電子署名の仕組み/導入メリットとは? 今すぐ使える代表的なサービスを解説
2021 年 6 月 30 日
リモート ワーク導入が進む一方、依然として押印など、認証のために出社を余儀なくされるケースも少なくありません。株式会社ペーパーロジックの調査によると、2020 年 4 月、新型コロナ ウイルス感染拡大時の緊急事態宣言下に、押印のために出社を余儀なくされた会社員は約半数近くにのぼったと伝えられています。
そこで昨今注目されているのが電子署名です。印影や手書き署名などに相当する効力を発揮し、契約業務の効率化にもつながります。この記事では、電子署名の仕組みやメリット/デメリット、各種サービスについて解説します。
1. 電子署名とは?
初めに、電子署名の定義と仕組み、効力について紹介します。
電子署名の定義と仕組み
まず電子署名とは、「署名」とありますが、実際に署名をしたり書いたりするわけではありません。印鑑を押したりサインをしたりしなくても、電子ファイルが本物であること (真正性) や改変されていないこと (原本性) をコンピューター上で証明する仕組みのことを指します。
電子ファイル上に、署名のように「だれが」「いつ」その文書の内容に同意し、その後改変や更新がされていないという情報が埋め込まれており、その情報の正しさが「電子証明書」によって証明されます。この電子証明書の発行に際しては厳しい本人確認や審査が必要で、第三者機関である「認証局 (CA)」と呼ばれる発行機関でしか発行することができません。
一見すると「本当にこれで書類を作成した本人が署名したと証明できるのか?」と疑問に思う方も多いかもしれませんが、電子署名では「公開鍵暗号方式」 と呼ばれる暗号技術のしくみを利用しており、当人であることを証明しています。
(画像出典:JPIDEC 一般財団法人日本情報経済社会推進協会)
公開暗号鍵方式においては、データを暗号化するための本人しか知らない「秘密鍵」と、復号化するためのインターネット上に公開された「公開鍵」のペアの鍵が使われています。文書を作成したら、自分の秘密鍵で文書に電子署名し、相手に文書を送ります。通常は使用しているアプリケーションが秘密鍵を使って電子署名データを生成し、証明書や公開鍵を埋め込むところまで実行してくれるので、電子署名の詳細をユーザーが意識する必要はありません。
送られた相手は、秘密鍵と一対になった公開鍵によって文書を復号化します。鍵はペアでなければ動作しませんので、正しく復号化できたということは、ペアになった秘密鍵で暗号化されたということ、つまり、本人が作成し、作成後改変されていないことの証明になります。
電子署名の効力
先に述べたように、電子証明書は厳しく審査された電子証明書と暗号化技術によって署名と同じような真正性と原本性を担保するものですが、法律的にはどの程度電子署名は認められているのでしょうか。
日本では 2001 年から「電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)」が施行されており、電子署名には印鑑や手書きのサインなどと同等に法的な効力があることが認められています。また、海外でもアメリカや EU など多くの国において電子署名は法的に有効と認められているため、国際的な契約においても使用可能です。
ただし、電子署名は永遠に効力があるわけではなく、有効期限があることに注意しなくてはいけません。電子署名の有効期間はタイムスタンプを付与していない場合が 1 ~ 3 年で、タイムスタンプを付与している場合は 10 年間適用されます。しかし、10 年以上にわたる契約も考えられることから、現在は「長期署名」と言われる国際規格も策定されています。電子署名を使用して契約する際には、契約期間についても注意しておくことが大切です。また、認証局は 1 つしかないわけではなく、目的に適応した認証局があり、署名の種類によって使い分ける必要があります。
ちなみに、タイム スタンプとは、電子文書の確定時刻を証明するための技術的な仕組みです。電子契約にあたっては、電子文書の完全性を証明する必要がありますが。この完全性を保証し電子文書に法的効力を持たせるには、タイム スタンプと電子署名の両方が必要になります。簡単に説明すると、電子署名の完全性の証明には、電子文書に「いつ」「誰が」「何を」記しているのかという 3 つ要素が改ざんされていない事の証明が必要になり、そもうち「いつ」「何を」を証明するのがタイム スタンプで、「誰が」「何を」を証明する電子署名となります。
2. 電子署名のメリット/デメリット
書類作成と承認業務をスムーズに推進する電子署名ですが、主なメリット/デメリットにはどんなものがあるでしょうか。
電子署名のメリット
電子署名導入によって期待できる主なメリットは、以下の 4 つです。
- リモート ワーク/テレワークの推進: 電子署名を導入することにより、働く場所を問わず決裁業務を進めることが可能になります。承認を得るために出勤するという状況を減らすことができるので、リモート ワークやテレワークを推進し、働き方改革や働き方の多様化に大きな効果をもたらします。
- 業務効率化: 契約書などの書類作成にあたって印刷、製本、押印などの作業の必要がなくなり、業務時間を削減することができます。また、契約書などを郵送する必要もないので、郵送の工程や時間の削減につながる点もメリットといえるでしょう。
- コスト削減: 先述のように印刷や郵送のプロセスがなくなるため、そのための紙や郵送に要する費用を削減できます。これにより本質的なペーパーレス化が実現できます。併せて、業務効率化による人的コストの削減も期待できます。また、電子契約の場合は印紙税が不要となるため、印紙のコストを抑えることも可能です。書類を保管するための物理的なスペースも必要なくなるので、オフィスのコストも低減できます。
- コンプライアンス (法令遵守) の強化: 紙の書類の方が改ざんを防止しやすいと思われがちですが、実は紙の書類には他人による押印や改ざんなどのリスクや、証拠がはっきり見えにくいという短所があります。その点、電子署名は変更のログが残るため改ざんを防ぐことができるだけでなく、署名の本人証明もしやすいため、コンプライアンスの強化にも役立ちます。
電子署名のデメリット
電子署名の導入によって引き起こされる可能性があるおもなデメリットは、以下のとおりです。
- 取引先の理解が必要: 契約は相手があって成り立つものなので、取引先が電子署名や電子契約の形態を認めていることが必要です。取引先が電子署名による契約に対応していない場合は、理解を得るのに時間がかかるケースも予想されます。
- 電子契約が一部認められていない契約もある: ほとんどの契約で電子署名は認められているものの、以下のような一部の契約においては、電子署名による電子契約が認められていません。
・定期借地契約 (借地借家法 22 条)
・定期建物賃貸借契約 (借地借家法 38 条 1 項)
・投資信託契約の約款
ただし、2021 年 1 月から労働者派遣 (個別) 契約の電子化が解禁されたように、電子契約は広く認められる方向にあります。そのため、将来的に上記の契約が認められる可能性も否定できません。 - サイバー攻撃の可能性がある: 電子署名による電子契約では、データが流出してしまうリスクがゼロではないため、セキュリティ基準を設けたうえで、しっかり対策を講じておく必要があります。
3. 電子署名を導入する方法
では、実際に自社で電子署名を導入する場合、どうすればよいのでしょうか。電子署名導入には大きく分けて「当事者署名型」と「事業者署名型」の 2 つの方法があります。ここではそれぞれの特徴について見ていきましょう。
当事者署名型の特徴
当事者署名型とは、契約する本人が電子証明書を取得し、本人であることを証明して本人だけが利用できる環境で署名する形の電子署名のことです。
税金を払う時に e-Tax を使ったことがある方は、その方法を思い出すとわかりやすいかもしれません。事前に第三者機関に本人であることを証明する書類を提出することで、電子証明書が格納された IC カードや電子ファイルを発行してもらいます。e-Tax ではこれがマイ ナンバー カードに当たります。
また、当事者署名型には「ローカル署名」と「リモート署名」の 2 つの方法があります。e-Tax などでは電子証明書を自分で保管し、利用時に自分の PC などのローカル環境で署名を行います。これがローカル署名という方法ですが、契約者本人が電子証明書と秘密鍵を管理する負担が大きいため、現在は電子証明書と秘密鍵をサーバー上で管理するリモート署名のほうが一般的です。
事業者署名型の特徴
上記の当事者署名型は、2 つ以上の企業で契約を締結する際、各々が電子証明書を持っておく必要があります。企業の場合、人事異動で署名者が変わるたびに身元確認と電子証明書の交付を受ける必要があるため、手間や時間がかかることも少なくありません。
そのため、現在ではもっと手軽に電子署名を行うために、「事業者署名型」といわれる電子契約サービスを提供している企業のサービスを使うことが一般的になりました。事業者署名型では、各企業がサービス事業者と契約し署名の指示を行うと、サービス事業者が自身の署名鍵を使って電子署名を行うという形になっています。
この方法は、法的に「本人が署名した」といえるのかどうかが争点でした。しかし、2020 年に総務省、法務省、経済産業省の連名で、事業者署名型の電子署名については 2 段階認証など一定の要件を満たすことで、本人が本人の意思に基づいて契約したといえるという公式見解が発表されました。これにより、電子署名のハードルは低くなり、現在多くの企業がこの方法を採用しつつあります。
4. 電子契約サービスの代表的な製品とその使い方
現在、電子署名を使用した電子契約では、事業者署名型のサービスなどさまざまな事業者の電子契約サービスを利用することが一般的です。中には無料のサービスもあります。ここでは、その代表的な製品を紹介するとともに、Microsoft Office など外部製品との連携について解説します。
クラウドサイン
(画像出典:クラウドサイン Web サイト)
「クラウドサイン」は弁護士ドットコム株式会社が提供している電子契約サービスです。日本初の Web 完結型契約サービスとして 2015 年から提供され、14 万社以上に導入されています。日本の法律に特化した弁護士が監修しており、契約書だけでなく、発注書、納品書、検収書、請求書、領収書など、対外的なやりとりを行う文書に利用することができるほか、契約書のテンプレート機能や管理機能も豊富です。
外部製品との連携については、スタンダード プラン以上には標準で用意されている API「クラウドサインWeb API」を使って Salesforce やサイボウズなど、企業の社内システムと API とを連携することが可能です。これにより、社内稟議のワークフローと契約締結業務を自動連携させるといった便利な使い方ができるようになっています。
また、別売りの製品ではありますが、SBテクノロジー株式会社が提供している「クラウドサイン for Microsoft Teams」によって、多くの企業で使われているコラボレーション ツールである Microsoft Teams とのシームレスな連携も可能になります。Teams で契約内容の調整や確認をした後、クラウドサインで電子署名した契約書を送信し、締結済みの契約書を Teams のドキュメント共有/管理ツール「Microsoft SharePoint」へ自動的に取り込むなど、Team を使用している環境で契約情報を一元管理することも可能です。
DocuSign
(画像出典:Docusign Web サイト)
DocuSign は、世界 180 か国以上、75 万社以上の企業で導入されている電子署名サービスです。もともとは米国発のサービスですが、現在日本ではドキュサイン・ジャパン株式会社がサービス提供しています。契約書や発注書、社内承認資料の電子化に対応しているほか、シンプルな操作性でさまざまな端末から利用できます。モバイル アプリからの承認にも対応しているので、リモート ワークでも業務が止まることはありません。また、世界の 44 言語で署名可能なため、国際的な取引が多い企業にも適しています。
外部連携用に標準で API 機能も搭載しており、SAP や Salesforce など広く使われている企業の基幹システムとも連携可能です。Microsoft 製品との連携にも優れており、Microsoft Word、Microsoft Outlook、Microsoft SharePoint、Microsoft Dynamics 365、Microsoft Flow などの製品と連携するためのアドインが用意されているだけでなく、エンタープライズ向けの IT システムに組み込んで利用することもできます。
Adobe Sign
(画像出典:Adobe Web サイト)
Adobe Sign は PDF や Photoshop、Illustrator といったソフトで有名なアドビ株式会社が提供している電子契約のサービスです。電子文書で標準的に使用されている PDF 形式をベースに作られているため、PDF のエディターとして一般的な Adobe Acrobat DC とも容易に連携できます。また、署名を依頼された側の特別な設定は不要で、メール アドレスとブラウザーのみで対応できます。
利用予定のない機能を省くことでコストを抑えるなど、ライセンス数や機能の細かいカスタマイズが可能となっているほか、多言語対応しているため国際的な契約の際にも利用可能です。また、Microsoft、Google、Salesforce など国内外の各種システムとの連携性の良さも特長といえます。とりわけ Microsoft 製品に関しては推奨ソリューションとなっていることもあり、Microsoft 365 のアプリケーションから直接 PDF を作成して編集したり、Microsoft Dynamics 365 から直接署名をしたり、Microsoft Teams の承認プロセスに組み込んで使用したりと、シームレスな連携を実現しています。
GMOサイン
(画像出典:GMOサイン Web サイト)
GMOサインはインターネット大手の GMOグループに属する、GMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社が提供している電子契約サービスです。国内シェア No.1 の電子認証局、GMOグローバルサインを同じグループに持つことで電子証明書との連携もスムーズで、安心できる契約サービスを実現しています。
署名タイプは「契約印タイプ」と「実印タイプ」から選択可能です。契約印タイプでは電子証明書を事前に証明することなく、メール認証によるシステム ログでより簡単に本人性を証明するタイプの電子契約ができます。
一方、実印タイプは、電子認証局発行の電子証明書によって本人性を担保するもので、より厳格な運用をする場合にも対応可能です。外部連携については、Salesforce や kintone などと連携できるオプション パックが用意されています。
5. まとめ
電子署名の導入により契約や承認作業を電子化すると、リモート ワーク化を推進できるだけでなく、業務の効率化やコスト削減にもつながります。
現在は手軽に導入できるさまざまな電子契約サービスが提供されており、企業規模や目的に応じて電子署名の取得や契約管理などを容易に行うことができます。また、電子契約サービスは基幹システムや営業支援システムなど、ほかの製品との連携も可能です。
電子署名は今後さらに普及が進むことが予想されます。連携可能なサービスを比較しながら、社内環境に適した電子署名サービスの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
リモートワーク・ハイブリッドワークに適した環境設置のために
リモートワーク・テレワーク・在宅勤務環境を安全・快適に実現するためには、「セキュリティの確保」「Web 会議のためのデバイス選択」「グループワークのためのアプリケーション」など検討する課題も多く、またこれらを潤沢な資金で準備するのではなくコスト削減につなげることが大切です。
これらの達成のための Microsoft 365、Excel の使い方や、リモートワーク・ハイブリッドワーク環境を充実させるために以下の記事が参考になります。
- Microsoft 365・Excel: Microsoft 365 から、Excel の使い方など生産性を向上させるコラム
- Teams・Web 会議: Microsoft Teams を始め、Web 会議をワンランクアップさせるコラム
- リモートワーク・テレワーク: リモートワークやテレワークなど、新しい働き方のお役立ちコラム
ご購入検討の問い合わせ先
Web フォームで購入相談
本情報の内容 (添付文書、リンク先などを含む) は、作成日時点でのものであり、予告なく変更される場合があります。