1. DX 人材が不足している
まずは、DX 人材がどの程度不足していて、何が課題になっているのか、現状把握からはじめたいと思います。
1-1. DX 人材が確保できない要因
総務省が 2021 年 7 月 30 日に公表した「令和 3 年版情報通信白書」では、DX を推進する上でのデジタル人材不足の深刻化を指摘。「人材不足」を感じる日本企業は 5 割を超え、アメリカをはじめとする諸外国と比べて突出して高い数値になっていることが示されました。
その要因として、デジタル人材の多くが事業会社ではなく、いわゆる「ベンダー」と呼ばれる IT 企業に集中している点があげられています。要するに、これまでの IT 化の歴史の中で多くの企業が、自社システムの構築や運用を自社ではなく、すべて外注に丸投げしていたという傾向が読み取れます。
しかし、これはあくまで IT 人材の話であって、DX 人材の話ではありません。詳しくは後述しますが、DX という新しい概念を正しく理解しないと、IT 人材 = デジタル人材 = DX 人材と勘違いをしてしまいます。これも真の DX 人材が確保できない、ひとつの要因と考えられます。
1-2. 人材不足による DX の遅れが顕著に
経済産業省が公開する「DX レポート」という資料の中に "企業における DX 推進の手がかり" が記されています。2018 年 9 月に第一弾として『DX レポート ~ IT システム「2025 年の崖」克服と DX の本格的な展開~』というタイトルのレポートを発信。多くの企業がレガシー システムを抱え、システムの保守運用に人材とコストがとられているとの指摘がありました。人材不足による DX の遅れにより、2025 年には最大で年間 12 兆円の経済損失が発生する可能性があると予測。それが「2025 年の崖」と言われる経済リスクです。
1-3. 進む IT 人材不足
具体的にどのくらいの人材が不足する見込みなのでしょうか。そもそも比較的新しい DX 人材の定義があいまいなため予測は難しいのですが、ひとつの指標として IT 人材の不足に対する公式な予測データがあるので、それをヒントに考えてみたいと思います。
2019 年に発行された独立行政法人情報処理推進機構 (IPA) 社会基盤センターの IT 人材白書によると、IT 企業における IT 人材不足は、2016 年の 75.5% から 2018 年の 92% へと上昇を続けています。AI や IoT、インターネットを介したサービスの拡大に伴い、IT ビジネスの市場は急激に拡大を続けています。当然、それらの技術やサービスを支えるエンジニア不足も加速し、各企業が優秀な人材確保にやっきになっています。
1-4. 先端 IT 市場における IT 人材不足が深刻化
このまま何も対策を講じないままでいたら、今後、IT 人材の需給バランスはどうなっていくのでしょうか。みずほ情報総研株式会社が発行する「IT 人材需給に関する調査」によると、2030 年には最大 79 万人の IT 人材が不足する可能性があるとされています。
その要因のひとつに、少子高齢化による国内の労働人口自体の減少があげられます。それに加え IT 人材の需要が急激に増えていることで、需要と供給の差が広がっているのです。特に AI や IoT を活用する先端 IT 市場における IT 人材不足が深刻化。このまま同じような状況が続けば、2030 年には需要の半分程度しか満たせないという試算もあります。特に成長著しい AI 関連においては、深刻な人材不足の可能性が想定されています。AI 市場の年平均成長率を 16.1% とした場合、2030 年には最大 14.5 万人の人材不足が起こると言われています。
1-5. ベンダーとの関係性という根本的問題
また、非 IT 企業、すなわち事業会社において IT 人材が少なく、育成も怠ってきたという要因も挙げられます。先ほども説明したように、多くの日本企業がこれまで、外部ベンダーにシステム構築や運用を丸投げしてきたため、社内に知見が残っていません。事業やサービスが複雑化してきたうえに、ベンダーでも人材が流動的になり、古くから利用しているレガシー システムの構成を理解しているエンジニアがいなくなるという問題も生じています。