100 年に一度の変革を後方支援する、強固なパートナーエコシステム〜第 15 回オートモーティブワールド出展レポート〜
日本マイクロソフトは、2023 年 1 月 25 日(水)〜27 日(金)の 3 日間にわたり、東京ビッグサイトで開催された第 15 回オートモーティブワールドにブースを出展。100 年に一度の大変革期とも言われる自動車・モビリティ業界において、日本マイクロソフトが提供するソリューションの展示を行いました。本稿ではその模様を、26 日(木)に行われたマイクロソフト・コーポレーション自動車・モビリティ産業担当ディレクター江崎 智行による特別講演のレポートと合わせてお届けします。
特別講演「次世代のモビリティ:Car to Cloud」レポート
「ITの技術屋」として自動車・モビリティ業界の技術革新をサポート
日本マイクロソフトが出展したのは、オートモーティブワールドの 7 つの展示エリアのうち「自動運転 EXPO」。ブースはチェッカーフラッグを想起させる黒と白の格子柄を基調としたユニットで構成されており、スタイリッシュな印象です。ブースの前面にはミニシアターコーナーとHoloLens 2 という体験型のコーナーを設置し、通りすがる参加者の興味を惹きやすい構成を意識しています。
今回のブース出展は 2020 年に続いて 2 度目となります。インダストリーアドバイザー モビリティサービス事業本部 モビリティサービスソリューション・ビジネス開発本部の藤巻 好子は「リードを獲得するというよりは認知度の向上に重点を置いています」とその目的を明かします。「マイクロソフトと聞くとまだ Windows を思い浮かべる方が多いなかで、こうした展示会への参加を通して、マイクロソフトはクラウドサービスによって業界ごとに特化したサポートを行う企業でもあると認知していただくことには大きな意義があると思っています」(藤巻)。
その思いは、「Drive The Future of Mobility」というスローガンに反映されています。車づくりの中心がハードウェアではなくソフトウェアへと移行する SDV(Software Defined Vehicle)時代へのシフトを見据えて、自動車・モビリティ業界が挑戦する技術革新に、日本マイクロソフトが「IT の技術屋」として並走していきたいという思いが込められているのです。
日本マイクロソフトのパートナーエコシステムを象徴するブース構成
ブース内には、日本マイクロソフトのソリューション紹介コーナーと隣接する形でパートナー企業による展示コーナーも設置。インダストリーアドバイザー モビリティサービス事業本部 モビリティサービスソリューション・ビジネス開発本部の蒲原 照幸はその意図を、「マイクロソフトはあくまでクラウドサービスを提供する事業者であり、エンドユーザー向けの製品を開発するのはパートナー企業です。このブースの配置には、私たちとパートナー企業各社のエコシステムによってエンドユーザーの最終的なゴールを実現するビジネスモデルの訴求という意図が含まれています」と語ります。
その言葉を裏づけるように、アンシス・ジャパンのマーケティング部門 シニアマーケティングスペシャリストの土屋 知史氏は、「当社が提供するエンジニアリングシミュレーションソフトウェアは膨大なデータを扱うため、クラウドサービスとのコラボレーションは欠かせません。当社のお客さまやサービスに興味を持っていただいた方に、その場で Azure を紹介できるのは大きなメリットです」と相乗効果を評価します。
また、アクセンチュアのビジネス コンサルティング本部コンサルティンググループのマネジャーの白川 莉彩氏も、「当社では Microsoft Sustainability Manager を活用した CO2 削減事例を紹介しているのですが、今回の出展で具体的なアクションを起こすには至っていないまでも危機感を抱いている方が多いことがわかりました。そういった方々にアピールできたのは社会的にも意義があると思います」と手応えを感じていると言います。
デジタルツインの技術を使った全体最適化ソリューション事例を展開するアバナード、HoloLens 2 の Web アプリケーション開発を行う神戸デジタルラボ、エンジニアのソフトウェア開発向けのプラットフォームを提供するギットハブ・ジャパンの各社も、訪れる来場者に忙しく対応していました。
充実したミニセミナーをきっかけに、多くの参加者がブースを来訪
ブース前方に設置されたミニシアターブースでは断続的にミニセミナーが行われ、賑わいを見せていました。テーマは多岐にわたっており、日本マイクロソフトによる「日本マイクロソフトが考えるモビリティ」「物流+スマートロジスティクス」「サステナビリティ」「HoloLens 2」「セキュリティ」に加えて各パートナーがソリューションを紹介するパートがあり、それぞれ工夫を凝らした講演が道ゆく人の足を止めていました。
なかでも「市民開発」のミニセミナーでは、トヨタ自動車田原工場のエンジン製造部に所属する吉田 保正氏が、「モノづくり現場から始める市民開発」と題して、ご自身が経験した市民開発プロジェクトを紹介。日本マイクロソフトのソリューションを活用した客観的な体験談を聞けるとあって、モニター前には多くの聴衆が集まりました。
吉田氏は情報システム部門に所属しているわけでもなく、IT エンジニアでもありません。そんな吉田氏が、自分たちの所属部門の課題を解決するためのシステムを自前で開発し、業務効率化を実現した事例を紹介する形でセッションは進められます。
具体的な事例として吉田氏は、Microsoft Power Platformを用いたローコード・ノーコードの市民開発により「職場 KPI ボードのデジタル化」と「ヒヤリハット提案アプリ」を実現し、PDCA の劇的な改善という効果を得られたと語ります。吉田氏は、市民開発のポイントになるのは「既存の人材の活用」だと言います。なぜなら実務を一番理解していることはもちろん、カイゼンへのモチベーションも高い人材が自分たちで開発を行えるようになれば、さらなる改善の提案が生まれ、改善の連鎖が生まれるからです。「使いながらカイゼンしていくアジャイル開発も可能になります」と吉田氏。
吉田氏は「市民開発はモノづくりやカイゼンの文化と親和性が高い」とし、だからこそ「デジタル人材を自分たちの職場にいるメンバーから探すこと」を考え、保守的な意見に対しては「最初の一歩を踏み出すことで可能性に気づける」とエールを送ります。そして「実務を知っている自分たちだからこそ、自分たちに最適なデジタル文化をつくれる」とまとめて、セッションを終了しました。
日本マイクロソフトによるセキュリティに関するミニセミナーでは、自動車・モビリティ業界でも深刻な課題となっているサイバー攻撃への対応について、「自動車がソフトウェア定義になる今だからこそ考えるセキュリティ」と題しマイクロソフトコーポレーション サイバーセキュリティアドバイザー インダストリーソリューション セキュリティサービスライン 自動車・モビリティー・物流業界の萩原 彩子による講演が行われました。
萩原は、自動車・モビリティ業界を包含する製造業界において、多様化、進化するランサムウェア、サプライチェーンを狙った攻撃の増加、クラウドや VPN、BYOD といった攻撃の接点の増加、IoT の脆弱性をついた攻撃の増加などの課題に対応する必要があるとし、今後はコネクテッドカーの増加にともなって、価値の高いデータを保持することになる自動車・モビリティ業界を対象としたサイバー攻撃がさらに増えるとの予測を示します。
ただ一方で、サイバー攻撃の被害を抑えるためにできる対策はたくさんあるとし、ゼロトラストセキュリティやセキュアなクラウド環境といった、一見当たり前のセキュリティ対策を徹底することが大切であることを訴求。マイクロソフトが提供する業界最高レベルのセキュリティソリューションやコンサルティングサービスが力になることを提示して、セッションを終了しました。
課題も見えた 3 日間。これからも IT の側面から日本のモノづくりを支えたい
モビリティサービス事業本部 モビリティサービスソリューション・ビジネス開発本部の上野は、3 日間のブース出展を総括して「手応えは非常によかったです。多くの方にご来場いただき、いろいろと質問もいただきました」と、当初の目的であった認知度向上においては一定の成果が得られたと語ります。ただ一方で、展示の見せ方やテーマの選び方には改善の余地はあったとし、「今回の展示の多くがソフトウェアであり、リアルに触れられるものではありませんでした。もっと体験型の演出を加えてもよかったと思っています」(上野)。
これまで以上に自動車・モビリティ業界を理解し、また日本マイクロソフトのソリューションを理解していただく工夫が必要だと実感したこともひとつの成果であり、そのうえで「日本は、現場で改善をして品質の高いモノづくりができる点に強みを持っていると思っています。日本の自動車・モビリティ業界の強みをIT の側面からサポートしていきたい」と上野が語るとおり、第 15 回オートモーティブワールドへの出展は私たち日本マイクロソフトにとっても、自動車・モビリティ業界への支援推進に向けた決意を新たにするよい機会となりました。
特別講演「次世代のモビリティ:Car to Cloud」
マイクロソフト・コーポレーション
自動車・モビリティ産業担当
ディレクター
江崎 智行
超満員の熱気に溢れるセミナールームで演題に立った江崎は、まず自動車・モビリティ業界が直面する 3 つのトランスフォーメーションを提示します。ひとつめは顧客体験の変革や従業員の働き方改革、モノ・コトつくりの変革といった「企業のデジタルトランスフォーメーション」。ふたつめが、互いにつながり、学習し、進化する新たなモビリティの再定義が必要とされる「車両のトランスフォーメーション」、そして異業種が連携したエコシステムの構築が求められる「モビリティサービスのトランスフォーメーション」です。
江崎は、今後車両の自動化・電動化が進み、SDV(Software Defined Vehicle)へのシフトが確実視されるなか、これらの課題を解決し、消費者の期待に柔軟かつ迅速に対応できる End to End のサービスを展開するためには、ハードウェアのみならずソフトウェア、そしてすべてのバリューチェーンとエコシステムの最適化を目指す必要があると説きます。
そして「私たちマイクロソフトは、データに着目してセキュアでトランスペアレントで信頼のおけるデジタルプラットフォームをつくることがミッションであり、その実現によって(自動車・モビリティ業界のトランスフォーメーションの)ゴールを達成できると考えています」と、マイクロソフトが自動車・モビリティ業界で果たすべき役割を示して本論へと話を進めていきます。
課題解決のためには個社ではなくエコシステム全体で対応すべき
マイクロソフトが考える自動車・モビリティ業界の課題として江崎は、CASE(Connect、Autonomous、Services/Shared、Electric)の進展にともなう「車両イノベーションの加速」「レジリエントなオペレーション」「差別化された顧客体験」「組織生産性の向上」の 4 つの課題、さらに「サステナビリティ」と「セキュリティ」にも取り組むことを求められていると語ります。 「自動車・モビリティ業界のCO2 排出量は市場全体の 3 分の 1 を占めており、自社のみならずサプライヤーやバリューチェーンを含めたカーボンフットプリントの可視化が求められます。またオープンソースコードが推進されるなかで、サイバーセキュリティ対策を提示していかなければいけません。しかも外部システム、データセンター、全てのサーバが対象になります。これはエコシステム全体で対応しなければいけないテーマです」(江崎)。
そのうえで江崎はマイクロソフトの立ち位置として、SDV そのものを商用化することは考えておらず、「お客さまが SDV を商用化するときに必要とされる技術的なコンポーネントを揃えて、皆さまが目標とされる DX にいち早くアクションを取れるようにすること」とし、マイクロソフトの SDV 戦略として「オープンソースの推進」「商用化の支援」「戦略的パートナーシップ」を提示。マイクロソフトのミッションはあくまでもオープンソース開発による後方支援であることを示します。
マイクロソフトのソリューション活用事例「車両イノベーションの加速」
ここから江崎は、マイクロソフトが顧客企業とともに構築した課題解決ソリューションのユースケースを、課題ごとに紹介していきます。
まずはマイクロソフトがコア企業として参画している欧州のオープンソース団体「The Eclipse Foundation」において、SDV を推進するために立ち上げた新たなワーキンググループについて。「このワーキンググループにはアップストリームとダウンストリームという考え方に要点があります」と江崎。
アップストリーム(上流方向)では SDV に必要不可欠な技術的コンポーネントをワーキンググループのコミュニティ参画企業が協働で構築、標準化が行われる一方、そこから生まれたアセットを商用化につなげるために、ダウンストリーム(下流方向)工程でマイクロソフトの Azure や各開発ツールによりサポートしていくという、まさに「OSS(オープンシステムソフトウェア)のアプローチ」(江崎)を実現しています。
ここで江崎はマイクロソフトの技術リーダーからのメッセージとして「オープンエコシステムはダイバーシティであることに意味があります。ですがこのワーキンググループには日本のお客さまが入っていない。日本の自動車業界の市場はこのオープンエコシステムから求められています」と会場の参加者に参画を訴えました。
SDV 戦略にともなうふたつめのユースケースは「Car to cloud」を象徴する事例としてゼネラルモータース社のソフトウエアプラットフォーム「Ultifi」が紹介されました。Azure 上に構築され、ハイパーパーソナライズされたサービスを提供する Ultifi プロットフォームを江崎は「車がインテリジェントクラウドのコネクションポイントとなっており、消費者に新しい経験を与える手段になっていく、まさに Car to cloud を象徴する事例」と表現。マイクロソフトがデータやアプリケーションとシームレスに統合できるソフトウェア開発環境を提供することで、データを活用した究極のパーソナライゼーションを目指す「Ultifiプロットフォームの可能性は無限大」であると、力を込めて語りました。
マイクロソフトのソリューション活用事例「レジリエントなオペレーション」
江崎は「マクロ経済の激震、不確実性の高い変化のなかで、デジタルを使いながらいかに柔軟、迅速に対応できるかが私たちの使命」と述べたのちに、メルセデスベンツがマイクロソフトの Azure 上に構築した「MO360 Data Platform」の事例を紹介します。
このプラットフォームはすでに 30 ヵ国で展開されており、サプライチェーンの見える化や予測精度のアップによるボトルネック解消や Microsoft Power BI ダッシュボードの活用による継続的な改善ループの実現、さらに CO2 排出量やエネルギー、水、廃棄物の管理を監視・予測できる仕組みにより、レジリエントでサステナブルな生産システムを実現しています。
ここで江崎は 2030 年までのカーボンネガティブの実現、さらには 2050 年には創業以来輩出してきた CO2 に相当する量を削減するというマイクロソフトのサステナビリティ施策を紹介。
これらの先進的な取り組みで蓄えた経験とテクノロジーを顧客に提供し、サステナビリティゴールに向けた取り組みを支援することがマイクロソフトの真の目的であると述べ、「Microsoft Cloud for Sustainability」上に自動車・モビリティ業界に特化した機能を構築する取り組みをアピールします。
マイクロソフトのソリューション活用事例「組織生産性の向上」
続いて江崎は Microsoft Power Platformを用いた Toyota Motor North America の事例を紹介。Toyota Motor North America では、現場従業員自ら課題を解決するためのアプリをPower Platform を用いてローコード・ノーコードで開発し、改善することで業務を効率化する循環を実現しています。
江崎は「自分で開発をして自分で使ってみながら改善していくのは日本のメーカーが得意とするところ」と述べ、Azure や HoloLens 2、デジタルツインなどと組み合わせることで、生産プロセスからサプライチェーンのシミュレーションが可能となり、より生産性を高められるというビジョンを示しました。
マイクロソフトのソリューション活用事例「差別化された顧客体験」
江崎は、メタバースを用いた消費者体験と作業者体験両面の変革というテーマごとにユースケースを紹介します。ひとつめはフィアット社のバーチャルショールームについて。紹介動画を流しながら、自宅にいながらメタバース上でディーラーの担当者と会話でき、さらに試乗、購入までできるという新たな消費者体験ソリューションについて解説していきます。
このソリューションはすでに実用段階にあり、「自動車業界は 3DCAD による設計などデータ化が進んでいるため、試乗シミュレーションの実現は比較的簡単にできるはず」という江崎の言葉は参加者にも響いたのではないでしょうか。
続いて作業者体験のユースケースとして紹介されたのは、日産自動車の「Intelligent Operation Support System」。これは工場で働く人たちが新製品の生産手順を学ぶ際の支援を目的としており、Dynamics 365 Guides とHoloLens 2 を用いて自習型トレーニングを提供できるシステムです。
実際にこのシステムを導入した工場では、作業手順の習得時間を半分まで短縮すると同時に、講師側の負担も大幅な削減を実現しているそうです。
パートナーとの協業を密にし、非競争領域のベストプラクティスを共有していく
最後のトピックとして江崎は、CES 2023 で発表されたマイクロソフトの「リファレンスアーキテクチャによるパートナーエコシステム支援」について解説。マイクロソフトは今後、「コネクテッドフリート」「AVOps」「デジタルセリング」という 3 つの領域にフォーカスした取り組みを展開することになりますが、「ひとつ、大きな方針の変更にトライすることにしました」と明かす江崎。
そのトライとはすなわち、マイクロソフトは今後、自動車・モビリティ業界において個社ごとの個別最適を目指すのではなく、非競争領域におけるベストプラクティスを広く顧客に共有することで、顧客がクイックかつ安価にシステムを構築し、競争領域にフォーカスできるようにサポートしていくというものです。
江崎は、この挑戦にはパートナー企業との協業が欠かせないとし、「私たちはおそらく、同業他社のなかで一番多くのパートナーとの協業をグローバルスケールで展開している企業だと思います。これからはパートナーとのソリューションを、Azure 上で動かしますというレベルではなく、製品のエンジニアリングのレベル、GTM(Go To Market)のレベルで密にコラボレーションして、お客さまの DX に貢献していく。これがマイクロソフトのパートナーエコシステムに対する新しい方針です」と宣言して、セッションを終了しました。