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業界

日本マイクロソフト主催 製薬業界向け AI 活用推進セミナー〜生成 AI が導く、ヘルスケア・製薬におけるイノベーションの加速〜

2024 年 5 月 28 日に、日本マイクロソフト品川本社においてヘルスケア・製薬業界向けの AI 活用推進セミナーが開催されました。

日本マイクロソフトの AI ソリューション紹介に始まり、先進企業の取り組み、そしてパートナー企業によるソリューション発表で構成された本セミナーには多くの来場者が詰めかけ、ヘルスケア・製薬業界における生成 AI の注目度の高さを改めて実感する機会となりました。



「マイクロソフトの製薬業界における取組と最新ソリューションについて」

日本マイクロソフト株式会社
医療・製薬営業本部長
清水 教弘

日本マイクロソフト株式会社 清水 教弘の発表の様子

オープニング セッションには日本マイクロソフト株式会社 医療・製薬営業本部長の清水 教弘が登壇。

まず、早期発見や創薬の促進といったアンメット メディカルニーズへの取り組みによって新たな価値創造を目指す製薬業界においては、PHR や RWE(リアルワールドエビデンス)を支える AI の活用が重要なポイントとなることを示します。

患者さんにサービスを提供するにおける、統合的な連携/分析プラットフォーム

そして清水は、生成 AI の活用事例として、Copilot による医療安全管理マニュアルからの情報の抽出と ChatGPT によるデータ構造の統一化を紹介。膨大な資料からのデータの検索や、医師の診断メモやウェアラブルデバイスで計測されたバイタルデータの FHIR 形式への変換など、身近な領域で生成 AI 活用が進んでいることが示されました。

続いて 5 月 27 日に日本マイクロソフトがリリースした「製薬企業向け Copilot for Microsoft 365 プロンプト集」が紹介されました。さまざまな職種で使える生成 AI のプロンプト例が掲載されており、日本マイクロソフトのホームページからダウンロードできます。

Copilot for Microsoft 365 活用シナリオ・プロンプト集 – 製薬業界のビジネスを加速する生成AIの活用法 – マイクロソフト業界別の記事

製薬企業向けCopiplt for Microsoft 365プロンプト集

清水は「創薬から臨床、製造、マーケティングまでさまざまな領域で、生成 AI が皆さまの業務を支援できると強く信じています。ぜひ生成 AI 活用を一緒に進めていきたいと考えています」と呼びかけて、オープニング セッションを終了しました。


「AI の価値ある取り組み方を成功させるためのノウハウ」

日本マイクロソフト株式会社
マイクロソフトテクノロジーセンター
吉田 雄哉

マイクロソフトテクノロジーセンターの吉田 雄哉の発表の様子

日本マイクロソフト株式会社 マイクロソフトテクノロジーセンターの吉田 雄哉からは、AI プロジェクトを成功させるために重要なふたつのポイントについて解説が行われました。

まず吉田は、さまざまな Copilot 製品がリリースされていることで錯覚しがちなものの、Copilot は「コンセプト」であり、アプリケーション利用時の支援を行うものであること。そしてそれはマイクロソフト製品に留まらない、と会場に語りかけます。

吉田はマイクロソフト製品ではない固有の社内システムでも UI を Copilot に合わせることが重要であり、それによってユーザーにシームレスなサポート体験を提供できるとし、Copilot 開発を共通化できる開発パターン「Microsoft Copilot stack」を紹介しました。

ふたつめのポイントは、生成 AI 活用においては業務プロセス全体のデータ化が重要であり、DX の達成度合いが生成 AI の活用促進につながるという主張です。

業務プロセスのデータ化実現の図

吉田は、業務プロセスのデータ化が実現できれば、業務アプリケーションにプロンプトを埋め込むなど、生成 AI 活用の幅が広がることを示唆。そして、生成 AI を使いこなすためには通年通してやり続けることが重要であり、検証を重ねながら積み上げていくことで効果を最大化させられると強調。「そのためにはみんなの頭を変えていかなければなりません。これは文化の話なので時間がかかります」と、腰を据えた取り組みの重要性を語ってセッションを終了しました。


生成 AI 導入製薬企業様御登壇による事例紹介


「企業内における生成 AI 定着化のヒント」

小野薬品工業株式会社

デジタルテクノロジー本部 ビジネスソリューション一部 ユーザエクスペリエンス課 課長
田中 誠次朗 氏

デジタルテクノロジー本部 ビジネスソリューション一部 ユーザエクスペリエンス課
宗綱 葵 氏

デジタルテクノロジー本部 ビジネスソリューション一部 ユーザエクスペリエンス課
中村 哲文 氏

小野薬品工業株式会社様による発表の様子

このセッションでは、生成 AI を導入して業務改革を成功させている先進製薬企業による事例紹介が行われました。

田中氏によると、小野薬品では製薬業界でいち早く生成 AI 導入の検討を開始しており、2023 年 6 月には全従業員に ChatGPT 環境を開放、RAG を同年 7 月より検証開始。同年 11 月にサービス化し、16 のビジネスケースで展開をしました。現在は 40 のビジネスケースで利用されています。

田中氏は、インターネットの普及で後手に回った企業が衰退した姿を目の当たりにしてきた経験から、それに匹敵する激動をもたらし得る生成 AI には早期に対応しなければいけないという危機感があったと振り返ります。

ビジネスケースの整理と生成AI関連のサービス化施策の図

田中氏とともに対応にあたった宗綱氏によると同社では、生成 AI 関連のサービス化施策においては、3 つのケースに分けて対応を行っているそうです。

まず同社で開発した「OnoAI Chat」と呼ばれる標準的な生成 AI の活用で解決できそうなケースでは、ヒアリングやプロンプト作成支援を行う「30 分クイック ミーティング」と、コミュニティの形成や情報共有を目的とした「専用グループ チャット」のふたつのサポートを提供。
さらに高度なケースでは、文書を学習させた生成 AI「OnoAI Navi」により RAG の環境を提供し、グループ チャットによる情報共有や全社共通のチャット ボットによるサポートを実施しているそうです。

さらに同社では、Microsoft Power Platform のツール群による市民開発と生成 AI の組み合わせでさらなる業務効率化を実現しようとしています。宗綱氏からは Excel に入力された報告書に問題がないかどうかを生成 AI が判断し、Microsoft Power Automate のフローを回すことで自動的に回答が返ってくるシステムの事例が示されました。

続いて中村氏から、Copilot for Microsoft 365 の活用施策についての解説が行われました。同社では Copilot の活用推進プロジェクトを実施しており、そこから約 130 の有効事例が生み出されているとのこと。1 日約 1 時間半もの業務効率化を実現できている例もあるそうです。

最後に田中氏から「ビジネスケースに歩調を合わせること」「ビジネスの声を聞くために、日常に接点を持つこと」「自走するための支援をすること」の3 点が生成 AI 活用促進のポイントとして示され、セッションは終了となりました。


「社内向け生成 AI システムを短期間で開発・全社リリースし、定着させるために行ったこと」

第一三共株式会社
DX企画部 全社変革推進グループ 主査
朝生 祐介 氏

第一三共株式会社様による発表の様子

第一三共の朝生氏からは、同社の社内向け生成 AI システム「DS-GAI」の開発・運用の概要に関する解説が行われました。

朝生氏は、大規模言語モデルの急速な進化と幅広い業務領域における活用の可能性、多様なモダリティへの技術応用の広がりを踏まえて「今後、生成 AI の積極的な活用が企業の競争力を維持するうえで不可欠になる」と考え、社内向け生成 AI システム「DS-GAI」の開発を着想したそうです。

DS-GAI の開発は 2 フェーズに分けて進められましたが、特筆すべきはその開発期間の短さです。基本的な機能の全社リリースを行なったフェーズ 1 はわずか 1 ヶ月。フェーズ 2 においては、半年の間に次々と機能拡張が行われました。

DS-GAI開発の概要の図

システムの構築にあたって「機能は豊富にしつつ、誰もが使いやすいシステムを目指しました」と朝生氏。「開発を進めることも重要ですが、このような新しい技術を実際に成果に結びつけるためには、定着を促すための取り組みが非常に重要」であり、定着化のために多くのリソースを注いで対応してきたといいます。

その結果、DS-GAI の利用者アンケートでは 8 割以上が業務生産性・品質向上を実感しており、「既存業務の効率化だけにとどまらず、生成 AI によってできなかったことができるようになった」といった声も上がっているそうです。

最後に朝生氏は、DS-GAI の短期開発に寄与した要因として、「明確な経営戦略によって先進デジタル技術活用の位置付けが明確だったこと」「早期から生成 AI に関する技術的知見を蓄積していたこと」「Azure OpenAI Service の採用」「Azure に精通した開発パートナーの選定」「MVP(Minimum Viable Product)開発とアジャイル開発をフェーズごとに組み合わせたこと」を挙げます。

そして早期定着の要因としては、「毎月のように新機能の追加を行って、ユーザーのわくわく感を誘うことによってユーザーの興味関心を引き続けたこと」「システム開発と並行して早期定着を図るための啓蒙活動に幅広く取り組んできたこと」の 2 点であることを示して、セッションを終了しました。


「生成 AI 事業化支援プログラム-パートナー様との取り組みについて」

日本マイクロソフト株式会社
業務執行役員
パートナー事業本部 副事業本部長
エンタープライズパートナー統括本部長
木村 靖

日本マイクロソフト株式会社 木村 靖による日本マイクロソフトが提供する生成 AI 事業支援プログラムの紹介

木村はまず、日本マイクロソフトが提供する生成 AI 事業支援プログラムを紹介。このプログラムは、学習支援、構築や案件推進支援、有効なソリューションの横展開などを通して、生成 AI の活用に向けたビジネス機会の創出とスキルアップを提供するものです。

木村によると、本プログラムは 2024 年 1 月から 160 社のパートナー社とともに運営されており、半年ですでに 250 の事例が生まれているとのこと。木村は「協業を深めて、パートナー社からエンド ユーザーさまへの生成 AI のソリューション、サービスの展開を支援したい」と、パートナー社との共創を強調します。

そしてこれに続くセッションでは、日本マイクロソフトがまとめたヘルスケア業界向けの e-Book に掲載されているパートナー社のうち 4 社から、先進的なソリューションについての発表があることを伝え、ぜひ参考にしてほしいと会場に語りかけました。

日本マイクロソフト株式会社が提供する生成AI事業家プログラムの概要図

製薬業界向け最新eBook 最新生成AI導入事例&ソリューションを一挙にご紹介 (microsoft.com)


「パートナー企業登壇による製薬業界向け最新ソリューション紹介」


「TIS における生成 AI を活用した事例紹介 臨床試験関連文書の作成効率化プロジェクト」

TIS株式会社
デジタルイノベーション事業本部
ヘルスケアサービス事業部 ファーマ&メディカルサービス部
セクションチーフ
嘉村 準弥 氏

TIS 株式会社 嘉村 準弥様による講演の様子

TIS の嘉村氏からは、生成 AI を活用した臨床試験関連文書の作成効率化プロジェクトの紹介が行われました。

このプロジェクトでは、臨床試験のプロトコール文書の優先度の高い章に着目し、生成 AI を用いて文章生成を行おうとしているとのこと。長年製薬業界の統計解析業務を行ってきた同社だからこそ実現できるソリューションです。

このシステムは、試験実施概要書や参考文献の情報を Azure 上にアップすると生成 AI がドラフトを返送、人間による最終確認を経て完成稿を作成する構成。1 週間以内で環境を構築でき、学習済みモデルの生成 AI を使っているため、ただちに開発に着手できるそうです。

生成 AI を活用した臨床試験関連文書の作成効率化プロジェクトの構成図概要

また、臨床試験の関連文書は形式に沿った記述を行う場面が多いため、プロトコールの章に応じて生成方法を使い分けているとのこと。嘉村氏は生成された文書の例を示して、「ルールベースや機械学習でここまで流暢な文章を生成するのは困難」と、生成 AI を使うメリットをアピールします。

新しい技術であるゆえに、評価の仕方や著作権の考え方などで議論を重ねていると嘉村氏。「今後は文書の種類を増やしてプロトコール以外の文章にもチャレンジしたい」と目標を語ってセッションを終了しました。


「三井情報バイオヘルスケアソリューション”MKI-DryLab”紹介」

三井情報株式会社
DX 営業本部 バイオヘルスケア営業部営業室
室長
小川 哲平 氏

三井情報株式会社様による発表の様子

三井情報の小川氏からは、バイオ ヘルスケア ソリューション「MKI-DryLab for Microsoft Azure」の紹介が行われました。MKI-DryLab for Microsoft Azure は生成 AI を使ったソリューションではありませんが、同社がこれまで取り組んできたライフサイエンス領域のデータ解析支援のノウハウが詰め込まれています。
サービスのひとつは Azure 上にユーザーのニーズに沿った計算解析基盤を迅速に提供する「MKI-DryLab Platform」、もうひとつはユーザーの課題を三井情報のスペシャリストが解決する「MKI-DryLab Consulting」です。

MKI-DryLab の概要図

小川氏は「研究用の開発環境だからこそ、セキュリティが重要」と述べ、MKI-DryLab のセキュリティ対策を解説します。クラウドサービスである Azure には強固なセキュリティが担保されていますが、さらに MKI-DryLab では人為的なエラーなども想定したセキュリティ オペレーション センター(SOC)が設けられているとのこと。SOC によってネットワークやシステムを 24 時間 365 日監視することで、セキュリティ脅威の検知やインシデントへの迅速な対応が可能となります。

小川氏は最後に「我々が長年培ってきたバイオヘルスケア技術とセキュリティの両面からお客さまの解析環境を支援いたします」と述べてセッションを終了しました。


「製薬企業向け AI を用いた SAS ソリューションのご紹介」

SAS Institute Japan株式会社
Strategic Enterprise Industrial Services, Customer Advisory Division
Sr. Business Solutions Manager
土生 敏明 氏

Strategic Enterprise Industrial Services, Customer Advisory
Sr. Industry Consultant
William Kuan 氏

SAS Institute Japan株式会社様による発表の様子

SAS の土生氏と Kuan 氏は、同社のライフサイエンス領域に使われているソリューションの紹介を行いました。その製品のうち、同社のプラットフォーム製品である「SAS Viya」は、パフォーマンス、生産性、信頼性が高い AI プラットフォームであり、また直近のリリースでは LLM のオーケストレーションや管理機能を追加したとの事です。

また Viya には Copilot 機能も今後搭載される予定であり、Azure AI Search や Azure OpenAI Service と連携して最適な返答を得ることができます。土生氏は、SAS プログラミングのコメントからの SAS コード生成機能、SAS プログラムのコード解析、プロシジャの例の提示やコードの最適化などの機能を挙げて説明。初心者であっても習熟した SAS プログラマーと同等のプログラムが書けるレベルを目指していると語ります。

製薬企業向け AIを用いたSASソリューションのご紹介の図

さらに同社では、LLM のプロンプト カタログの生成によってランダム性を排除する機能や、LLM の説明可能性を向上させて高品質な回答を生成する機能、LLM に関するガバナンス強化、チャットボックス機能の最適化など、SAS の持つナレッジと生成 AI の組み合わせにより、インダストリーに最適化したものを提供しようとしています。そして、将来的には臨床試験の分析と申請においても生成 AI の活用を見据えていると述べて、セッションを終了しました。


「富士通における生成 AI 活用の取り組み」

富士通株式会社
Healthy Living
瀬山 大祐 氏

富士通株式会社様による発表の様子

富士通の瀬山氏からは、生成 AI を活用した文書自動作成ツール「Digital Data Flow with AI」についての解説が行われました。Digital Data Flow with AI は、AI テクノロジーと医薬品開発におけるグローバル標準を取り入れたソリューションであり、Translate 社が提唱する Digital Data Flow と ICH M11 の標準化プロトコールに基づいて、蓄積したコンテンツ データから LLM による高精度かつ省力化した文書の自動作成が可能となります。

生成 AI を活用した文書自動作成ツール「Digital Data Flow with AIの概要図

Digital Data Flow with AI には 4 つの文書作成支援機能を組み合わせることでさまざまなユースケースに対応でき、さらにユーザーが指定したフォーマットのスタイルを維持しながら文書生成を行えます。

最後に瀬山氏は、ハルシネーションとデータ + プロンプト エンジニアリングへの取り組みの重要性を強調。ハルシネーション対策として RAG を使ってデータに基づいた出力を行うこと、プロンプト エンジニアリングでは複雑なタスクを単純なタスクに分割することの重要性を述べ、目的に応じて最適な技術を選択することでアウトプットの精度を上げられると説明しました。



こうして、3 時間にわたるセミナーが終了。クロージングでは日本マイクロソフト株式会社 業務執行役員 ヘルスケア統括本部長 大山 訓弘が事例講演の 2 社に謝意を伝えつつ、「共通していたのは IT のプロジェクトというより会社、ひいては業界にインパクトを与えていく思いだったのではいか」と感想を語りました。

またパートナー 4 社に向けては「Azure OpenAI Service は汎用的な部品。パートナー社の最後の料理があってこそ現場で使っていただける最終製品になる」と、さらなる共創を呼びかけました。

そして最後に「より良いヘルスケアのかたちへ」というスローガンを提示して、「パートナーさま、製薬企業の皆さまとパートナーシップを結び、最終受益者である患者さまのためにどんなことができるのかを念頭におきながら、ぜひご一緒させていただきたいと思います」と、より強固なつながりの構築を訴えかけて全セッションの終了を告げました。

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製薬業界における生成 AI 活用の最先端の情報に触れ、パートナー社による AI ソリューションの進化を目の当たりにした参加者にとって、とても有意義な 3 時間になったのではないでしょうか。

日本マイクロソフトでは引き続き、皆さまとともに製薬業界における生成 AI 活用の可能性を探求してまいります。興味をお持ちの方は、ぜひ気軽にお問い合わせください。

ヘルスケア・製薬業界向け e-Book はこちらからダウンロードできます。

製薬業界向け最新eBook 最新生成AI導入事例&ソリューションを一挙にご紹介 (microsoft.com)
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