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業界

物流業界におけるデータファーストアプローチとサプライチェーン変革

近年、我が国のロジスティクス/物流業界は、社会情勢や人々のライフスタイルの変化に伴う顧客ニーズの多様化や高度化、資材・輸送コストの上昇、環境対応といったさまざまな課題に直面しています。さらに 2024 年 4 月 1 日からはトラックドライバーの時間外労働時間を制限する働き方改革関連法が施行されることから、業界全体への大きな影響が予想されています (2024 年問題)。

こうした激しい変化のただなかにあるロジスティクス/物流業界に対して、マイクロソフトは「スマート・ロジスティクス」を提唱し、クラウドを基盤とするデータ活用によって、業界全体のビジネスモデル変革を導く DX を支援しています。(参考:日本マイクロソフト 産業別ブログ:ロジスティクス/物流業界の未来を変革するマイクロソフトの先進テクノロジー)

本稿では、ロジスティックス/物流業界の DX を推進し、サプライチェーン変革を実現するための「データファーストアプローチ」の重要性とマイクロソフトの取り組みについて、国内外の事例を交えながらご紹介いたします。

ロジスティクス/物流業界を取り巻く 4 つの潮流とスマート・ロジスティクス

コロナ禍における生活様式の変容を経て、日本国内の EC 市場は年々成長しており (2021 年 21 兆円)、宅配便取り扱い個数は 2019 年 (43 億個) から 2022 年 (50 億個) にかけて 16% 伸長しています。一方で、小口配送の需要が高まったことでサプライチェーンがより広範になり、物流機能の全体もしくは一部を、第三の企業に委託する 3 PL (3rd Party Logistics) の登用も増加し、配送形態も多様化しています。さらには、消費者の意識や行動の変化に伴って、車両データや配送データを活用した顧客ニーズに対する付加価値向上や新サービス開発への取り組みも加速しています。

私たちは、ロジスティクス/物流業界が DX を推進していくにあたり、マイクロソフトとして大きく 4 つの潮流があると考えています。まずは 4 つの潮流を、1 つずつ見ていきましょう。

1、予測可能な強靭なサプライチェーン

現在のロジスティクス/物流業界では、運ぶモノや商材によって少しずつプレイヤーが異なっており、多くのプレイヤーが連携することでサプライチェーンが成り立っています。つまり企業ごと、部門ごとの縦割りやタコツボ化に伴う連携不足は、在庫不足や配送の遅延といった問題につながります。サプライチェーン全体を可視化することで生じるリスクや問題を予測し、プレイヤー間のスムーズな連携とより迅速な対応を生み出す仕組みづくりが求められています。

2、新たな価値創出に向けた柔軟な仕組み

顧客ニーズの多様化や高度化が目覚ましいロジスティクス/物流業界においては、最終消費者である顧客との接点強化や異業種との協業による新たな付加価値の創出により、ビジネスポートフォリオを拡大する動きが注目されています。関連企業には、SNS を活用した配送時間の指定システムや介護事業と連携した高齢者見守りサービスの提供など、慣習や業界の垣根を超えてこれまでになかったサービスやソリューションを生み出す柔軟な姿勢が求められています。

3、現場力向上と業務の効率化

倉庫や集荷センター、営業所といった拠点においては、業務の属人化が進みやすい傾向が見られます。迅速性や効率が求められるこれからのロジスティクス/物流業界では、作業のフロー化や自動化の推進、拠点間でのデータ共有など、現場業務の効率化を進める必要があります。そのためには旧来の経験頼りの業務フローやレガシーなシステムを改め、アジャイル的な思考や開発手法を基にした仕組みを導入する必要があります。

4、持続可能性の追求 (サステナビリティ)

ロジスティクス/物流業界に限らず、持続可能性の追求は全地球的な課題となっています。商品の開発、生産、販売、利用、廃棄といったライフサイクル全体で、部品点数の削減や材料の変更、リサイクル可能な仕組みづくりといった循環型経済の考え方が広まるなかで、ロジスティクス/物流業界においても事業活動から排出される CO2 の削減や在庫の最適化に向けたアクションが求められています。

こうした 4 つの大きな潮流それぞれに対応していくには、バリューチェーン全体を捉えたデータの利活用やデジタル化、最新テクノロジーの採用が必要不可欠であり、データを中心としたアプローチが重要となります。

スマート・ロジスティクスを実現する「データファーストアプローチ」の考え方

前章で触れたように、ひと口にロジスティクス/物流業界と言っても、輸送前、輸送中、輸送後とそれぞれのプロセスで幅広いバリューチェーンを持っており、数多くのプレイヤーが連携してサプライチェーンを構成しています。

個々のバリューチェーンのフェーズごとにデジタルソリューションを利用して業務を改善・最適化していくことも重要ですが、地政学的リスクの高まりや災害などで不確実性が高まる昨今、バリューチェーンを一気通貫して捉えることが必要不可欠になってきています。
たとえば、これまでは縦割りの組織や独自のオペレーションを束ねながらサプライチェーンの維持・管理が行われてきましたが、その状態ではプロセスが分断され属人化されていることも多く、アクシデントが発生してから受動的な事後対応が多くなってしまいます。
これからのロジスティクス/物流業界には、多くのプレイヤー間の連携をより効率的に行いながらオペレーションを最適化しつつ、予測不可能な事態にも対応していくことが求められます。

そのために必要なのが、DX の焦点をインフラストラクチャ中心の変革からデータ中心の価値創出へとシフトする「データファーストアプローチ」の考え方です。

「データファーストアプローチ」を採用することにより、分断されていた情報を連携させてプロセスを結合し、データやファクトから得られた洞察を元に問題発生の予想を行い、先手を打った判断が可能になります。
「データファーストアプローチ」を元にサプライチェーンを循環させていくことで、不要な在庫の積み増し防止や緊急オーダーの回避によるコスト削減など、各フェーズの最適化を実現できます。また、これから起こりうる事象を予測することで、迅速かつ正しい経営判断につなげることも可能です。

「データファーストアプローチ」を実現するためには、データの存在場所を明らかにして、適切なデータ管理を行い、常にクリティカルなデータを活用できる環境を整えることが重要です。

そこでポイントとなるのが、クラウドサービスの活用です。マイクロソフトでは、2022 年 11 月に「Microsoft Supply Chain Platform」構想を発表しました。
これは、マイクロソフトが持つ AI やマシンラーニング、ローコード・ノーコード開発の仕組み、セキュリティテクノロジーや Microsoft Teams をはじめとするコミュニケーションツールといったさまざまなソリューションを、パートナー企業が持つソリューションと組み合わせることで、ロジスティクス/物流業界の顧客の課題を解決するクラウドプラットフォームです。

Microsoft Supply Chain Platform のコアをなるのが「Microsoft Supply Chain Center」と名付けられた SaaS ソリューションです。このソリューションを活用すれば、サプライチェーン全体を可視化し、連携させることが可能です。2023 年 6 月現在では米国プレビュー版が公開されており、今後他国への展開を強化していく予定です。(Microsoft Supply Chain Platform | Microsoft

データファーストアプローチを取り入れた企業事例

マイクロソフトでは、データファーストアプローチの観点をもってロジスティクス/物流業界のリーディング企業との協業を進めています。いくつかの事例をご紹介します。

C.H.Robinson 社は海上輸送を含むサプライチェーンの可視化を進めており、Microsoft Surface などのマイクロソフト製品も、同社のソリューションで配送管理が行われています。また DHL 社と Blue Yonder 社とは物流倉庫におけるロボティクスプラットフォームの構築で協業し、既存システムと基幹システムを統合する際のプログラミングにかかる時間の 60% 削減を実現しました。FedEx 社とは蓄積された顧客データを元にした満足度向上のための FedEx Surround Platform の構築を支援しています。

国内においても多くの企業と協業しており、ヤマト運輸社とは EC 向けの新配送商品「EAZY」の構築で協業。EC 利用者、EC 事業者、配送事業者のすべてをリアルタイムなデジタル情報でつなぎ、利便性、安全性、効率性の高い新たな顧客体験を実現しています。

参考:日本マイクロソフト お客様事例: Microsoft Customer Story-EC 向けの新配送商品「EAZY」で新たなエコシステムを実現、その基盤となるコア システムを Azure に構築

また郵船ロジスティクス社は、倉庫管理システム「Manhattan SCALE」を皮切りとして Microsoft Azure によるグローバルでの全社システムの統合/標準化を進めており、懸案であった倉庫管理システムの標準化と TCO 削減を達成しつつあります。また IT コストの可視化や基盤の柔軟性が増すことで、グループ全体の IT施策の立案/管理/監督の高度化においても、大きな効果を上げています。

参考:日本マイクロソフト お客様事例:IT の“ライトアセット化”に向け、Azure 活用の成功事例をグローバル規模に展開、IT 基盤の標準化を実現

これらの事例をはじめ、マイクロソフトはデータファーストアプローチの考え方を軸にしたロジスティクス/物流業界のスマート・ロジスティクス推進を支援しています。これからも皆さまのテクノロジーパートナーとして、サプライチェーン全体を俯瞰しながら、各企業にとって最適なアプローチやソリューションをご提案・ご支援してまいります。