臨床現場における Microsoft Azure および Mixed Reality 技術の事例と展望
11 月 22 日から 24 日にグランドプリンスホテル新高輪 国際館パミールで開催された「第 80 回日本臨床外科学会総会」でイブニングセミナー「外科臨床と手術支援のデジタル革新最前線: 医療現場で AI (人工知能) が支援できる世界」が開催されました。
臨床現場における Microsoft Azure および Mixed Reality 技術の事例と展望について、Holoeyes 株式会社共同創業者 COO で東京大学先端科学技術研究センター 客員研究員の杉本真樹 医師をお迎えし、日本マイクロソフト株式会社 (以下、マイクロソフト) 医療・製薬営業統括本部 事業開発担当部長 清水教弘とともにお話を伺いました。
「医療現場で AI が支援できる世界」
~日本マイクロソフト 清水教弘
医療分野においてヘルスケア領域向けの製品も多くご提供している弊社から、Microsoft Research の最新の取組内容をご紹介させていただきます。膨大なデータをデジタル化し、活用し、新しい価値を届けるために、マイクロソフトでは AI、MR (Mixed Reality: 複合現実)、セキュリティという 3 つの領域に力を入れています。
AI 研究に関しては、主に障碍者の方にテクノロジーで新しい価値を提供する「AI for Accessibility」と、画像 × AI、翻訳 × AI など、臨床やトレーニングの現場でテクノロジーの貢献をグローバルに研究している「Healthcare NExT」があり、本日は Healthcare NExT の「InnerEye」という画像診断支援についてご紹介します。
医療画像の識別は非常に AI との親和性が高く、マーケティングデータでは、約 96% の正答率。人間の誤認率が約 5% に対して Microsoft AI では約 3% と誤認率が低いというデータもあります。画像描写においては、ボリューム レンダリング技術を用いて、2 次元のデータを 3 次元に処理することで、トレーニングや情報共有時に利用できます。画像判別は、過去の症例をデータ化し、判定させ、結果をフィードバック、つまり機械学習させることによって、腫瘍の判別支援が可能です。また、この 2 つの技術を併用すると画像から腫瘍部分を立体的に取り出すことができ、医療従事者の間でのコミュニケーションの活性化や病理確認が容易になります。
さらに、MR (現実空間の形状にデジタル映像を立体的にぴったり重ね合わせる技術) でトレーニングするなど、臨床の前の段階で使えるのではないかと研究をしている段階です。
医療の現場も徐々に AI による支援が広がってきていますが、実際に患者の画像データなどを扱う際には、ガイドラインやコンプライアンスがあります。Microsoft Azure では、安心・安全を大前提として、世界規模でセキュリティ対策を施しているのに加えて、医療・医薬品産業における各種規制、法律を順守。各国のプライバシーポリシーや個人情報保護法に準拠したサービスを提供しています。
「Radiomics と Virtual reality による Precision surgery」
~東京大学先端科学技術研究センター 杉本真樹医師
例えば、オペ時に空中に肝臓が立体化されていて、回り込んだり、動かせたりできれば、こんなに分かりやすいことはないのではないでしょうか。
空間認識を実現するためには、患者の CT を PolygonMesh という線と点の座標の数値データに書き換え、HoloLens をかぶることによって、3 次元の物体として捉えることができます。医療機器ではありませんが、すでに、複数の施設で、倫理委員会の承認や、医師の裁量のもとに、臨床研究として多数の事例があります。
同じように、VR (Virtual Reality: 仮想現実) で立体化した患部に線や文字をマーキングして復習や精度評価することや、ベテラン医師が切除ラインを描く際のコントローラーの動きを立体空間の座標データとして記録し、後から別の医師が過去の医師の動きを仮想空間で立体的にトレースすることも可能です。カンファレンスの際にゴーグルをかぶって術式の体験をしたり、トレースや自己の記録用とするなど、臨床だけでなく、トレーニングの現場でも利用されています。
今後ますます重要となる、個々の患者の遺伝子情報、環境因子、生活因子を考慮した治療を施す Precision Medicine には、医用画像や検査データなどの個々の情報を数値化して解析・分析する Radiomics も大事な因子の一つだと考えています。患者個別のデータにもとづき精密な計画を立てて手術を行うことが重要ではないでしょうか。
セミナー終了後、司会の日本マイクロソフト 業務執行役員 医療・製薬営業統括本部長の大山訓弘を加えて、あらためて杉本医師にお話を伺いました。
― 最初に、杉本医師が感じている現在の医療における課題点を教えてください。
杉本医師: 研究レベルで行なわれていることと、実際の現場ですぐに使える内容に大きなギャップがあることには課題を感じています。その一つが医療機器承認です。素晴らしい研究テーマがあっても、承認が取れていないと使えない、あるいは、非常にコストがかかります。患者の CT 画像という素晴らしいデータを持っていて、せっかく良い技術があるのに患者の手術や教育に活用されてない。そこで市販の機器を使って現場の課題 (ニーズ) を解決するために起業しました。より患者さんに製品やサービスを届けやすくなると思っています。
― 市販の機器を使ってというお話もありましたが、マイクロソフトさんとしては、ヘルスケア業界にどのように関わっていきたいと考えていらっしゃいますか?
清水: 倫理委員会を通らないといけないなどの問題点はありますが、画像診断に AI (人工知能) を一次スクリーニングとして検視に使うことによって、医師が患者に向き会う時間を確保できるかもしれません。
今まで、2 次元で判断をして、誤認識の懸念があったところを機械がサポートできれば医療の質が向上するのはないかと思っています。
また、距離や場所、時間などの制約をテクノロジーで超えられるようになるでしょう。医療過疎地の課題も今後解決できると考えています。大山: 医療の質が属人化しないために、医療全体のレベルアップにも IT が貢献できるのではないかと考えています。高価で特別な技術を持った人だけが使える世界は目指していません。医療画像の解析も、高価な機器を使えばすでに実現できるかもしれませんが、一般的なソフトウェアを使って解析できれば、誰でも補助的なツールとして身近に使える世界になり、コスト的にもブレイクスルーが起きます。いわば、テクノロジーの民主化です。
― 医師でありながら、新しい技術を積極的に体験し知見を深めている杉本医師だからできると思われるのでは?
杉本医師: ポリゴン ファイルを作るのがなかなかやれないという人もいますが、情報は WEB にも公開していますので、自分で学びながらできるようになります。医療は暗黙知が多いですが、そのままでは伝承ができません。VR/AR/MR や AI の技術を活用し、医師の行動や体験を暗黙知から形式知に変えて、未来を予測できれば、医療のレベルアップもできると思います。マイクロソフトさんのような企業が医療現場に参入するためのパイプ役をやりたいと思っています。
― すでに、HoloLens や AI を現場に導入している国内の医療機関は 50 以上といわれ、決して未来の話ではなく、すでに身近になりつつあるようです。
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