1. DX の現状
まずは、日本における DX 推進の状況について把握しましょう。
1-1. DX が進んでいる企業はどれくらいあるか?
2018 年 9 月に経済産業省から発表された「DX レポート」をきっかけに認知が広まった「DX」という言葉。今では、あらゆるビジネス シーンで広がりを見せていますが、「DX」推進を実行に移している企業は、それほど多くはありません。2020 年に、一般社団法人日本能率協会が実施した「DX の取り組み状況」の調査によると、全国主要企業約 530 社中、5 割を超える企業が DX 推進、もしくは検討に着手済みと回答していますが、中小企業に限定すると 34.9% と低く、企業規模によってばらつきがあることがわかります。しかも、これはあくまで主要企業を対象にした調査です。小規模な事業者や公共団体、特に地方行政などにおいては著しく DX 化が遅れているといわれています。実態としては、いまだに日本国内企業の 9 割が DX 未着手、もしくは DX 途上にとどまっているという見方もあります。
1-2. DX が進まない要因
その根底にあるのは、企業や組織の上層部の DX に対する不理解、IT 人材の不足などの諸問題です。特に比較的年齢層が高い経営者においては、いまだにデジタルに対する認識が薄く、従来のビジネス スタイルで問題がないと考えています。また、DX を推進しなくてはならないと思っても、一体、何をどこから始めて良いのか、わからないという経営者もいます。さらに、社内を見渡しても、IT に対する知識を有する人材がいないという課題もあります。
1-3. 実質的に DX を推進している企業はごく一握り
さらに深刻なのが、いまだに DX = デジタル化・IT 化と誤解している企業があるということ。単に従来の仕組みをデジタル化したり、既存のツールやクラウドを活用しただけでは DX を推進できている状態とはいえません。多くの企業が DX の本質を理解しておらず、DX を進めた気になっています。その傾向は、先の調査結果の中にも反映されているため、実質的に DX を推進している企業は、ごく一握りであると推測されます。これはある意味、仕方のないことかもしれません。DX の定義はわかりづらく、企業それぞれの規模や業種、状態によって目指すべき DX 目標が違っているからに他なりません。
1-4. DX の本質を理解する重要性
そういった意味でも、まずは自分の会社にとって最適な DX とは何か? 目指すべき理想像はどういうものかを議論し、明確にする必要があります。DX はあくまで手段であり、DX によって何を変革するのかを定めていなければ、説得力は生まれず、社員を巻き込んで前に進めることができません。本質を理解していないため、クラウド サービスの活用やリモート ワークの導入など、あまりにも初歩的な施策にとどまり、DX 推進の変革プロセスに辿り着けていない企業がほとんどというのが現状です。
1-5. DX のモデル ケースが少ない
これまでの日本の産業界は、前例を意識し、それをブラッシュアップして連続的な進化を遂げてきたという特性を持っています。そのため、DX のようにモデル ケースのないまったく新しい概念に対して戸惑いを覚えるのかもしれません。DX の先進国はアメリカです。多くの企業が早くから DX に取り込み、実際に成果をあげるに至っています。もちろん、日本企業の中でも、まだ道半ばではありますが、成功事例と呼ばれるものが出てきました。これらの先進事例、モデル ケースが増えてくれば、それらを参考にしながら DX を進めていく、そんな機運が生まれてくるかもしれません。
次項以降で、DX 推進の第一歩を踏み出している国内外企業の取り組みを紹介。どのように組織改革を進めてきたのか、ビジネス モデルを変えていったのか。自社の DX 推進の参考にしていただければと思います。