未来を書き換える: シミュレーションベースの デジタル ツイン
※本ブログは、米国時間 2019 年 12 月 19 日に公開されたRe-writing the future: The simulation-based digital twin の翻訳です。
前回のブログ記事では、デジタル ツインを取り巻く状況がここ数年でどれほど劇的に変化したかを確認しました。
また、デジタル ツインにおいて最新かつこれまでで最も楽しみなクラスとして、シミュレーションベースのデジタル ツインについてもご紹介しました。
最近では、この領域をリードする ANSYS から、フィジックスベースのシミュレーションによって Microsoft Azure Digital Twins を拡張し、新製品に対する新たなレベルのデジタル検証を実現するというニュース (英語) が発表されたばかりです。
ANSYS Twin Builder を利用すると、企業は、既存のコンポーネントを再利用して、完全なシステムのシミュレーションとデジタル ツインの構築、検証、展開を迅速に行い、リアルタイムの資産パフォーマンスの監視や、予測メンテナンスなどのシナリオに対応できるようになります。
メーカーは、そのデジタル ツインをエクスポートして、PTC ThingWorx (英語) や SAP (英語) といった製造現場のプラットフォームにつなげることができます。これにより、デジタル ツインは AI を利用して製造現場から送信されるデータから学習し、設計、パフォーマンス、運用などの最適化に役立つ洞察を引き出せるようになります。最も素晴らしいのは、そのデータを利用することで、インテリジェントなフィードバック ループによって将来的なデジタル ツインのイテレーションの設計や開発、提供、サービス性を検証することや、最適化することが可能になる点です。また、ANSYS が開発したプラットフォーム「Minerva」を利用すると、OEM の開発者やエンジニアは、顧客環境向けのデジタル ツイン モデルを連携して構築し、公開できるようになります。これにより、OEM のエンジニアへのフィードバック ループとして、資産の運用からデータや洞察が収集されます。
さらに、ANSYS は、Rockwell Automation などの産業オートメーションをリードする企業と連携 (英語) して、シミュレーションベースのデジタル ツインによってビジネス成果の向上を目指す顧客を支援する取り組みも進めています。
ANSYS の製品開発担当ディレクターである Sameer Kher 氏は、次のように述べています。「ANSYS Twin Builder は、シミュレーションベースのデジタル ツインをパッケージ化するアプローチを提供する初のソフトウェア ソリューションです。このソリューションによって、エンジニアは、物理製品のデジタル表現の構築、検証、展開を迅速に行うことができます。それらのデジタル ツインを展開すると、製品のライフタイム全体でメンテナンス コストを最大 20% 削減することが可能です。このマイクロソフトとの協業により、Microsoft Azure Digital Twins を利用した独自の IIoT プラットフォームの構築を目指す大規模企業のお客様に、ANSYS Twin Builder のランタイムが容易にアクセスできるようになります」
最初のブログでご紹介した衛星の事例に戻ってみましょう。シミュレーションベースのデジタル ツイン モデルは、とりわけ航空宇宙産業などのリモート資産を展開するシナリオにおいて非常に素晴らしい成果を上げています。衛星を打ち上げることができない場合、その後に何が問題なのかを分析します。従来の分析モデルでは、分析範囲が限られ、実環境への展開後に製品のパフォーマンスを予測できる能力に限界があります。
デジタル ツイン イノベーションにシミュレーション機能を追加すれば、仮想環境や物理環境での操作の結果を理解することが可能になり、シミュレーションやモデリングによって事前に大方の分析を行い、その結果をシステムにフィードバックできます。多くのメーカーが既にデジタルでの確認と検証の実現に向けた取り組みを進めています。これには基本的に、複数のシミュレーション モデルを連動させ、モデル間でデータを交換することで、実際の状況下での資産の動作を予測するためのデジタル モデルを構築する必要があります。
たとえば、コンプレッサーのシミュレーションベースのデジタル ツイン モデルには、エア コンプレッサーの強度と構造的完全性を分析するための有限要素解析 (FEA) モデルや、気流のモデリングを行うための数値流体力学 (CFD) モデル、放熱性の確認や動作温度の検証を行うための熱交換モデルやサーモグラフィー モデル、場合によっては振動を考慮するためのモデルも含まれていることが考えられます。これらの統合シミュレーション モデルはすべて、生産中および生産後にそれらの各インスタンスのシリアル化されたデジタル表現を作成するために、シミュレーションベースのデジタル ツイン戦略に取り入れることができます。
ANSYS と連携して同社のシミュレーション モデルの多彩なライブラリをその Twin Builder ツールと組み合わせて利用することで、メーカーは、シミュレーションベースのアプローチによって洞察をもたらすデジタル ツイン モデルを開発できるようになります。マイクロソフトでは、それらのシミュレーションを素早く拡大できるようにすると共に、セキュリティと拡張性に優れたコンピューティング プラットフォームによってメーカーを支援するため、お客様がクラウドで独自のシミュレーションやデジタル ツインを実行できる、Azure のハイパフォーマンス コンピューティング機能などの専用機能を提供しています。また、ハイブリッド環境で作業することもできるため、すぐにクラウドに接続して、Azure Synapse や Azure Time Series Insights を利用して大規模な時系列データを分析することや、Azure Data Share を利用してバリュー チェーン全体でデータの交換、コラボレーション、作業を安全に行うことが可能になります。
共通のデータ モデルと OPC UA などの規格への準拠により、メーカーは Tier 1 および Tier 2 のサプライヤーやエンジニアリング パートナーを含むバリュー チェーン全体の効率を高めることができます。そしてマイクロソフトでは、当然ながら、オートメーション用マークアップ言語や、機械学習、人工知能のほか、異なるデジタル ツイン テクノロジ間でのコミュニケーションを可能にする幅広いデジタル ツイン定義言語 (DTDL) にも投資しています。これらのテクノロジ レイヤーはすべて、メーカーやパートナーが利用可能なテクノロジを最大限活用して、デジタル ツインの相互運用性、実用性、有益性を得る上で役立つものばかりです。
充実したパートナー エコシステム
マイクロソフトは、デジタル ツイン エコシステムに参加する弊社のパートナーを誇りに思っています。ANSYS や Altair をはじめとする企業と連携して、シミュレーションベースのデジタル ツインに HPC を利用する取り組みのほかにも、PLM、IoT、シミュレーションの強力な機能において Aras、Eurostep、PTC、Siemens と連携することができ、非常に光栄です。
たとえば PTC は、同社の PLM 機能である Windchill (英語) を、Azure テクノロジを利用されているお客様にマネージド サービスを通じて提供しています。
PTC は現在、分析用デジタル ツインの実現へ向けて、Windchill のデジタル定義と ThingWorx の物理エクスペリエンスをつなぐインターフェイスを開発中です。このインターフェイスにより、エンジニアが工場や現場のデータにアクセスすることも、その逆も可能になります。また PTC は、デジタル ツインの実現を目指すだけでなく、それによって、データドリブン デザインや、クローズド ループの品質管理、拡張現実による手順のガイダンスなどの重要なユース ケースに利用できるアプリケーションの開発も進めています。多くの場合、デジタル ツインはライフサイクルの設計フェーズに含まれ、現実的なフィールド データに基づくシミュレーションを必要とします。PTC は、ANSYS などのシミュレーション企業との提携を通して、現実世界の製品/環境、現実世界のフィールド データ、およびインデザイン製品の現実的なシミュレーションを提供することが可能です。
また PTC は、補修部品計画機能や在庫最適化機能によって、同社の機能をサプライチェーンやパフォーマンス用のデジタル ツインに拡張しています。デジタル ツインによる価値の提供という観点で弊社と PTC が提携した他の例には、Howden があります。Howden は、ポンプなどの循環設備の設計・製造において 160 年以上の経験を誇る、大手産業機械メーカーです。Howden は、顧客が Azure の ThingWorx のデジタル ツイン データを可視化したり、定期的なメンテナンスやセルフサービスを実施できるようにするため、HoloLens 用の Vuforia AR を使用した対話型複合現実エクスペリエンスを開発しました。これにより、複合現実内の特定のポンプから IoT ベースの運用センサー データとテレメトリを提供することで、ユーザーが運用パラメーターを取り入れた重要なアラートと分析を理解し、故障が発生する可能性を発見できるように支援します。同社の CAD モデルから構築されたアニメーションによるシーケンスに従って、ユーザーは、コンポーネントや部分組立品を操作して調べ、適切な修理手順のデモを行うことができます。これは、製造に素晴らしい新たなレベルの可視性をもたらすものです。
一方、Uber Cloud や Rescale など近年台頭した企業も、複数のソフトウェア プロバイダー間でのシームレスなシミュレーションを可能にする機能と柔軟性を実現しています。各社の一連のソフトウェア バージョンでは、エンジニアにさまざまなソルバーのコンピューティングを提供しています。また、Cadence、Mentor Graphics、Synopsis といったパートナーは、ハイテク業界や半導体業界の核となる電子設計などの特殊なワークロードに対応するデジタル ツイン機能を提供しています。
次のフロンティア
これは、デジタル ツイン イノベーションとパートナーの現在の状況を理解するためのほんの一例に過ぎません。その状況は急速かつ大きな飛躍を遂げています。シミュレーションベースのデジタル ツインは素晴らしいブレークスルーの 1 例です。業界がイノベーションを生み出し、進化を続ける中、私たちは今後もデジタル ツインのさらなる側面を目撃するでしょう。近い将来、パフォーマンスに関するデジタル ツインなどの機能が登場し、デジタル ツインで資産、リスク、キャッシュ フロー、その他の財務項目を検討する企業の財務モデリングといった業務にその概念が拡張されるようになることが予測されます。あるいは、双方向のデジタル ツインによって、航空宇宙企業が地上から画面をタッチするだけで 40,000 フィート上空を飛ぶ航空機のパフォーマンスを最適化したり、気象データに関連する高度なコンピューティングを実行したりすることが可能になるかもしれません。
製造分野のイノベーションにおいて、刺激的な時代であり、注目を集めるカテゴリといえます。マイクロソフトは、業界トップ クラスのパートナーと連携して、世界を築き、動かし、向上させる方法の変革に取り組めることを光栄に思っています。