ビジネス変革の“タネ”は社内にあり。新たな価値を生み出す SMBC グループの自律人材育成アカデミー
株式会社三井住友フィナンシャルグループ(以下 SMBC グループ)とマイクロソフト コーポレーション(以下マイクロソフト)は、2022 年 3 月にクラウド分野における戦略的提携を締結しました。
SMBC グループは Microsoft Azure(以下 Azure)をクラウドプラットフォームとして、そのサービスを活用して自社の DX を推進するほかに、マイクロソフトの知見やノウハウを活用して、従業員のデジタルスキル向上を図っていきます。その一環として実現したのが Microsoft Specialist Academy(以下 MS Academy)です。
本稿では、MS Academy を立ち上げに関わったSMBCグループの中核システム会社である株式会社日本総合研究所(以下 JRI)の秋吉氏と日本マイクロソフトの金子、大原による対談と、受講した若手エンジニアの皆さんのインタビューを通して、MS Academy の意義と会社に変革を起こすために必要な人材育成について考察していきます。
株式会社日本総合研究所
ネットワーク・クラウド基盤システム本部 CCoE グループ 次長
秋吉 郁郎 氏
グローバル市場システム本部 金利・デリバティブシステム部
浅賀 洋人 氏
ネットワーク・クラウド基盤システム本部 クラウド基盤システム部
山銅 康弘 氏
ネットワーク・クラウド基盤システム本部 クラウド基盤システム部
廣川 奏絵 氏
ネットワーク・クラウド基盤システム本部 クラウド基盤システム部
加古 晴也 氏
日本マイクロソフト株式会社
金融サービス事業本部 銀行・証券営業本部 本部長
金子 暁
インダストリーソリューションデリバリー事業本部 エンタープライズソリューションデリバリー統括本部 アーキテクト
大原 誠
自ら考え、物事を前に進められる自律人材を育成する MS Academy
秋吉 SMBC グループは 2022 年 3 月に日本マイクロソフトとの戦略的パートナーシップの合意を発表しました。この合意に基づき、両者は Azure をはじめとしたマイクロソフトのクラウドサービスを活用して、一般のお客さまと従業員に対して新しい価値を提供し、グローバルなビジネスの展開を目指します。さらにこのパートナーシップでは、SMBC グループ従業員の人材育成にも取り組んでいきます。
私たちにとっての人材育成とは、多くの従業員が技術力だけではなく企画力や提案力を兼ね備えることが必要だと考えています。この企画力といった点では、この MS Academy の実現がその見本となる企画でした。日本マイクロソフトのコンサルタントチームと共に、このプログラムを通して、受講生が抱えるスキルアップの目的や自身の課題に気付き、さらに具体化できるテーマはどんなものか、楽しみながら取り組み続けることができるカリキュラムはどういったものか、検討を重ね育成プログラムの企画を行ったものです。この内容について全体ガバナンスを担う SMFG IT 企画部や当社関係部署、日本マイクロソフト関係者へ提案し、協議の結果誕生したのが MS Academy です。
金子 マイクロソフトはテクノロジーをお客さまにお届けする会社であり、DX そのものは、お客さまのビジネスの変革に向けた取り組みであるべきだと理解しています。また DX とは、クラウドを使うことや単純に IT 化することではなく本質的にビジネスを変革することであり、お客さまにマイクロソフトのテクノロジーを使ってビジネスを変革していただくためのお手伝いをするのが、私たちの立場です。
SMBC グループの経営層の方々からは、つねづねデジタル人材の育成を課題に感じているとお伺いしていました。この MS Academy でその課題を一緒に解決していければと考えています。
秋吉 実はこの MS Academy のプログラムを構築するにあたり、最初はもう少し技術寄りの、Azure の資格などを勉強する会はどうでしょうか、というところからスタートしたんです。しかし金子さんがおっしゃるように、DX 人材の育成においては、自ら企画を行い、実現のための技術を選定し使いこなすことで、その企画の実現ができる人材を育てることが大切だと考えていました。例えば、資格を取得したとしても、実践する機会に恵まれなければ、いわばペーパードライバーのような人材になってしまうことも考えられます。MS Academy は、まずは企画のために課題を特定して細分化し、どのように解決すればよいのかを考えられるようになること。そして “クラウドのさまざまなサービスを自身で学び、企画に適したサービスを選定し、自ら取り組むことができる力”を養うカリキュラムが中心となっています。
大原 ビジネスの現場で課題解決をリードできる自律人材の輩出をゴールに、マイクロソフトがこれまでさまざまなお客様にご提供してきた人材育成カリキュラムを再設計し、ご提供しています。自ら課題を発見・定義し、テクノロジーを使いこなして解決に導く、そういった人材がたくさん揃う企業が持続的に成長できるはず、という思いを込めています。
MS Academy は、前半の企画のフェーズと後半の実現・実装のフェーズに分かれた 3 か月間のカリキュラムとなっています。企画フェーズでは、まずデザインシンキングやロジカルシンキングといった思考法や企画立案について学んでいただいたうえで、3~4 名のチームを組み、実際にゼロから企画を立案・プレゼンしていただきます。後半の実現・実装フェーズでは、Azure のサービスを駆使して企画を実装し、成果をプレゼンしていただくという流れになります。もちろんカリキュラムのなかには基本的な Azure の概要や主なマネージドサービスを学んでいただく機会を設けています。今回、全 8 チーム、26 名の方に参加いただいており、特に優秀な 3 チームには、2023 年 2 月に最終成果発表会への参加と表彰を予定しています。
MS Academy 受講生に聞く、ここで得られたこととこれからの課題
Q、MS Academy に参加してみていかがでしたか?
浅賀 私は入社当初、資本に関わらず大きな仕事ができる点に IT の魅力を感じていました。ただ入社後 3 年経って、業務のなかでアイデアをどのように着想して形にするかという部分は培いきれずにきてしまったという反省がありました。MS Academy ではそこに向き合えていると感じています。
山銅 参加する前は技術力に自信がなく、ついていけるか不安だったのですが、実際は実装より企画や同じ期の人たちと力を合わせることが重視された内容で、そういった意味では自分も貢献できるところがあったのではないかと思います。エンジニアとして技術力はもちろん必要ですが、普段の業務でも自分ひとりで完結する仕事はほとんどありませんから、大きな学びになりました。
廣川 たしかに実際の業務だと、企画だけ、実装だけといった形で部分的な知識しか得られないことが多いですよね。一連の流れで皆さんと協力しながらできるいい機会だったと思います。
加古 予想外だったのは、他の研修だと一連のマニュアル通りにフローを経験するようなものが多いのですが、MS Academy はとても自由度が高かったことです。どんなクラウドサービスを使ってもいいから、自分たちの立てた企画に必要なものを選んで組み立てていくというカリキュラムには、いい意味で驚かされました。
廣川 ただ自由度が高すぎて、アイデア出しのときに方向性を定めるまで少し戸惑いはありましたね。今回は業務に関する企画に決まったのですが、アイデアのひとつだった、私の趣味であるサウナの情報プラットフォームをつくる企画にも、個人的に取り組んでみたいと思っています。
浅賀 私は機械学習に興味があるので、ここで学んだことを生かして機械学習の API など皆さんに自由に使ってもらえるようなものをつくってみたいです。
Q、MS Academy ではどんなことが身につきましたか?
山銅 今回教わったグロース・マインドセットのポイントのひとつに失敗を恐れないマインドがあり、それは大いに普段の業務でも役立つと感じています。今回立てた企画も、アイデア出しの段階ではちょっとした業務改善施策レベルのものを考えていたのですが、グロース・マインドセットに基づいて、実現できないかもしれないけれど、もっと大きなサービスにしてみよう、という方向で練り直しました。
加古 チャレンジ精神が身についたと思っています。金融関連のシステムはミスが許されない部分が多いのでどうしても保守的になりがちです。MS Academy で、チャレンジの結果失敗したとしてもチャレンジしなかった場合より得るものは多いということを学びました。業務の中でも、もともとあるやり方に対して別の方法を提案していくことにチャレンジしてみたいと思っています。
廣川 参加以前は自分の目線でしかものごとを考えていなかったことに気づきました。さまざまなステイクホルダーの関係性も考えながら、自分はこういった課題を感じているけれど、別の立場の人にとってはどんな課題なのか、周りの視点を踏まえてよりよい解決方法を考えられるようになったと思います。
浅賀 視野が広がるという点では、私は普段はオンプレミスでシステム開発をしているのですが、それだけだと使える技術や知識が固定化してしまいます。全く異なるアーキテクチャがベースになる Azure を学ぶことで、新しい知見を得ることができています。
Q、結果発表会についての意気込みは?
山銅 企画を完成させるのは前提として、ビジネスとしてマネタイズの部分まで考える必要があると思っています。単純に実装のクオリティを上げるだけではなく、その後を見据えたプレゼンにしていきたいですね。
加古 IT の世界というのは、からくりを知らなければ魔法のようなものだと思っています。私たちのグループでは、中高生がワクワクしてくれるような面白みのあるものをつくろうとしています。
廣川 上司と部下がテーマの企画なのですが、審査員である上席の皆さんの痒いところに手が届くようなものになると思います。最優秀賞を目指します。
浅賀 発表会で「それ面白いね、予算取るから事業化しちゃいなよ」と言っていただけることが本当の価値でありゴールだと思っています。そこを目指したいですね。
Q、もう少し学んでみたかったことや今後やってみたいことはありますか?
浅賀 MS Academy は自分で考えて行動することがひとつのテーマなのですが、自分の知識の範囲内や少し飛び出たところからの発想になってしまいがちなので、さらに自分の領域を広げられるようなことも学んでみたかったです。
山銅 最終的に発表して人に見ていただくものを目指しているので、見えるところばかり気にしがちですが、その裏で動いているセキュリティに関して今回は手が届いていないので、機会があれば学んでみたいです。
加古 企画という意味では、自社の既存サービスを PaaS や SaaS で置き換えるとどこまでコストが抑えられるのか、そのためにはどんな課題があるのかというところを探ってみたいと感じました。
山銅 たしかに、MS Academy では課題を見つけることがテーマなのでそこに時間をかけられますが、日々の業務ではなかなか時間が取れません。普段から意識して課題考察に割く時間を設ける必要があると感じています。
浅賀 金融というビジネスの枠を外れるような提案ができないかとも思っています。現状だと、SMBC グループ内では金融ビジネスに関して詳しい銀行側が企画せざるを得ない構図があります。そこに私たちのアイデアを加えて、JRI 発の全く新しい企画を実現してみたいですね。
廣川 社内でも、普段の企画業務は次長や部長クラスとユーザーである銀行との間で完結することが多いので、担当者レベルが課題に向き合う能力を持てれば、異なる視点からの意見を集めて企画力を高められるかもしれません。私自身、そのハブになれる能力を身につけていきたいと思います。
MS Academy をひとつのスイッチとして、社内のタネを花咲かせる
大原 今回、26 名の受講生に参加していただいているわけですが、私が想定していた以上に高いモチベーションとポテンシャルをお持ちの方ばかりで、大変驚いています。この 26 名の方々が中心となって SMBC グループの変革を進めていただけると信じていますし、MS Academy 終了後も、マイクロソフトは全力で変革をご支援していきたいと思います。
秋吉 受講生はさまざまな部署から集まっています。これまで彼らは要件に基づいて自分たちの業務範囲内でプロジェクトに関わってはきましたが、MS Academy を通して SMBC グループ全体に対する課題感やチャレンジする気持ちが芽生えたのではないかと感じています。今から成果発表会が楽しみですね。マイクロソフトが提唱されているグロース・マインドセットに代表されるような企画力ややり抜く力も評価の要素に入ってくると思うので、その部分がどれくらい身についているのか。とても期待しています。
金子 普段の業務の範囲を外れた視点からどんな提案が飛び出すのか楽しみですよね。修了後は受講生の方が SMBC グループのなかでエバンジェリストのような役割を担っていただけると嬉しいです。MS Academy に参加した意義があったと思っていただけるとよいのですが。
秋吉 一方でこれからさらに求められるものは、企画力や提案力とそれを支える思考方法の部分ですね。例えばこの MS Academy の提案過程を振り返ると、それらの力がなければ「Azure のスキルを身につけましょう」「資格合格者何名!」といった内容で終わっていた可能性もあるわけです。このように考え方が変われば行動も変わりますし、得られる機会や知見も変わります。受講生には、自ら企画する機会は身近にあるということを知り、そのチャンスに気づけるようになってほしいと思っています。
金子 秋吉さんのおっしゃる通り、MS Academy の成果は受講生の皆さん自身がどのように変化したかによってわかると思います。今、社会から求められているのは、デジタル技術を使いこなせる人材です。MS Academy の受講がきっかけとなって、さまざまなテクノロジーに触れたり、それを使って何ができるか考えたりするスイッチが入ったのであれば、そのスイッチをずっとオンのままにしておいてほしいと思います。
秋吉 前述の通り、SMBC グループでは DX 人材に限らず、課題解消のために適材適所で技術を選別する力とそれを実現する力のある若手中堅層の人材を増やしていきたいと考えています。これからはさらに内製開発にも力を入れていきますので、そういった人材、仲間を増やさないと変革は実現できません。ぜひ日本マイクロソフトの力もお貸しいただき、共に推進していきたいと思います。
金子 もちろんです。これからの DX においては、人材を内部で育成しなければならないという部分に気づけるかどうかが重要だと思っています。SMBC グループは、秋吉さんのような現場に近い方から経営層まで、皆さんにその課題認識があり、必要な取り組みを模索していることが素晴らしいと感じています。
秋吉 外部に発注すればそれで済んでしまうことがありますが、それでは新たな価値実現のための力に持続性が無くなってしまいますからね。それに、外部に任せてしまうと内部の人間の経験や育成の機会を逃してしまうかもしれません。今はクラウドサービスを活用すれば、オンプレミスの頃と比べ、さまざまなことが簡単に自分の手で実現できる時代です。例えばマイクロソフトが新しいサービスを発表したら明日から使いましょう、という人材がいるかどうかでビジネスのスピード感は大きく変わってくると思います。その新たな技術を自ら学び、課題解消のための企画と提案ができる人材が必要なのです。
金子 私たちがお客さまの人材育成をお手伝いする背景には「地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする」という企業ミッションがあります。変革のタネは必ずお客さまの中にあるはずです。そのタネから花を咲かせるためにできるお手伝いのひとつが MS Academy だと思いますし、これからもデジタルの技術で支援してまいりたいと思っています。
秋吉 ぜひこの MS Academy をブラッシュアップして一般にも広めてほしいと思っています。今はもうオンプレミスでハードを調達しなければいけないという時代ではありません。企画立案の力と巻き込み力を持ってマイクロソフトの各サービスを使いこなせる人材なら、必ずや新しい価値は生み出せるはずです。