マイクロソフトが取り組むデジタル技術×ヘルスケアの現在地
現在日本では、少子高齢化や社会保障給付金の高騰、医療サービスの地域格差拡大といった、かねてからの不安要素に加えて、新型コロナウイルス対策という緊急の課題に直面し、これまで以上にヘルスケア分野の変革が急務となっています。日本マイクロソフトでは、これまでもAIやクラウドサービスを活用したヘルスケア分野のデジタル化を支援してきましたが、今後はさらに医療業界やパートナー企業との連携を深めて、どこでもだれでも平等に質の高い医療を受けられる社会の実現に向けた動きを加速していきます。この記事では、今まさに進行しているマイクロソフトのヘルスケアの取り組みについてご紹介します。
医薬品のトレーサビリティ可能なプラットフォームの実証実験を実施
医療現場で利用される医薬品や医療機器、医療材料等を確実に利用者まで送り届けるトレーサビリティの向上は、誤配送や偽造薬の流通を防ぐことで医療サービスを受ける人々の安心・安全を守るだけでなく、一連の業務をより円滑にし、製造業者や流通業者、医療従事者の働き方改革や災害時対応にもつながります。
日本マイクロソフトは、一般社団法人医療トレーサビリティ推進協議会に参画し、医薬品、医療機器等の製造から使用、廃棄までの全流通過程をトレースできるプラットフォーム「Seeプラットフォーム」の検討を進めています。協議会として目指しているのは、サプライチェーン領域と患者治療・処方領域をつなぎ、医療資材の流通情報・使用状況を一気通貫で管理することで、「いつ」「どこで」「誰が」「誰に」「なにを」「どうする・どうした」といったデータを、必要に応じて迅速かつ効率的に利用できるプラットフォームです。
(医療トレーサビリティ推進協議会発表資料より抜粋)
「Seeプラットフォーム」の実用化に向けて、2021 年 1 月から 2 月にかけて実証実験が行われました。医薬品を対象に、メーカーから医療機関までの流通と自治体との情報連携を機能別に検証し、その結果、非常にポジティブな成果が得られました (詳細はこちら)。なお、この実証実験では、日本通運様が、医薬品の位置情報や温度情報に関するトレーサビリティ基盤を、富士フィルム富士化学様が医薬品を読み取る APL を、それぞれ Microsoft Azure で構築いただいております。なお、実証実験の結果として、医薬品の仕分け作業時間が約 58% 短縮、精度も向上したという成果が報告されています。また、医療従事者の負荷軽減に関しての実証実験においては、医療機関のカルテの所見情報の構造化検証について Microsoft Azure で機能検証を行い、一度の入力で情報の利活用を可能にする構造化に関する負荷軽減について有効であることが検証できました。
この第一ステップの結果を踏まえつつ、次のステップでは、協議会として、医療現場での受入れ、在庫管理、処方から患者服用といった、患者治療・処方領域におけるトレーサビリティの検証を行い、さらに実装に向けた工程を進めていく予定です。
HoloLens 2 と Azure Kinect DK がつなぐ遠隔診療の未来
人口減少時代において、過疎地域における医療サービスの確保は重要なテーマです。厚生労働省でも、へき地医療計画に基づいて医療体制の整備を進めていますが、特に専門医が求められるような分野においては、都市部との医療格差が顕著になっています。また新型コロナウイルスの流行によって長距離移動が困難な現在、へき地や離島に住む人々はさらに専門的な医療サービスを受けにくい状況にあると言えるでしょう。
そんな医療格差問題を解決する手段として注目されているのが、遠隔診療です。長崎大学では、MR (Mixed Reality: 仮想現実) や 3D 技術を用いた国内初の関節リウマチの遠隔医療システム「NURAS」を開発、2021 年 3 月から実証実験を開始しました。
次世代オンライン遠隔医療システムの開発・提供で、長崎大学、五島中央病院、長崎県、五島市と連携協定を締結 – News Center Japan (microsoft.com)
この「NURAS」の核となっているのが、Microsoft の Azure Kinect DK (深度センサー) と HoloLens 2 (MR デバイス) です。実証実験では、離島の病院に撮影器具を設置し、患者さんの病変部位のホログラム 3D 映像を長崎大学に転送。長崎大学の専門医が HoloLens 2 を通してその映像を見ながら診察を行いました。関節の見え方や皮膚のシワまで正確に表現され、それをさまざまな角度から見られるため、専門医は多くの情報を得ることができます。一方患者さんは、専門医とその場にいる地域のかかりつけ医双方から助言を受けることができます。このシステムが、リアルな診察と同じかそれ以上にきめ細かい医療サービスを実現し得ることを示す結果となりました。
長崎大学では「NURAS」にさらに改良を重ねて普及させることで、へき地や離島に住む患者さんの QOL 向上を目指しています。日本マイクロソフトとしても、①Azure Kinect DK の表情認識システムを使って患者さんの表情を評価し、心情を読み取る ②Microsoft Azure の Custom Vision を使って病変部位の映像から腫脹関節を検出し、MR による診察精度を向上する ③Microsoft Teams の言語認識機能で診察時の会話をテキスト化し、それをカルテ保存することで診察時間を短縮する といったブラッシュアップを行いながら、住む場所にかかわらず高水準の医療サービスを受けられるソリューションをサポートしていきたいと考えています。
Microsoft Azure を用いた会話型 認知症診断支援 AI プログラム
日本における認知症患者数は増加の一途を辿っており、2025 年には高齢者の約 5 人にひとりに達すると言われています。一方、認知症の診断には専門的な知識や経験が必要とされるため、それが早期診断や早期治療を妨げる要因になっています。
日本マイクロソフトと株式会社 FRONTEO 様は、2020 年 10 月から協業し、FRONTEO 様の「会話型 認知症診断支援 AI プログラム」の Microsoft Azure 上での提供に向けた開発に取り組んできました。このプログラムは、FRONTEO 様が培ってきた自然言語処理 AI 技術を用いて、通常の診療場面における医師や医療スタッフと患者との 10 分程度の日常会話から認知症をスクリーニングすることができます。基礎的な検証では、85% 以上の判定精度を誇っており、これにより、潜在的な認知症患者を早期に発見するだけでなく、認知症診断についての専門知識や経験の少ない一般医や、オンラインでの遠隔診療での診断も可能となります。判定結果に基づき専門的な医療機関での治療や適切なサポートとの迅速な連携をはかることで、患者、医療者、さらには介護者の負担を大幅に減らすことにつながります。
このプログラムは、3 月 12 日に医薬品医療機器総合機構 (PMDA) に治験届けを提出、医療機器としての承認取得に向けて、4 月より複数の医療機関で治験を進めています。今後は 2023 年度の上市を目指すとともに、うつ病や統合失調症など認知症以外の精神神経疾患の診断支援にも幅広く応用していく予定です。また FRONTEO 様では、その他のライフサイエンス AI プロダクトや創薬支援 AI、論文探索 AI についても Microsoft Azure でのシステム構築をご検討頂いています。今後も幅広い医療機関・研究機関・製薬企業等での利用を促進してまいります。
Microsoft Teams を活用したオンライン診療の広がり
少子高齢化や過疎化が進むなかで、患者さんが院外から非対面で診察を受けられるオンライン診療は、早くからその必要性を認識されてきましたが、技術面や心理面のハードルがあり、これまでなかなか普及してきませんでした。それが、新型コロナウイルスの流行によって対面診療のリスクが高まったここ 1 年で、急速に普及しつつあります。2021 年秋以降には、現在は特例として初診や電話診療を認めているガイドラインの恒久化を視野に入れた改正も予定されているため、今後さらにオンライン診療の導入は進みそうです。
一方で、通信環境の問題や情報漏洩リスクへの懸念などから、利用にためらいがある患者さんや、導入をためらう医療機関様も少なくありません。そこで日本マイクロソフトは、2021 年 4 月から患者と医師・医療機関それぞれに向けたオンライン診療導入マニュアルに関して無償提供を開始しました。Microsoft Teams を活用したオンライン診療の手順をわかりやすく解説し、導入推進をサポートしています。また、多くの医療機関様に導入されている株式会社インテグリティ・ヘルスケア様のオンライン診療システム「YaDoc Quick」にはMicrosoft Teams が採用されており、診療予約から決済までオールインワンで完結できる利便性と、Microsoft Teams の安定した映像品質が支持頂いています。Microsoft Teams のチャットやビデオ会議機能をコミュニケーションツールとして導入する医療機関も多く、働き方改革の観点でも、日本マイクロソフトは皆さまの支援を続けてまいります。