【インタビュー】システムのクラウド化、スムーズな導入方法は?ゴルフ場運営会社の実例
※ この記事は 2017年09月07日に DX LEADERS に掲載されたものです。
平成28年度の情報通信白書によると、クラウドサービスを一部でも利用している企業の割合は44.6%となり、平成26年末の38.7%から5.9ポイント上昇している。産業別では「金融・保険業」の利用率が61.4%と最も高くなっている一方でサービス業の割合は全産業の中で最も低く、利用率は42.0%だそうだ。
株式会社アコーディア・ゴルフは、全国に130カ所以上のゴルフ場を有し、管理・運営を行っている。その規模は国内最大級となる。全国規模の展開、そしてコンシューマ向けビジネスとなる分野において、クラウドはどのように利用されているのだろうか。同社 経営企画本部 情報システム統括部長 田中 理氏、同部部長 加藤 恭之氏、同部エグゼクティブシニアマネージャー 新野 達也氏に話を伺った。
全ゴルフ場の情報を横断してシステム上で管理。意外な事実が分かってくる
同社は、様々なゴルフ場運営の企業の合併や子会社化を行ってきたため、それぞれのゴルフ場が運用していたシステムを統合する、というのがシステム化の最初のきっかけだったそうだ。
システムでは、約16万人の会員の管理、約300万人のビジター管理、ポイント管理、請求業務、予約業務などを全ゴルフ場横断で管理をする仕組みとなっている。そうすると、全体の組織としての数字を見ることが可能となった。
全体のお客様の動きを横断的に見ることができるようになったので、コンシューマがどのゴルフ場をどのくらいの頻度で利用しているかが分かるようになった、と田中氏。
データを見ることで、意外な気づきもあったようだ。
同じコンシューマ向けビジネスでも旅行や飲食の予約サイトなどとは若干違う部分もあるようだ。このようなサービスではレコメンドが当たり前のようになっているが、ゴルフ場の予約に関してはあまりニーズがない。
「特典情報などをメールで流すのですが、あまり開封率は高くない。意外と響かないですね。ゴルフは自分が行きたいときに調べて、メンバーを集めて1時間以上かけてゴルフ場に行ってプレイをする。目的が明確ですよね。」(田中氏)
確かに、旅行の場合は場所や目的は様々。人数も一人から複数まで対応するので、ユーザーの気づきを促すためにレコメンドは有効ではあるが、ゴルフはプレイ人数4名程度、場所も気に入っている場所や、移動が1時間程度のところ…など条件が絞られてくるので、レコメンドもあまり有効でないのかもしれない。
ゴルフに行く人には頻度も場所も大体決まっている、という特徴がある。その特徴を活かし、次の予約までしてしまう、または「この日の予約はどうですか?この日は空いています。」という提案をするというアイデアもあるそうだ。予約をする手間が省けるので、ユーザーとしてはありがたいのかもしれない。
オンプレミスのメール問い合わせの多さからクラウドを導入
同社は、2010年にオンプレミスのシステムからG Suite(旧名称:Google Apps)にクラウド化。2015年からOffice365に切り替えている。
「クラウドを導入する前はオンプレミスでメールサーバーを立ち上げて利用していました。当時はメールがうまく届かないなど、メールの不具合に関する問い合わせが大半を占めていました。365日、土日祝日営業しているゴルフ場もメールを使っていますが、システム部は土日祝日対応できないため、サービスとして厳しい、という課題がありました。」(田中氏)
そこで問い合わせ内容を分析。1メールボックスあたりの容量が少ない、転勤時にメールボックスの情報がローカルに入っているので移行できないか、といった問い合わせ内容が多かったため、メールをクラウド化すれば解決できると考えたそうだ。
そこで検討に上がったのがG Suite。当時は1ユーザーあたりの容量も十分にあり、クラウド化することにより転勤時などの移行の手間もなくなるため、課題を一気に解決できると考えた。
同社は、2010年にオンプレミスのシステムからG Suite(旧名称:Google Apps)にクラウド化。2015年からOffice365に切り替えている。
「クラウドを導入する前はオンプレミスでメールサーバーを立ち上げて利用していました。当時はメールがうまく届かないなど、メールの不具合に関する問い合わせが大半を占めていました。365日、土日祝日営業しているゴルフ場もメールを使っていますが、システム部は土日祝日対応できないため、サービスとして厳しい、という課題がありました。」(田中氏)
そこで問い合わせ内容を分析。1メールボックスあたりの容量が少ない、転勤時にメールボックスの情報がローカルに入っているので移行できないか、といった問い合わせ内容が多かったため、メールをクラウド化すれば解決できると考えたそうだ。
そこで検討に上がったのがG Suite。当時は1ユーザーあたりの容量も十分にあり、クラウド化することにより転勤時などの移行の手間もなくなるため、課題を一気に解決できると考えた。
オンライン会議の導入で移動コストの削減。ゆくゆくはゴルフ場がサテライトオフィスに?
また、同社ではオンライン会議も積極的に取り入れている。
「G Suiteの時からハングアウトを使っていましたが、今は基本的にはSkypeで。ゴルフ場と本社、九州の外部開発業者とのやり取り、社内の連絡で利用しています。」(田中氏)
過去、クラウド上での会議を行っていなかった時は、現地での打ち合わせが多かった。ゴルフ場は北海道から沖縄まで全国にある。ゴルフ場の立地上、駅から遠い場所も多い。移動の時間も含めコストはかなり掛かっていたが、今ではオンライン上の会議をすることでコスト削減を実現した。
また、クラウド上での業務やオンラインでの会議は障がい者雇用にも活かされている。足の障がいなどで通勤が困難な方は在宅勤務で対応しているそうだ。
本社業務だけではなく、ゴルフ場業務においてもゴルフ場のプラン作成などは在宅勤務で対応可能だ。ゴルフ場などのレジャー施設において業務の特性上、障がい者雇用はなかなか難しい、という現実があるが、クラウドの力を借りることで実現することができた。
また、ゆくゆくはゴルフ場でのサテライトオフィスなども実現できたら面白そうだ。全国展開を行っているため、介護や育児の事情で実家に帰っている、といったときにも休職や退職をすることなく業務を続けられるといった効果もあるのではないだろうか。
365日、24時間の安定稼働をクラウド導入により実現
同社は、現在、60~70%の業務をクラウド上で運用しており、来年にはほぼ100%クラウドへの移行を目指している。
そんな中、ゴルフ業界ならではのクラウド利用の特徴はあるのだろうか。
「ゴルフ場は365日、土日祝日も営業しています。そうなるとダウンタイムを利用してのメンテナンスができないので、ハードウェアなどの障害は避けたい。」(田中氏)
「30分だけ止めるというのも難しい。深夜は深夜で、ゴルフ場と本社間のデータのやりとりを行っているので」(加藤氏)
「また、コンシューマビジネスだと、パフォーマンスの想定が難しい。オンプレミスの場合は、最初にトランザクションなどを考慮したサイジングを行います。」(田中氏)
オンプレミスの場合、ハードウェアの交換もあるため、交換する数年後までのお客様状況を予測してサイジングを行っている。
「しかし、コンシューマビジネスは季節やキャンペーンなどでピークがあります。なかなか想定通りにはいかないので、大体3年くらいで足りなくなる。その点、クラウドだと状況を見ながら毎年『去年はこのくらいだったから、この時期はサイズを減らしても大丈夫そう』とか、『この季節でピークになるから増やしたほうがいい』など都度サイジングができるのが非常に楽です。」(田中氏)
クラウド化することでサイジングも柔軟にできるだけではなく、ハードウェアの刷新や増強作業、それに伴う移行作業もなくなった。
ゴルフ場運営ならではの課題―地方でのネットワーク速度
さらに、ゴルフ業界ならではの課題も挙げていただいた。
「全国展開をしているゴルフ場で、クラウドを使うことのボトルネックがあるとしたらネットワークです。」(田中氏)
ゴルフ場は郊外にあることが多いので、インターネット自体つながりにくいということがある。また、都心部はネットワークの冗長性を持たせており、回線バックアップもしっかりしているが、地方だと冗長性を持たせていない場所もある。地域でネットワークが落ちてしまうと半日や一日使えなくなるということもあるのだそうだ。そのため、精算業務など止まってしまったら困る一部の業務に関してはオンプレミスで対応しているという。
「今は主回線としてNTTのADSLや光回線を使っていますが、一部ゴルフ場ではバックアップとしてソラコムの回線を使っています。主回線が落ちたら自動的にソラコムの回線に入る。以前、主回線が半日落ちたところがあったのですが、自動でソラコムに切り替わるので、ゴルフ場は気付かなかったようです。ただ、スピードは遅くなってしまいますが。」(田中氏)
ゴルフ場で使用しているPCも十数台であるため、バックアップ回線だけで精算も含めた全業務をクラウドで、というのはまだまだ課題があるそうだ。そのため、バックアップに切り替わったときは、負荷をかけない、最低限の業務を行うことで対処している。
最後に、田中氏からクラウドにシフトすることの利点について語っていただいた。
「クラウドにシフトしていくと、一つのテクノロジーに集中できる。サービス業で複数店舗を運営しているところで複数のテクノロジーを入れようとするとなかなか大変なので、一つのテクノロジーにフォーカスしていったほうが集中できてよいと考えています。
また、ユーザーであるゴルフ場の方もITリテラシーが決して高いわけではない。だからといって、バージョンが古いのを使っていいかというとそうでもないと思っています。
バージョンが新しいものは使い勝手が良くなるので、ユーザーには常に新しいものを使える状況にしたいと思っています。
新しいものを使える人が10%いれば、その方たちは作業効率が高くなった。使えなかった90%をフォーカスするのではなく、作業効率が高くなった方たちをフォーカスしたいと思っています。」(田中氏)
サービス業の業態として、全国展開・コンシューマの重要な情報の取り扱い・精算業務など売上にかかわる情報を扱う、という特徴があるため、システムの切り替えにおけるハードルが高いのではないだろうか。これは冒頭で述べた情報通信白書の数字にも表れているといえよう。
しかし、クラウドを導入することでの利点も多くあるはずだ。店舗会議や集合研修などのリモート化や、顧客情報の一元管理といった部分ではかなり恩恵を受けることになるだろう。
また、田中氏が述べた通り、『常に新しいものを』というマインドも重要である。バージョンアップしたものが使いづらくなったり、機能が低下していたりということはほとんどない。積極的に新しいテクノロジーや、新しいものに触れることで、業務の効率化に活かされるのではないだろうか。
取材・文:池田 優里