既存の ICT 基盤を有効に活用した、渋谷区子ども発達相談センターのオンライン相談システム
知的障がい児、肢体不自由児その他心身の発達に問題を抱え、特別な支援を必要とする児童の福祉の向上を図るために、2008 年に渋谷区が開設した子ども発達相談センターでは、長引く新型コロナウイルス対応と相談対応の利便性を考え、2020 年 12 月から、コミュニケーションツール「Microsoft Teams」を利用したオンライン相談システムを導入。自治体、行政組織におけるオンラインツール活用事例として注目を集めています。渋谷区子ども発達相談センター所長の花田和子氏と、渋谷区 ICT 政策推進主査の小松慎吾氏に導入の経緯や効果についてお話を伺いました。
安心して子育てができるよう相談対応する渋谷区子ども発達相談センター
渋谷区の推進する ICT 化事業が、コロナ禍において有効に機能
職員の熱意との相乗効果が生まれ、これまでにない効果をもたらす
ICT 基盤をさらに使いこなし、よりよい行政サービスにつなげたい
インタビューを受けて、日本マイクロソフト担当者より
安心して子育てができるよう相談対応する渋谷区子ども発達相談センター
――渋谷区子ども発達相談センターの概要についてお聞かせください。
花田氏 渋谷区では、「子育てネウボラ」という名称で、妊娠期から 18 歳になるまでのお子さまとそのご家族への切れ目ない支援を推進しています。「ネウボラ」というのはフィンランド語で「アドバイスの場」という意味で、私たち渋谷区子ども発達相談センターは子育てネウボラが提供する支援のうち、お子さまの発達について保護者の方々の不安や悩みなどの相談に応じつつ、一人ひとりのお子さま、一つひとつのご家庭に合わせた支援を担っています。
――渋谷区が子育て支援に力を入れる背景についてお聞かせください。
花田氏 核家族化や共働き家庭が増えるなかで、どこに相談すればいいのかわからないという保護者の方が多くいらっしゃいます。そんな方々が不安や悩みを抱え込まずに、いつでも気軽に相談できる場所として、子育てネウボラをご利用いただいています。また、これまでの行政支援は窓口が細かすぎて、相談すべき窓口がわかりにくいところがありました。子育てネウボラは、ひとつの窓口からご相談内容に応じて適切な機関をご紹介する形をとっていますので、より便利にご利用いただけます。それから、インターネットに情報が溢れているこの時代において、さまざまな情報にまどわされず、どの情報が今のお子さまの状況に即しているかお伝えすることも、私たちの重要な役割です。
――渋谷区子ども発達相談センターにはどのような方が相談に訪れるのですか?
花田氏 お子さまの成長段階における運動機能、言葉、園やご家庭での生活など、気になることについて情報を聞きたいという方から相談をいただいています。2019 年度の来所相談件数は延べ 2,776 件でした。また、来所をお待ちするだけではなくて、保育園や幼稚園への巡回訪問や地域の子育て支援センターへの出張相談、家庭訪問も行っており、訪問先の先生方や関係者の皆さまとも相談しながら、よりよい方法を話し合い、対応しています。
渋谷区子ども発達相談センター所長 花田 和子 氏
渋谷区の推進する ICT 化事業が、コロナ禍において有効に機能
――そんななか、オンライン相談を導入された経緯についてお聞かせください。
花田氏 2020 年度に入ってから、庁内での会議や書類のやりとりで頻繁に Microsoft Teams を利用するようになり、とても便利なツールだと感じていました。いま子育てをされている方々は、スマートフォンや PC を日常的に活用されている世代が中心ですし、多様化するライフスタイルや価値観に合わせて、このようなツールも活用した工夫が必要なのではないかと考えていたところ、新型コロナウイルスの感染が拡大し、区民の皆さまの来所が困難になって、オンライン需要が増大したことが拍車をかけた形です。
小松氏 ICT 戦略課から補足させていただきますと、渋谷区では、2016 年から開始した区政運営改革の一環としてデジタルワークスタイル改革を推進しており、2019 年 1 月の区庁舎移転に伴って、ICT 基盤を刷新しました。今では、全職員が Microsoft365 や Microsoft Teams の全機能を利用できるようになっています (渋谷区のデジタルワークスタイル改革についてはの記事参照)。今回子ども発達相談センターからオンライン相談に関する相談を受けたときには、準備していた ICT 基盤を有効に活用してもらえることをとても嬉しく思いました。
花田氏 当センターの職員も、日頃から Microsoft Teams のチャットツールでコミュニケーションを取ったりファイルを共有したりといった作業に慣れていたので、スムーズに導入できたと感じています。ICT 戦略課には、操作は難しくないか、申し込みはどのように受け付ければよいか、繊細な情報が多いので、セキュリティに問題はないのかといった相談をしました。また、電話だと相談者からメールアドレスをお聞きする際にスペルを正確に聞き取ることが難しいため、どうすれば正確にアドレスを取得できるかについて、経営企画課に相談しました。解決手段として、渋谷区の LINE 公式アカウントからお申し込みいただく方法を提案していただきました。
小松氏 渋谷区 LINE 公式アカウントでは、現在、住民票などの書類申請や保育所の入院申請、飼い犬に関する申請などを受け付けています。今後、区民の皆さまにご利用いただける申請をさらに充実させる予定です。
渋谷区 ICT 政策推進主査 小松 慎吾 氏
職員の熱意との相乗効果が生まれ、これまでにない効果をもたらす
――導入に際して大変に感じたことはありませんでしたか? 職員の皆さんの反応はいかがでしたか?
花田氏 Microsoft Teams は操作も簡単ですし、大変というよりは、みんなでわいわいと意見を出し合いながら導入を進められて、楽しかったです。導入の手順としては、まず私が参加している Microsoft Teams を使った会議の様子を職員に見学してもらってイメージを持ってもらいました。「簡単にできそう」という印象が多かったようで、それなら進めようと、操作マニュアルを用意して共有し、PC や Microsoft Teams に慣れていない職員にも研修を通して理解を深めてもらいました。日頃から「どうすればもっといい支援ができるだろう」と考える職員たちなので、積極的に「どうすればオンライン相談を実現できるだろう」と知恵を絞ってくれました。
小松氏 その言葉を聞いて、ICT 改革を進めてきてよかったと思いますね。職員の皆さんのやる気に応えられる基盤を用意できたことが嬉しいです。渋谷区全体で見ても、オンラインイベントの開催事例はかなりありますが、Microsoft Teams を利用したオンライン相談は他の部署に先駆けた事例ですので、ぜひ庁内に広めていきたいと思います。
――導入した効果はどれくらい実感されていますか?
花田氏 2020 年の 12 月に開始したばかりなので、まだ周知も行き届いておらず、全体の件数としてはそこまで多くはないのですが、開始したとたんに複数件の申し込みがあったことに驚きました。開始するまでは、顔を見せながら話すことに抵抗がある方も多いのではないかと危惧していたのですが、これまで開庁時間内しか申し込めなかった方が、夜間にも LINE 申請で申し込めるようになったり、操作に慣れているスマートフォンで申請できたりといった利便性に、思っていた以上のニーズがあったということなのだと思います。コロナ禍でリモートコミュニケーションに慣れた方が増えていたことも理由のひとつかもしれません。
――職員の皆さんや、利用者の皆さんからのリアクションはいかがですか?
花田氏 職員からは、「顔を見せ合うことで話が深まる」「複数人数でも対応できるから効果的」「ご家族皆さんの顔が見えるのもいい」といった意見が上がっています。私たちは保護者からのお話だけではなく、近くで遊んでいるお子さまの様子も問題解決の参考とさせていただくことが多いので、画面越しにでもお子さまの様子が伺える Microsoft Teams はとても重宝しています。うまく相談をお受けできた同僚から話を聞いて、「私もがんばろう」と気合いを入れる職員の様子を見ていても、導入してよかったと思っています。
ご利用いただいた皆さまからは、電話ではできない個別具体的な経過などをお話しいただけています。顔を見せ合うことで相手の表情がよくわかり、それが信頼関係につながっているのではないでしょうか。行政が運営していることで、セキュリティ面においても安心いただけているようです。
ICT 基盤をさらに使いこなし、よりよい行政サービスにつなげたい
――コロナ禍において、職員の皆さまの働き方はどのように変わりましたか?
小松氏 前述のとおり、渋谷区ではコロナ禍以前よりデジタルワークスタイル改革を進めています。バックオフィスの職員はリモートワークを多く活用してもらっていますし、私の所属する ICT 戦略課では半数以上がリモートワークで勤務する日も珍しくありません。
花田氏 当センターでも、4 月~5 月の緊急事態宣言時は職員の数を減らして、相談は電話で対応していました。その後もリモートワークや時差出勤が進んでいますが、相談窓口という業務の特性上、どうしても出勤する人員は必要になってしまいますから、安全対策には十分注意しながら勤務しています。一方、会議はほとんどオンラインになりました。おかげで移動の時間や会議室の設営といった手間がなくなりましたね。それから、出勤シフトが異なる職員に対してもチャットツールで周知事項を簡単に共有できるなど、ICT 基盤を効果的に使うことで、余裕を持って働くことができるようになっていると感じています。私自身、空いた時間をもっと有効に使おうと努めているところです。
――いま感じている課題や今後に向けた改善策などがあればお聞かせください。
花田氏 オンライン相談に関しては、今後は、電話相談を受けた段階でそのままオンラインに切り替えて相談対応していく、グループ活動などをオンラインで実施するといった活用方法を考えています。また、これは利用者側の機器の問題にもなるのだと思いますが、ご家族でご参加いただいたり、お子さまの様子を見せていただいたりすることを想定して、カメラの調整や音声の調整がもっとスムーズにできるようになるといいな、と思っています。
小松氏 ICT 基盤のさらなる活用ですね。整った基盤をまだまだ使い倒すという段階までは到達していないと感じています。利便性の向上や利用方法の普及によって、職員の皆さんが今以上に ICT 基盤を使いこなせる環境を整えることで、区民の皆さまへのさらなるサービス向上につなげていきたいと思います。
花田氏 今後も区民の皆さまが安心して子育てができるように、幅広い方に信頼され、気軽に相談していただける体制を整えていきたいと思っています。今回のオンライン相談のような、テクノロジーも活用した相談環境の整備を進めるとともに、職員の質の向上を図り、適切な情報の提供と丁寧な相談対応をしながら、よりよい支援を続けていきたいと考えています。
インタビューを受けて、日本マイクロソフト担当者より
日本マイクロソフト株式会社 M365 事業本部 製品マーケティング部 部長 岡 寛美
渋谷区という同じ機関のなかでも、職種の異なる方々がスムーズに情報を共有できて、同じベクトルで新しいサービスを提供されている様子を伺い、テクノロジー企業として、少しでも多くの支援をさせていただければと感じました。また、子育てをしているひとりの親としても、熱意を持って子育て支援に取り組まれている皆さまの思いに感動しました。これからも、コロナ禍の大変な状況のなかで奮闘されている職員の皆さまの、よりよい働き方の実現をお手伝いしていきたいと思います。
日本マイクロソフト株式会社 パブリックセクター事業本部部 デジタルガバメント統括本部 時任正史
エッセンシャルワークである行政サービスは、今後もその重要性は変わらないと思いますが、コロナ禍を経て、利用される皆さまとの触れ合い方が変わってくるのではないかと思っています。その新しい触れ合い方を、どうやって推進していけばいいのか悩んでいる自治体の方々も多いのではないでしょうか。渋谷区子ども発達相談センターさまのオンライン相談をはじめとする渋谷区の皆さまの取り組みがひとつの指針となって、自治体、行政機関の皆さまが一歩前に進むお手伝いにつながることを願っています。