海外の医療機関における生成AI及びデータ活用に関する最先端の取り組み -Microsoft Ignite 2023: The future of data and AI across the entire healthcare journeyより-
Executive Summary
- ヘルスケア関連データは2025年までに全業界と比較して最も増加するものと予測されていますが、サイロ化されているため、臨床現場、患者向けサービスなど、すべてのタッチポイントで発生するデータを統合し、分析することでサービスの質を向上させることが求められています。
- 医療データに対応した新しいデータ分析プラットフォームを利用することで、自然言語で指示を出すだけで、患者情報を包括的に網羅したダッシュボードを作成できるようになります。
- 生成AIが組み込まれた新しいサービスを活用することで、業務の多くを占めるカルテ作成等の事務作業を簡素化し、医師の働き方改善に貢献する可能性があります。
1.Microsoft Ignite 2023とは
本ブログは、Microsoft Ignite 2023にて、「The future of data and AI across the entire healthcare journey」という題目で講演された内容に基づいております。Microsoft Igniteとは、弊社がグローバル規模で主催する開発者やIT担当者向けの年次会議です。弊社の最新ツールやソリューションが紹介の紹介が実施されます。また、世界中のお客様のためにオンラインで全世界同時配信もされます[1]。
2023/11/14-16にて実施されました、Microsoft Ignite 2023では、AIを中心に様々な発表がなされました。例えば、OpenAI社が提供するChatGPT等を弊社のクラウドサービス上で提供するAzure OpenAI Service上に、最新モデルであるGPT-4 Turboを始めとする複数の最新モデルを搭載することを発表しました[2]。これにより、300ページを超える長い文書を一度に入力できるようになります。即ち、本1冊を丸ごと読み込ませられるようになります。
本イベント内では、「The future of data and AI across the entire healthcare journey」というタイトルにて、ヘルスケア業界に関連するセッションも実施されました。医療機関における生成AIやデータ活用に関する可能性及び最新事例が紹介されました。主なトピックは以下3つです。
- 患者と医療従事者の体験の向上に寄与する取り組み
- 患者と医療従事者がより質の高い洞察を得るための取り組み
- より良い医療サービスを提供するための取り組み
本ブログでも、上記の3つのトピックに沿って、海外の医療現場における先端技術の活用の最新状況をご紹介いたします。
2. 患者と医療従事者の体験の向上に寄与する取り組み
まずは、「患者と医療従事者の体験の向上に寄与する取り組み」について、ご紹介いたします。医療サービスを受ける際に、より患者自身に最適化、パーソナライズ化された内容であれば、満足度が高くなる可能性が向上すると考えられます。パーソナライズ化された医療サービスを提供するには、患者に纏わるあらゆるデータを統合的に把握する必要がありますが、システムが分散しており、データがサイロ化していることが多い点がこれまで課題とされています。一方で、ヘルスケアのデータは2025年までに他のどの業界よりも増加すると予測されており、これからより一層患者に関するデータの扱い方について検討していく必要があると考えます。
関連する事例として、ジョージア州の大手医療システムプロバイダーである、Wellstar社の取り組みが紹介されております。同社は毎年11-12億ドル程度、無償で医療を提供している非営利企業になります。
Wellstar社は、臨床現場、患者向けサービスなど、すべてのタッチポイントで発生するデータを統合し、分析することでサービスの質を向上させたいという課題がありました。
具体的には、臨床、医師、人口それぞれからの示唆に基づいて患者と接することができることを目指しておりました。
同社は、彼ら自身の目的を達成するためにMicrosoft Cloud for Healthcareを活用し、異なるデータソースを統合し、それらを照合することで、患者の全体像を把握するための包括的なデータ環境を構築しました。Microsoft Cloud for Healthcareとは、医療データを大規模に管理し、医療組織が患者エクスペリエンスを向上し、診療日程の調整、業務効率の改善を行うことができるプラットフォームです[3][4]。例えば、患者用のポータルを利用して、医療機関と容易にメッセージのやり取りや、医療記録にアクセスすることが可能です。さらに、Microsoft Cloud for Healthcare は、医療データのプライバシー、セキュリティ、コンプライアンス、相互運用性について顧客をサポートすることに貢献します。最新のセキュリティ対策ツールを利用して、脅威からの攻撃から患者データを保護することが可能です。
このソリューションを活用することで、同社は患者の情報をより包括的に理解することで、患者自身に健康状態を正確に伝えられるようになり、患者と医療従事者の関係性も向上したとコメントをいただいております。
※Microsoft Cloud for Healthcareは、現時点で、英語、フランス語、オランダ語、ドイツ語、デンマーク語、イタリア語、スウェーデン語、フィンランド語、スペイン語、ポルトガル語にて提供されております[5]。
3. 患者と医療従事者がより質の高い洞察を得るための取り組み
続いて、「患者と医療従事者がより質の高い洞察を得るための取り組み」についてご紹介いたします。前章までにお伝えした通り、医療機関を取り巻くデータ量は非常に膨大です。世界経済フォーラムによると、医療機関は、年間50ペタバイトのサイロ化されたデータを生成しているとのことです。例えると、毎日4000枚の写真を撮り続けることで蓄積されるデータ量と同程度になります。しかしながら、このデータの97%が利用されておりません。海外の医療機関では、これらの膨大なデータを利活用することを先行して試み始めています。
2023年10月に、Healthcare data solutions in Microsoft Fabricのプライベートプレビューを開始いたしました。Microsoft Fabricとは、AI利用に最適化された、データ分析の統合プラットフォームになります[6]。AzureやAWS等、マルチクラウド上に存在する様々なデータを1つのデータレイクで簡単に分析することができます。またCopilotと呼ばれる生成AIの機能が搭載されることで、自然言語を記述するだけで、ダッシュボードの作成、クエリの生成をすることができます。その結果データエンジニアやデータサイエンティストの業務負荷を軽減し、より高付加価値の業務に専念することができるようになります。
Microsoft Fabricに関する詳細情報に関しては、以下動画をご覧ください。
そして、Healthcare data solutions in Microsoft Fabricは、医療およびライフサイエンス関連の組織向けの複雑なデータソースを統合的に分析が可能な、業界特化型のソリューションになります[7]。
例えば、FHIRやDICOM、医療機器から得られる様々なデータを単一のデータレイクに収集し、ダッシュボードを作成することで統合的な分析をすることが可能です。さらに生成AIと連携することで、専門的な知識を要せず、自然言語を利用してリアルタイムの分析情報を含むレポートを生成可能になります。
これらの機能により、患者の全体像を迅速に把握することができ、今後必要な診療計画の策定をサポートすることが可能です。
一例として、シンガポール最大の病院グループである SingHealth は、冒頭でご紹介したAzure OpenAI Serviceと Microsoft Fabricを連携させることで、人口の高齢化に伴い発生する課題を軽減する取り組みを開始しております。
4.より良い医療サービスを提供するための取り組み
最後に、「より良い医療サービスを提供するための取り組み」について、ご紹介いたします。より良い医療サービスの提供を実現するには、患者の体験の質を向上させるだけでなく、医療サービスを提供する医療従事者側の経験も重要です。昨今米国では、臨床医の53%が業務中に症候群の予兆を感じていると報告されております。
これらの状況を踏まえて、Microsoftのグループ会社である、Nuance社より、9月からDAX Copilotの一般提供が開始されました。DAX Copilotは、生成AIが組み込まれた、臨床文書作成をサポートするソリューションです。医療従事者は声だけで、自分の好みの形式で患者との会話のメモを作成することができます。また、必要に応じてメモを要約することも可能です。
これまで、DAX Copilotのプライベートプレビューを実施しておりましたが、参加した臨床医の84%がドキュメント作成の経験が格段に向上したと感じております。さらに参加した臨床医の68%が、DAX Copilotを使用することで、患者により多くの労力と時間を費やすことができ、患者が適切な治療を受けられるようになったため、より良い患者体験を提供できると考えているとの結果が得られました。
臨床医は、患者のカルテ作成などの事務作業に業務時間の40%以上の時間を費やしてるとのことです。この時間を削減することで、燃え尽き症候群を回避し、より患者と向き合うことができるようになる可能性が高まります。
※DAX Copilotは現在日本語には対応しておりません。
5.Microsoft CloudとAIの信頼性について
Microsoftはお客様にクラウドサービスを提供する上で、責任あるAIの原則を掲げ、お客様のデータの取り扱いに関する公式見解を発表しております。責任のあるAIの原則は、公平性、信頼性と安全性、プライバシーとセキュリティ、包括性という 4 つの基本原則と、それらを支える透明性、アカウンタビリティという 2 つの基本原則で構成されています。
また、Microsoft Cloud は製品のデータセキュリティにおいて、すでに高度なセキュリティ、ネットワークの信頼のもと提供を行っております。そして、AI を実装するうえで必要なファインチューニングやデータ連携においてもお客様のデータは絶対的な存在として、弊社の AI モデルの学習には利用されませんので、安心してご利用いただくことが可能となります。
本ブログでは、以下3つの視点から医療機関における先端技術を活用した海外での取り組みをご紹介いたしました。
- 患者と医療従事者の体験を向上に寄与する取り組み
- 患者と医療従事者がより質の高い洞察を得るための取り組み
- より良い医療サービスを提供するための取り組み
Microsoft Fabricに関しては、本イベントを機に一般提供が開始されております。一足飛びに患者データを扱うことが難しいと想定されますが、まずはデータを使用して私たちの新たな統合データ分析プラットフォームをお試しください。そして、製品やサービスの精度を高めるために皆様からフィードバックを頂けますと幸いです。
6.関連情報