アジャイルの力で「食」と「農」と「くらし」をより楽しく。“JA グループの出島” アグベンチャーラボの挑戦
一般社団法人 AgVenture Lab (以下アグベンチャーラボ) は、JA グループのイノベーション ラボとして 2019 年に設立。「次世代に残る農業を育て、地域のくらしに寄り添い、場所や人をつなぐ。」をビジョンに掲げ、JA グループと外部のスタートアップ企業等との協業や共創の拠点としてさまざまな取り組みを展開しています。本稿では、アグベンチャーラボが Microsoft Azure の基盤を使い、アジャイル手法を用いて開発しているアプリ「エプロンシェア」にまつわるエピソードや、そこに通底する JA グループの理念について、エプロンシェア開発チームの皆さまに話をお聞きしました。
一般社団法人 AgVenture Lab Vice President
齊藤 仁 氏
一般社団法人 AgVenture Lab Digital Strategist
松浦 健太 氏
一般社団法人 AgVenture Lab Senior Digital Strategist
島田 憲明 氏
■農業、食、暮らしの社会課題を解決するためのラボ
-アグベンチャーラボについてお聞かせください。
齊藤: アグベンチャーラボを運営している JA グループは、農産物の物流・流通から信用事業、共済事業などを展開し、農業者のみならず、皆さまの暮らしにとってなくてはならないサービスを提供しています。アグベンチャーラボは、JA グループと農業者、スタートアップ企業、パートナー企業といったさまざまなステークホルダーをつないで、イノベーションを起こすための仕掛けを行うラボとして設立されました。
アグベンチャーラボは、JA グループから少し離れた立ち位置で、失敗を恐れずに新しい取り組みにチャレンジし、その成果を JA グループに還元する、いわば「JA グループの出島」としての役割を担っています。
また、今回のテーマであるアプリ開発事業だけを見るとシステム開発会社と思われるかもしれませんが、スタートアップ支援や、行政・大学と連携したイベント開催などのさまざまな事業を通して、農業、食、暮らしの社会課題を解決するための取り組みを行っている組織です。
■アプリ開発でJAグループのファンづくりとエンジニアのスキルアップを目指す
-モバイルアプリ「エプロンシェア」のコンセプトをお聞かせください。
齊藤: エプロンシェアは、2021 年 11 月中旬に本格リリースされた、旬のレシピをシェアして、家族や大切な人と食事をきっかけとしたコミュニケーションを楽しめるモバイル アプリです。おいしくて安心して食べられるレシピを検索して、そのレシピをルーム内でシェアしたり投票したりできる仕掛けが設けられています。
参考:「エプロンシェア」ダウンロード URL はこちら
参考:「エプロンシェア」紹介動画はこちら
エプロンシェア開発の背景にはふたつの意図があります。ひとつは「JA グループのファンづくり」。世の中の JA グループに対するイメージというと、特に一般の方からは遠い存在に思われがちです。一方で私たちは、農業や食に携わっている以上は消費者にとっても近い存在でいたいという思いを持っています。そこで、このアプリを通してより JA グループのことを皆さまに理解していただき、JA グループのファンになっていただけることを期待しています。
もうひとつ、JA グループ内のエンジニアは、どちらかというと業務システムの開発といった内部向けの業務がメインで、お客さまに直接触っていただくサービスを開発するチャンスがあまりありません。ですから、自分たちの手でお客さまに直接届けられるようなサービスをつくり上げ、その経験をグループ内に還元したいという思いも込められています。実際にエプロンシェアの開発は、JA グループの農林中央金庫のシステム子会社である農中情報システムからアグベンチャーラボにて外勤しているエンジニアのチームが担当しています。
-島田さんと松浦さんがそのエンジニアチームの一員ということですね。
島田: 私たちが所属している農中情報システムでは、エンジニアのキャリアとして、管理職になるだけではなく、エンジニアとして価値を高めていけるように人を育てる方針を立てています。また IT は日進月歩ですから、今動いているシステムが 30 年後も同じように動いているかわかりません。常々、新しい技術を取り入れなければ、という危機感も感じていました。
そのような視点から見ると、私たちが普段システムを担っている農林中央金庫は金融機関ですから、安全にシステムを稼働できることが第 1 要件です。つまり必然的にシステム担当者は、安定したレガシー システムを使う機会しか得られないというジレンマが生じてしまうのです。ですから、自由度の高い環境で新しい技術や開発手法に挑戦して、磨いたスキルを自社に持ち帰ろうということで、選抜されたメンバーがアグベンチャーラボに移ってきた形になります。
■アジャイル開発と親和性の高い日本マイクロソフトのクラウドサービス
-エプロンシェアの開発にはアジャイル手法を採用されているとお聞きしました。
松浦: はい。アジャイル開発は、開発期間を短いスパンで区切って繰り返し開発と検証を行いながらプロダクトをつくり上げていく開発手法です。今回のアプリ開発では、2 週間ごとに成果物をレビューして品質を検証するというサイクルを、リリースに向けて 1 年間繰り返しました。
私はスクラム マスターという役割を与えられたのですが、前述のとおり私たち農中情報システムのチームは、レガシー システムの経験はあってもゼロからプログラム開発を行なう経験がなく、最初は試行錯誤がありました。ですが次回レビューまでの開発範囲を狭くして目標を明確にするなど、チーム内で工夫を重ねることで軌道に乗せることができました。
-アジャイル開発を経験して、どのような部分が利点だと感じましたか?
松浦: 既存の開発手法だと、最初に挙がったタスクをすべてやり切ってからリリースするので途中で後戻りするのは難しいのですが、アジャイル開発は短いスパンで区切って開発を進めるので軌道修正しやすく、途中で不要だとわかった機能は切り捨てるといった効率的な開発ができるのは大きな利点だと感じています。
齊藤: 象徴的なエピソードとして、当初はデザイナーを立てずに開発を進めていたのですが、試用版のユーザーから操作の動線がわかりにくいといった声が寄せられたこともあり、UI、UX はきちんとデザイナーに加わってもらって設計し直そう、という方針の変化がありました。このような急な変化に対応できる柔軟性はアジャイル開発のよさだと思います。2021 年 11 月に本格リリースした最新版では、より使いやすいアプリになっていると思いますよ。
もう 1 つ私が感じたのは、Microsoft Azure とアジャイル開発との親和性の高さです。アジャイル開発は、少しずつ機能を公開して、ユーザーに使ってもらいながら開発を進めていく形になるので、どれくらいの規模でシステムが使われていくか予測しにくい部分があります。 Microsoft Azure の基盤を使うことで、様子を見ながら基盤のサイズを変えられるのは、とても大きなメリットでした。
松浦: それから、開発期間がコロナ禍に重なり、開発のほとんどをリモートで行なったのも大きな経験になりました。これまでは仕事は会社に集まって行うものという思い込みがあったのですが、クラウド サービスである Azure DevOps を開発環境としていたことで、リモート環境でもタスクやバックログの管理に全く苦労することなく、アジャイル開発を進めることができました。メンバーとのコミュニケーションも Microsoft Teams で全く不自由を感じませんでしたね。個人的には出社するよりも作業しやすかったです。
■みんなで食べる食事の楽しさを再認識してもらいたい
-11 月に本格リリースされるエプロンシェアで、ユーザーにどのような体験を届けたいと思っていますか?
齊藤: 食事は毎日のことなので、それが楽しいかどうかで日々の生活は大きく変わると思うんです。リモート ワークが普及して家にいる時間も増えましたし、もしかしたら食事を面倒に感じる方が増えてしまっているかもしれません。このアプリを通じて、家族や大切な人とコミュニケーションを取りながら食べる食事って楽しいんだな、と改めて気づいていただけたら嬉しいです。
そのうえで、アプリで紹介されているレシピが JA グループのもので、「JA グループってこういうこともやっているんだな」と気づいた方が JA のファンになっていただければ、とてもありがたいと思います。
エプロンシェアの開発プロジェクトは、ようやくユーザーの元に届けられるところまでたどり着いた段階です。今後は、より幅広いユーザーに利用していただき、皆さまのフィードバックをお聞きして、それを反映してアプリをアップデートしていくというサイクルの構築に取り組んでいきたいと思います。そしてそれを繰り返すことでアジャイル開発のノウハウやスキルを貯め、別のアプリ開発や業務の改善につなげていきたいと考えています。
プレスリリース:
iOS 版のリリース ページへ遷移”>JA グループの AgVenture Lab 開発モバイルアプリ <エプロンシェア> iOS 版のリリース