっと、見通しが立たない世の中だ。
今の環境を無視せずにしっかりと観察したうえで、これを悲観的に見るか、今までにない時代へのチャレンジができると取るかは自分自身で選択できるはずだ。
このような時代だからこそ、中島氏は、ファシリテーションを活かした場づくりを様々な場所で行い、社内外問わず後進にも伝え続け、塾で学んだ門下生たちも様々な場で活躍の場を広げている。

さらに、その活動を会社への貢献という視点でも捉えている。例に挙げた働き方改革。この本質は、長時間勤務・残業・休日出勤にとどまらず、社外での学びや、関係づくりを行うことで新しい視点を取り入れ、社内の活動に貢献するといった側面もある。新しい時代のリーダーシップ。さらなるイノベーションを生み出すためにも様々な場所で学び、多様性を身に着けることが重要になってくるのではないだろうか。

取材・文:池田 優里